Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第200号(2008.12.05発行)

第200号号(2008.12.05 発行)

海洋政策の総合的推進に向けて活発な議論を

[KEYWORDS]海洋政策の総合的推進/海洋基本法/海洋基本計画
海洋政策研究財団常務理事◆寺島紘士

2000年の発刊以降、わが国の海洋政策は大きく進展し、海洋基本法が制定され、本年3月には初の海洋基本計画が閣議決定された。
わが国は、「新たな海洋立国」への発展段階に入ったが、その海洋政策は、まだまだ部門別縦割りの取り組みに引きずられている。
全体的視野を確保して海洋政策を総合的・計画的に実施していくために、今後とも活発な議論が必要である。

Ship & Ocean Newsletter第200号を迎える

2000年8月に発刊したShip & Ocean Newsletterが、本号で第200号の節目を迎えた。
本誌の発刊を推進した日本財団の笹川理事長(当時、現在会長)は、その創刊予告号(2000.7.20)でその目的を次のように述べている。
―私たちは、海のパラダイムが転換したことを自覚して、21世紀にふさわしい海洋政策の早急な樹立を目指さなければなりません。そのためには、人類と海洋の関わりの広範なことに鑑み、海洋管理に広く衆知を集めて取り組む必要があります。
その一助とするために、このたび日本財団及び海洋政策研究財団※1は、内外の研究者の協力を得て、個々の行政区分や専門領域にとらわれない自由な立場で総合的な海洋管理の諸問題を調査研究し、内外に政策提言を行うことを目的として海洋シンクタンクを立ち上げました。このニューズレターは、海洋問題に関心を持つ皆様に、このシンクタンクの活動をお知らせするホットラインとして、また、海洋に関する総合的な議論を行う場として発行するものです。―
当時を振り返ると、1994年には、国連海洋法条約が発効し、地球サミットでの「持続可能な開発」原則および『行動計画アジェンダ21』の採択とあわせて、ここに海洋の開発、利用、保全等に取り組む世界共通の法的基盤と政策的枠組みができ、人類の「海洋管理」の取り組みが始まっていた。
世界各国は、海洋政策の策定、行政・研究組織の整備、広範な利用者の意見を反映する手続きの制定などに熱心に取り組み始めたが、世界で6番目の広大な排他的経済水域を有し、海運、造船、水産、科学技術など多くの分野で世界のトップ水準にあるわが国は、世界的潮流である「海洋管理」の重要性に対する認識が薄く、海洋問題への総合的取り組みという点で各国に遅れを取っていた。海洋行政は、多くの省庁に縦割りに細分化されたままで、海洋問題を総合的に議論する場もなかった。

海洋基本法制定までの道のり

日本財団は、Ship & Ocean Newsletterの発刊と並行して、2000年に有識者による海洋管理研究会を設置してわが国の海洋政策の研究を開始し、2002年3月に『海洋と日本:21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言』を取りまとめ、発表した。海洋管理の基本理念、海洋基本法制定による海洋政策の構築、行政機構の整備等6項目にわたる提言は、わが国の海洋政策の取り組みの方向を示した本格的提言の嚆矢である。しかし、当時は、まだ、本提言に対する為政者や社会の反応は鈍かった。
わが国で総合的な海洋政策の取り組みが本格的に動き出すきっかけを作ったのは、海洋政策研究財団が安倍官房長官(当時)に提出した『21世紀の海洋政策への提言』である。当財団は、2002年4月に海洋政策研究所を設立して、有識者とともに、日本財団提言をもとにさらに総合的な海洋政策の研究を深め、2005年11月にその成果を提言として発表した。
当時、日本周辺の海域では近隣諸国との間で海域の境界画定や資源開発・治安等に関して対立が起こり、海洋問題への総合的取り組みの必要性がようやく政治家や関係者の間で認識されるようになっていた。このため、自由民主党がこの提言を受け入れ、さらに同党の呼びかけで超党派の政治家と海洋関係各界の有識者により海洋基本法研究会(代表世話人武見敬三参議院議員(当時)、座長石破茂衆議院議員)が2006年4月に設立された。同研究会は、海洋関係省庁もオブザーバー参加し、12月まで10回にわたって審議し、海洋政策大綱および海洋基本法案の概要を取りまとめた。
海洋政策大綱は、"新たな海洋立国を目指して"という副題の下に、総合的な海洋政策を推進するために、海洋基本法の制定等必要な措置を講じるよう求めた。
自民、公明、民主の三党は、海洋基本法案を、2007年4月に議員立法で国会に提案し、同法案は賛成多数で可決、成立した。海洋基本法は、「海の日」として親しまれてきた7月20日に施行され、ここに、「海洋の総合的管理」など6つの基本理念の下に海洋基本計画を策定し、海洋の諸問題に総合的に取り組むことを明確に定めた法制度が、わが国に確立した。同法は、また、わが国が総合的に取り組むべき12の海洋の基本的施策を定め、さらに海洋政策を総合的に推進する司令塔として内閣に総理大臣を本部長とする総合海洋政策本部を設置した。

