Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第143号(2006.07.20発行)

第143号(2006.07.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆6月初旬、韓国の済州島を訪れた。海女の博物館開館を記念するシンポジウムに出席するためだ。東アジアにおける海女の歴史は古い。戦前から韓国の海女が日本やロシア、中国で活躍した。日本の海女も韓国へ渡った。海を越えた海女の歴史は意外と知られていない。

◆海は人や地域を結ぶいっぽうで、その交流を遮断することもある。一見、相反する性質をもつ海を今後どのように捉えるべきなのか。武見敬三氏は海洋基本法制定に向けての日本政府の取り組みを主導するなかで、まさにこの点に鋭くメスを入れた。つまり、海を国家の政策として捉えるさいには、地球規模の持続可能な開発を念頭におきながら、人類全体の生存と科学的な根拠に依拠すべきと提言されている。国益の問題がさまざまな次元で語られる今日、武見氏は海の彼方を見据えているのだ。

◆海洋基本法の理念は21世紀の今日、世界に誇れるものと思う。その理念を具体的な国家戦略目標として提起されたのが柘植綾夫氏である。第三期科学技術基本計画が策定されたなかで、提案されたプロジェクトや研究課題は多様かつ重層化されている。なかでも、海洋分野への重点的な戦略である地球規模の取り組みとして地球観測探査システムの推進がかかげられている。

◆さらに行政の立場から、海洋・沿岸域を多く所管する国土交通省の竹歳誠氏に、施策に応じた95のプロジェクトからなる政策大綱を紹介いただいた。そこでは、海をめぐる問題への総合的な取り組みが提案されている。この点はとくに強調してよい。海の管理、防災、利用、保護と保全、安全と親和性。これらは相互に関連し、しかも多元的な価値と多様な技術・知識の統合を目標としなければ実現できないことは明らかだ。

◆武見氏が冒頭で指摘する縦割りを排した統合化は、組織だけではなく、知識や技術を含めた全人的な活動なしには達成できない。というと、これはかなりの難題であると考えるむきもあるだろう。それは縦割りに慣れた側からの発想だ。海は広く、そして深い。海の波は自由自在に変化する。海を真に語れる新しい日本人と日本に向けての新時代が始まろうとしているのだ。これこそ日本の改革ではないか。 (秋道)

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