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オーシャンニューズレター

第168号(2007.08.05発行)

第168号(2007.08.05 発行)

東京大学の海洋知を構造化する―海洋アライアンスの挑戦

東京大学総長◆小宮山 宏

東京大学ではこの7月に「東京大学海洋アライアンス」を発足する。
海に関わる教育・研究に取り組んできた全学の研究者を相互に結びつけ、
領域横断的活動を発展させることを目的としている。
また、その活動を通じて、総合的かつ国際的視座から海洋における諸課題に取り組み、
海洋立国への将来ヴィジョンを打ち出すとともに、
その立案や実行を担うことができる海洋総合人材の育成を目指す。

海洋をめぐる課題を解決するために、蓄積された「知」の活用を

本年7月の海の日に「海洋基本法」が施行される運びと聞いております。わが国の海洋を取り巻く状況に新たな展開が期待されるということで、関係者の皆様に心よりお祝い申し上げます。

近年の海洋を巡る知識量の増大には目を見張るものがあり、それが地球のサステイナビリティに果たす役割の重要性がますます明らかになっております。海洋は地球温暖化対策、食糧資源およびエネルギー・鉱物資源の供給の場としての新たな役割を担っていると同時に、海洋の開発と保全、海洋環境の維持、海陸をまたがる安全防災、港湾・海運・物流、といった問題においても、総合的な理解と管理を必要としております。また、それらを国際協調の中で解決していくためのわが国が海洋政策、外交政策についても、今後整備されていくことでしょう。

こうした多方面に渡る現代的課題の解決にあたっては、アカデミアにおいて生み出され、蓄積された「知」を活用することが必要不可欠です。東京大学は、「海」を看板に掲げている海洋研究所や環境海洋工学専攻はもちろんのこと、多くの部局に海洋に直接関係する研究・教育に携わる教員が文系・理系を含め200名近くおり、図1に示すように海全体をカバーしうる膨大な量の「海洋知」の蓄積があります。また、知の創出と蓄積のみならず、教育・研究を通じた人材の育成も、大学が果たすべき大きな使命でありましょう。本学ではこれまで、上記のような知の蓄積を基盤として、理学系、工学系、農学生命科学、新領域創成科学をはじめとする各大学院研究科において教育を進めてまいりました。

東京大学海洋アライアンスの正式な発足と新たな挑戦

■図1 海全体をカバーする東京大学の海洋知の広がり
東京大学の海洋関連研究者の専門分野群。これでもすべてを網羅しているわけではない。

ところで、わが国が地球規模の課題を先取りし、その解決をリードしてゆくために、大学が行うべきことは何でしょうか。私はかねてより、知識が専門分野ごとに飛躍的に増大し複雑化した現代において、その全体像をとらえ、これを使いこなすために、「知の構造化」が必要であることを主張してきました。東京大学ではアクション・プラン2005-2008を発表し、時代の先頭に立つ大学として、「世界最高の人材育成の場の提供」や「新たな知の創造と活用」を宣言しております。その中でも、全学的な教育・研究に関わる取り組みとして知の構造化の促進やその教育における活用を掲げています。

このことは海洋関連分野も例外ではありません。すなわち、海洋に関する膨大な知の蓄積がはかられ、多様かつ複合的な課題が突きつけられている現状を考えれば、学問領域ごとに個別的に行われてきた教育・研究活動の相互の連携を活性化し、「海洋知の構造化」に基づく、分野横断的かつ総合的な教育・研究体制を整備することが求められます。

■図2 東京大学海洋アライアンス
(2007年7月3日全学機構として正式発足)

このような発想の下、東京大学では2007年7月に、6研究科、5附置研究所、2研究センターからなる全学的な組織として、「東京大学海洋アライアンス(機構長:浦環教授)」を発足させることにいたしました(図2参照)。海洋アライアンスは、これまで学内研究者による横断的システムを構築することを目的として、有志による活動を続けてきましたが、このたび、正式な全学組織(機構)として認められることになったものです。

海に関わる教育研究の部局横断的なネットワーク組織として、次世代を担う総合的人材の育成に取り組むとともに、海に関わる現代的課題の発掘と解決のためのシンクタンクの役割を果たし、もって海洋関連分野における教育研究の国際的な核を形成することを目的としています。

理系のみならず国際法や海洋法の専門家も含め、これまで個別の専攻や研究科単位で海に関わる教育・研究に取り組んできた全学の研究者を相互に結びつけ、領域横断的活動を発展させます。その活動を通じて、総合的かつ国際的視座から海洋における諸課題に取り組み、海洋立国への将来ヴィジョンを打ち出すとともに、その立案や実行を担うことができる国際人、すなわち海洋総合人材を育成したいと考えております。

おわりに

海洋アライアンスによる新たな挑戦はまだ緒についたばかりであり、人類にとっての海洋への取り組みに貢献するには、各方面からのご助言とご支援が不可欠です。ぜひ温かな目でその成長を見守っていただければと存じます。(了)

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