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第143号(2006.07.20発行)

第143号(2006.07.20 発行)

海洋・沿岸域政策の推進~国土交通省海洋・沿岸域政策大綱の概要~

前国土交通省総合政策局長◆竹歳 誠

わが国には海洋・沿岸域を巡る問題が山積しているが、
これらの問題は相互に関係がある場合が多いことから、
関係部局が緊密に連携して関連する施策を総合的に推進する必要がある。
海洋・沿岸域に関する多くの行政分野を所管する国土交通省として、
海洋・沿岸域政策のあり方について検討を重ね、
今回、「国土交通省海洋・沿岸域政策大綱」としてとりまとめた。

1.わが国の海洋・沿岸域を巡る現状と課題

わが国は、四方を海に囲まれた「海洋国家」であるとともに、典型的な「島嶼国」でもある。わが国には6,847もの離島が分布しているため、領海および排他的経済水域の面積は国土面積の約12倍にあたる約447万km2と世界第6位ともいわれ、海岸線の延長も約35,000kmに達する。また、日本人は、はるか昔から人や文化の往来をはじめ多くの分野で海と深く関わってきている。現在でも、エネルギーの93%、食料の60%を海外に依存するわが国の貨物の99%以上を海上輸送が担い、将来においても、排他的経済水域等の海底下のエネルギー資源の重要性が指摘されているなど、海は、わが国にとって重要な役割を担い続けている。

一方、わが国の海洋・沿岸域を巡っては、海上交通の安全確保、不審船や密航・密輸等に対する保安体制の強化、海上災害や海洋汚染の防止、防災対策の強化、海洋資源開発の推進といった課題や、海岸浸食や砂浜等の消失、藻場や干潟の減少、漂流・漂着ゴミの増大、赤潮や青潮の発生といった問題が山積している。

世界的には、1992年のアジェンダ21の採択や1994年の国連海洋法条約の発効以降、アジアを含む各国が、海洋の持続可能な開発を推進する一方、自国の権益の確保のため、「海洋の囲い込み」という考え方が広まっており、これらが相まって、総合的な海洋政策の策定等の取組が積極的に進められている。また、テロの防止等に係る多国間連携の進展や、近隣諸国の海洋政策上の戦略がわが国周辺海域で競合するなど、海洋秩序を維持するための対応も求められている。

このような海洋・沿岸域を巡る様々な問題や課題は、相互に関係がある場合が多いことから、関連する施策を総合的に推進する必要がある。このため、海洋・沿岸域に関する多くの行政分野を所管する国土交通省として、海洋・沿岸域政策のあり方について検討を重ね、今回、「国土交通省海洋・沿岸域政策大綱」(以下、大綱という)としてとりまとめた。

2.国土交通省の海洋・沿岸域政策

大綱は、国土交通省の海洋・沿岸域政策について、8本の柱の下に22の施策を掲げ、さらにその施策ごとに計95の具体的な取組を掲げている。また、その施策の推進に当たっての基本的考え方もとりまとめている。これらの概要は以下のとおりである。

?海上における安全を確保する

 ・安全に航行できる水域の確保、航行支援システムの構築、条約不適合船の排除等により海上交通の安全を確保

 ・情報の調査・分析体制の整備、海上や港湾の警備体制の強化等によりテロ対策等を推進

 ・船舶の衝突等の事故や台風等の災害への対策を強化

 ・海上における総合的な安全および法秩序を確保するため、海上保安業務体制を充実

?国土の保全と防災対策を推進する

 ・ゼロメートル地帯における海岸堤防等の耐震化、津波等の予測の伝達方法の改善、ハザードマップの作成支援等により、国民の生命や財産を保護

 ・海岸浸食等の対策、離島交通の確保等により、国境離島をはじめとする国土の保全

 ・海図の作成や大陸棚の限界画定のための調査の実施、的確な警戒監視等により、海洋権益を確保

?海洋・沿岸域環境の保護および保全を推進する

 ・環境に関する情報提供体制の強化、油流出や漂流ゴミ等の防除の仕組みの構築等により、環境の保護および保全を推進

?海洋・沿岸域の自然環境や美しい景観を取り戻す

 ・藻場、干潟等の再生、ダイオキシン等に汚染された海底環境の改善、構造物の景観との調和の推進、漂着ゴミや放置艇の処理、船舶からの排出ガスの削減等により、自然環境や景観を保全および回復

 ・陸域からの水質汚濁負荷の削減等により、水質を保全および回復

?海洋・沿岸域の利用を推進する

 ・適切な競争環境の確保、内航海運の経営基盤の強化等による新造船舶への適切な代替を推進し、海上輸送を安定化・活性化

 ・低未利用地への新たな機能の立地を促進するとともに、調和のとれた沿岸域等の利用を推進

 ・低環境負荷の船舶等の技術開発、メガフロート等を活用した海洋の新たな利用等を推進

 ・造船技術者や優良な船員を育成し、海上輸送の高度化に対応した船舶や船員を確保

?海洋・沿岸域への親しみ、理解を増進する

 ・親水空間の確保や海洋におけるレクリエーションの活性化等により、海辺の賑わいを創出

 ・海洋・沿岸域に関する知識の普及や理解の向上を推進

?海洋・沿岸域の総合的管理を推進する

 ・海洋・沿岸域に関する施策を総合的、戦略的に推進するため、多様な主体の参画と連携、協働による計画策定等の取組を推進

?国際社会との協調および協力関係を確立する

 ・IMO(国際海事機関)等の枠組みや大量破壊兵器等の拡散に対する構想等国際的な取組に積極的に参画

 ・海洋環境や防災に関する技術や情報を諸外国に提供

 ・東南アジア諸国への支援等により、マラッカ・シンガポール海峡等を含む東南アジア海域の海上保安能力を向上


 また、国際的な視野、国と地方の連携、多様な主体の参画等の基本的考え方のもと、施策を推進するとしている。

3.施策の推進体制

海洋・沿岸域に関する施策については、特に、関係部局が緊密に連携して推進する必要があることから、大綱においては省内に「国土交通省海洋・沿岸域政策推進本部」を設置することとしている。今後、省内においてはこの本部を中心に、総合的かつ戦略的に施策を展開していきたい。(了)

●「国土交通省海洋・沿岸域政策大綱」について
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/01/010621_2_.html

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