海洋基本計画の閣議決定

今、わが国は、管轄海域の画定、海洋資源の開発・保存、海洋の安全確保、排他的経済水域の開発・利用・保全、沿岸域の総合的管理、離島の保全・管理・振興、海上輸送の確保などの海洋の諸問題に早急な対応を迫られている。そのため、基本法施行以来、総合海洋政策本部は、最優先で海洋基本計画の策定に取り組み、わが国初の海洋基本計画が、2008年3月に閣議決定された。策定過程の本年2月には海洋基本計画(原案)がパブリックコメントに付され、多くの個人・団体が意見を提出した。
海洋基本計画は、海洋に関する諸施策を、基本法が定める基本理念の下に調整・体系化し、総合的・計画的に推進する上で重要な役割を担っている。今回決定された海洋基本計画に対しては、わが国初の基本計画として積極的に評価する声がある一方で、取り上げた施策の多くは具体的内容、特に達成目標、ロードマップなどが明確でないという辛口の意見も聞かれる。そこで、当財団では、今後の取り組みの参考にするため、海洋基本計画の評価に関するアンケート調査を実施した。多くの回答をいただいたので、結果の分析がまとまり次第、皆さまの議論の参考に供したいと考えている。

海洋政策の総合的推進に向けて活発な議論を

海洋基本計画の閣議決定により、わが国の「新たな海洋立国」への取り組みは、次の発展段階に入った。しかし、その海洋政策は、まだまだ部門別縦割りの取り組みに引きずられている。いかにして全体的視野を確保して海洋政策を総合的・計画的に実施していくかが今後の課題である。当財団は、シンクタンク活動を一層充実させてその課題解決に貢献していく所存である。
Ship & Ocean Newsletterは、発刊以来、海洋政策に関するシンクタンク活動の成果や海洋基本法に関する動きをその都度誌上で取り上げてきた※2。これらが海洋に対する関心を高める一助となり、また、海洋基本法制定や海洋基本計画策定にいささかなりと貢献できたのであればうれしいと思う。今後とも、海洋政策のホットラインとして、また海洋に関する総合的な議論の場として、日本財団の支援のもとに、その使命を果たしていきたいと考えている。皆さまにも引き続き活発な議論をお願いしたい。(了)

※1 当時はシップ・アンド・オーシャン財団
※2 第41号(2002.4.20):<特集>わが国、海洋政策への提言第130号(2006.1.5):<特集>21世紀の海洋政策に関する提言、第143号(2006.7.20):<特集>「海の日」-海洋国日本の発展を願って、第156号(2007.2.5):<インフォメーション>海洋基本法の制定を-新たな海洋立国を目指して、第158号(2007.3.5):新たな海洋立国を目指して、第163号(2007.5.20):<特集>海洋基本法に思う、第167号(2007.7.20)および第168号(2007.8.5):<特集>海洋基本法の施行を祝して、第186号(2008.5.5)海洋基本計画と海洋の管理など。このほか、海洋各分野にわたって多数の海洋政策に関するオピニオンと情報を掲載。

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