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オーシャンニューズレター

第168号(2007.08.05発行)

第168号(2007.08.05 発行)

海洋基本法に基づく海洋政策の推進

前国土交通事務次官◆安富正文

海洋政策を総合的かつ体系的に推進することが重要になっているわが国の海洋を巡る状況に鑑みると、海洋基本法は極めて意義がある。
今後、海洋基本法が掲げる理念等を具体化するための施策を海洋基本計画に位置づけていくことが重要であると考えられる。
海洋政策の多くの分野を担っている国土交通省としても積極的な役割を果たしていきたい。

1.海洋基本法の成立

四面環海の「海洋国家」であるわが国は、はるか昔から人や文化の往来、物の輸送、産業、生活等の分野において、海と深く関わってきており、海の恩恵を受けてきた。一方、わが国の海洋を巡っては、海上における安全や防災、海洋環境の保全、海洋の開発・利用、海洋産業の活性化等多くの課題があるが、これらは独立に存在するのではなく、相互に関係があることから、今後のわが国の発展のためにも、関連する施策を総合的に進めていくことが必要となっている。

また、世界的には、1992年のアジェンダ21の採択や1994年の国連海洋法条約の発効以降、アジアを含む各国が、海洋の持続可能な開発を推進する一方、自国の権益の確保のための取り組みを強めており、これらが相まって、総合的な海洋政策の策定等の取り組みが積極的に進められている。さらに、海洋汚染の防止、テロの防止等に係る多国間連携による対応が進展しつつある。

こうした中、本年7月20日には、今後のわが国の海洋政策の柱となる海洋基本法が、海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律とともに施行された。海洋基本法は、「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)その他の国際約束に基づき、並びに海洋の持続可能な開発及び利用を実現するための国際的な取組の中で、わが国が国際的協調の下に、海洋の平和的かつ積極的な開発及び利用と海洋環境の保全との調和を図る新たな海洋立国を実現することが重要である」との認識に立って、海洋政策の基本理念、海洋政策に関する国家戦略である海洋基本計画を策定すること等を定めている。さらに、同法では内閣総理大臣を本部長とし、内閣官房長官および海洋政策担当大臣を副本部長とする、すべての国務大臣からなる総合海洋政策本部を設置することとされており、初代海洋政策担当大臣として冬柴国土交通大臣が任命された。これは、海洋政策を総合的かつ体系的に推進することが重要になっている上述のわが国の海洋を巡る状況に鑑みると、極めて意義があると考える。

■海洋基本法の概要

1.本法の目的
海洋が人類等の生命を維持する上で不可欠な要素であるとともに、海洋法条約等に基づく国際的協調の下、新たな海洋立国を実現することが重要であることにかんがみ、海洋に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにし、海洋基本計画の策定その他海洋に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、総合海洋政策本部を設置することにより、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進する。
2.海洋政策の基本理念
?海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和、?海洋の安全の確保、?科学的知見の充実、?海洋産業の健全な発展、?海洋の総合的管理、?国際的協調
3.国、地方公共団体、事業者、国民の責務
4.海洋基本計画
政府は、海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、海洋基本計画を定めなければならない。
5.海洋に関する国の基本的施策
?海洋資源の開発及び利用の推進、?海洋環境の保全、?排他的経済水域等の開発等の推進、?海上輸送の確保、?海洋の安全の確保、?海洋調査の推進、?研究開発の推進、?海洋産業の振興、?沿岸域の総合的管理、?離島の保全等、?国際協力の推進、?海洋に関する国民の理解増進
6.海洋政策担当大臣の設置
7.総合海洋政策本部の設置
海洋政策を集中的かつ総合的に推進するため、内閣に、総合海洋政策本部を置く。
8.その他
その他、海洋に関する施策を推進するため、所要の規定を整備する。

2.「新たな海洋立国」の実現に向けて

今後、海洋基本法に基づく総合海洋政策本部において、学識経験者等からなる参与会議の意見も聴きつつ、海洋基本計画が立案されていくことになる。海洋政策担当大臣および内閣官房が立案・調整を主導していくことになるが、海洋基本計画を「新たな海洋立国」を実現していくためにふさわしいものとするためには、海洋基本法が掲げる理念等を具体化するための施策を位置づけていくことが重要であると考えられる。

国土交通省は、海上の安全の確保、海上の治安・秩序の確保、国土保全・防災対策、海洋環境の保全、海上輸送の確保、海事産業の振興、海洋気象や海底地形の調査など、海洋政策の多くの分野を多くの部局で進めている。このため、本ニュースレター143号(2006年7月20日号)で紹介したように、昨年6月に国土交通省として、海洋に関する課題についての基本認識と、基本的な施策の方向及び施策を推進するに当たっての基本的考え方を「国土交通省海洋・沿岸域政策大綱」として取りまとめるとともに、昨年7月に事務次官を本部長とする「国土交通省海洋・沿岸域政策推進本部」を設置した。

現在、国土交通省では、海洋基本法に基づき必要な施策を立案・推進していくため、上述の国土交通省海洋・沿岸域政策推進本部の本部長である事務次官が主催する懇談会として、本年6月から、海洋・沿岸域政策懇談会(座長:栗林忠男慶應義塾大学名誉教授)を開催している。同懇談会は、海洋政策に関する優れた識見を有する12名の学識経験者等に参画いただいており、6月上旬に開催した2回の懇談会では、すべての学識経験者から、海洋・沿岸域に関する課題とこれに対する施策について、プレゼンテーションが行われた。さらに、6月下旬に開催した第3回懇談会では、海洋・沿岸域に関する課題を整理していただいた。現在、これら課題を踏まえ、海洋基本法が掲げる「新たな海洋立国」を実現するための具体策について検討しているところである。

海洋政策は広範にわたるものであり、わが国でも多くの省庁が関係しているなか、今後、海洋基本法に基づき政府一体となって戦略的に取り組んでいくことがこれまで以上に重要になるが、海洋政策の多くの分野を担っている国土交通省としても積極的な役割を果たしていきたいと考えている。(了)

■海洋・沿岸域政策懇談会で提示された課題(抜粋)

1.海洋環境の保全(法第18条関係)
・貴重な自然等を保全するための国連海洋法条約に基づく特別敏感水域等の導入
2.排他的経済水域等の開発等の推進(法第19条関係)
・排他的経済水域等の管理等に関する国内法制の整備
3.海上輸送の確保(法第20条関係)
・トン数標準税制の導入等による日本船舶の確保、日本人船員の確保、日本船社やわが国港湾の国際競争力の強化
4.海洋の安全の確保(法第21条関係)
・領海警備等に関する法制の整備や海上保安庁の充実
・地球温暖化に伴う海面上昇に対応した海岸、港湾施設の改修
5.海洋調査の推進(法第22条関係)
・モニタリング体制の強化およびデータ管理・提供システムの確立
6.海洋科学技術に関する研究開発の推進等(法第23条関係)
・海洋産業立国を実現するための基盤技術開発に対する公的資金の投入
7.海洋産業の振興および国際競争力の強化(法第24条関係)
・海洋調査に関する産業、海洋に係る循環型産業等の振興
8.沿岸域の総合的管理(法第25条関係)
・管理権限や責任の帰属等を明確にした沿岸域管理に関する法制の整備
9.離島の保全等(法第26条関係)
・無人島を含む離島の保全、振興
10.国際連携・国際協力の推進(法第27条関係)
・国際海峡、海洋環境保護、海上交通安全等に関する協力促進
11.海洋に関する国民の理解の増進(法第28条関係)
・「海の日」の効果的な活用、海洋に関する教育の拡充

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