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第143号(2006.07.20 発行)【特集】「海の日」―海洋国日本の発展を願って
第143号(2006.07.20 発行)

海洋基本法の制定に向けて

参議院議員、自民党・海洋政策特別委員長、海洋基本法研究会代表世話人◆武見敬三

わが国は海洋を巡る歴史的な国難に直面している。
それを解決するには、体系的な国家海洋政策の策定、行政体制の整備、
短中長期にわたる海洋基本計画の実施が必要。
今こそ海洋国家日本としての海洋政策をきちんと策定すべき時である。
その根幹をなすのが「海洋基本法」の制定である。

海洋政策の歴史的側面

明治維新以来、近代国家としてのわが国の対外発展戦略には、常に海洋戦略をその一面として有していた。その海洋戦略は、海軍力に裏打ちされた帝国主義的側面を有する発展戦略であり、太平洋戦争の敗北により、完全に挫折するにいたった。戦後、軽武装・商業国家として自由貿易体制の下におけるわが国の国家戦略を、改めて、海洋国家としての側面から検討されることもあった。しかし、政府として明確に海洋国家としてわが国の海洋政策をとりまとめたことはなかった。実際に1994年11月、国連海洋法条約が発効した後においても、わが国の海洋問題への取り組みは遅遅として進まず、近隣諸国と比べても出遅れた感が否めない。

その理由の第一は、海洋問題が内閣官房・国土交通省・経済産業省・農林水産省・文部科学省・環境省・外務省・防衛庁等によりそれぞれに縦割り行政の下で所轄され、戦後歴代の内閣において、いずれも一体的に取り組む努力が為されてこなかったことである。第二に、領土問題及び排他的経済水域の境界線策定等、近隣諸国との敏感な問題の深刻化を憂慮し、排他的経済水域内におけるわが国の海洋権益確保等については常に外交的配慮を優先し、問題を先送りする傾向があったことである。

しかし、冷戦の終結、中国の経済発展に裏打ちされた太平洋に向けた海洋戦略の展開等によりわが国内において改めて海洋戦略を策定する必要性に対する理解が広まった。その契機となったのは東シナ海における日中両国間の海洋権益をめぐる対立の顕在化であった。

これまでの取り組み

私は11年前に参議院議員になり、自民党内では外交調査会で、参議院では外務委員会の委員として、海洋権益の問題に取り組んできた。当初はこの問題に対する反応は微々たるものであったが、徐々に事の重大性が注目されるようになり、2003年11月に自民党政務調査会のもとに海洋権益ワーキングチーム(WT・座長:武見敬三)を設置するに至った。その後、東シナ海で中国による海洋油・ガス田の開発が急ピッチで進められてきたほか、わが国周辺海域で次々と起こる重要な海洋問題を受け、同WTでは2004年6月15日、「海洋権益を守るための9つの提言」をとりまとめ発表した。

「海洋基本法研究会」(第1回会合)

後に同WTは海洋権益特別委員会に改組され、私は引き続き委員長を務めることとなった。昨年3月には「東シナ海における海洋権益を守るための緊急提言」を自民党の意見としてとりまとめ、これを小泉総理にも報告した。同4月には尖閣諸島および白樺等の油・ガス田の視察を超党派の国会議員14名とともに海上保安庁の飛行機で行った。さらに昨年12月には、かねてより検討してきた「海洋構築物に係わる安全水域の設定等に関する法律案」を作成。今年4月に与党政策責任者会議を通過させるところまできたが、残念ながら継続審議となり、臨時国会で通過する予定となっている。なお、国内では平成17年度予算において、高性能三次元物理探査船の建造予算が3年間の国庫負担行為として総額247億円を計上。現在入札手続きが行われており、平成20年度からの運行を目指し、調達に向けた作業が進められている。三次元物理探査船を調達後は、これを用いてわが国周辺海域における石油・天然ガスおよびメタンハイドレート等の資源調査を10年程度かけて計画的に実施する予定である。

海洋基本法の制定に向けて

「海洋構築物に係わる安全水域の設定等に関する法律案」を策定する過程で、多くの議員から、根本的な海洋政策を語る法律が必要なのではないかという強い要望もあり、党の指示により、去る4月24日、上記の海洋権益特別委員会を改めて「海洋政策特別委員会」と名称変更し、海洋基本法等の海洋全般の政策を自民党として本格的に検討することとなった。また、並行して各政党や有識者で構成する「海洋基本法研究会」(代表世話人:武見敬三、共同座長:石破茂衆議院議員・栗林忠男慶応大学名誉教授、事務局:海洋政策研究財団)も同日発足し、関係府省局長クラスもオブザーバとして同席する中、ほぼ毎月1回のペースで会合を重ね立法化に向け議論を深めつつある。

「海洋基本法研究会」(第2回会合)

その研究会の席で、湯原哲夫・東大教授(海洋技術フォーラム代表)は、「EEZにおける産業活動を通じてのみ、その権益を確保できる」との意見を述べていたが、私はその考えに全面的に賛成である。海洋権益の確保はお題目だけに終わるのではなく、わが国のEEZ・大陸棚における学術研究、科学調査・観測、環境管理、資源探査・開発、産業利用などの持続的開発といった諸活動を実際に展開することを通じて実現できるものである。ところで、海洋権益の追求と国際協調はややもすると二極対立の相反する考え方として捉えられがちである。当然に、周囲を海に囲まれたわが国の海洋権益の確保は、安全保障の側面を考慮しつつ、まず国家政策として高い優先順位を与えられるべきである。その際、わが国は地球規模における持続可能な開発を念頭に置き、人類生存秩序の形成を目的とした普遍的価値と科学的根拠に基づく海洋政策を、その基本的枠組みとして確立しておかなければならない。海洋政策とはそうした高邁にして合理的な国家政策でなければならない。

そうした海洋政策の策定と推進のためには次のことが必要である。第一に、体系的な海洋政策をわが国の上位の国家的基本政策として明示的に位置付けること。第二に、その国家的海洋政策を統一的に実行するための関係府省間の連携を担保する行政上の仕組みを整備すること。第三に、国家的海洋政策の内容を肉付けする国としての海洋基本計画を具体的に策定し、短中長期にわたってこれを実施に移すこと。第四に、多岐に渡る海洋問題について、わが国国民の幅広い知識と理解を深めるための海洋教育の展開、である。

近隣諸国との間の海洋権益をめぐる対立に触発されて海洋権益を確保することへの国民的関心が高まりつつある。しかし、その関心が近視眼的で狭い国益追求型になってはならない。21世紀の初頭において、わが国の科学的英知を結集し、知的にも国際社会をリードする海洋国家日本を構想しなければならない。その根幹をなすのが「海洋基本法」である。来年の通常国会では是非、その制定を実現したいと考えている。すべての海洋関係者のご理解とご支持、ご協力とご支援をお願いしたい。(了)

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