【W20活動レポート - デジタル・リスキリング特集】第十回: デジタルによる女性の経済的自立 欧州の取り組み 前編
~ 欧州連合の政策から ~
W20活動レポート -デジタル・リスキリング特集(記事一覧ページ)
G20の公式エンゲージメントグループ Women 20 (W20)は、デジタル領域におけるジェンダー格差を主要課題の一つとし、例年G20国に対する政策提言の中に盛り込んできました。テクノロジーの進化が加速する現代社会では、それによるジェンダー格差の一層の拡大が懸念される一方で、デジタルを活用し新たに技術を学ぶ、また学び直し(リスキリング)により、ジェンダー格差を解消する取り組みが世界で始まっています。この特集では、W20とそのデリゲートたちの活動を紹介している連載「W20活動レポート」のスピンオフ版として、デジタル技術やそのリスキリングを通じた女性のエンパワーメントについて、G20国の事例を取り上げていきます。
(W20 日本 ウェブサイト / W20 インド ウェブサイト)
第十回は、W20 EUの元共同代表であり、ブリュッセルを拠点にデジタル技術を活用した女性のエンパワーメントを推進するNGO デジタル・リーダーシップ・インスティテュートの創設者 シェリー・ミラー・ヴァン・ダイク氏が、欧州連合(EU)の取り組みを2回に渡って紹介します。前編では、デジタル領域におけるジェンダー格差是正の重要性とEUの政策について、後編では、EUで行われているデジタル・リスキリングの具体的な取り組みについて取り上げます。

【欧州の女性デジタル人材を開拓・育成する Ada Award 受賞式】(写真提供:Digital Leadership Institute)
―― 世界的な現象 - デジタル領域のジェンダー格差
- インターネットにつながる機会が少ない
- デジタル・スキルが低い、あるいは全く持たない可能性が高い
- IT分野のプロフェッショナルになる可能性がとても低い
- テクノロジー主導の新興企業を立ち上げる可能性がはるかに低い
という現実に直面している。
結果として女性は、気候変動、パンデミック、地政学的混乱、経済の不確実性により、環境が悪化した社会からさらに排除されるリスクが高まっている。デジタルにおけるジェンダー格差は、女性の経済的自立、およびパンデミックや災害によるダメージからの経済的回復力、そして持続可能な開発に大きなリスクをもたらしている。

【インターネットを利用する男女別人口の割合、2020年】(出典:International Telecommunication Union)
デジタル化が進んでいる国においても、女性がデジタルスキルを身につけたり、コンピュータサイエンスや、その他のSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics )領域の学問や技術を正式に学んだり、IT分野の組織で技術的、指導的な役割を担うことはまだ少ない。世界的に見てもテクノロジー主導型企業の創業者は、男性の方が女性よりも5倍も多く、多くの地域でその比率は10対1に近い。このような現実は、デジタル化が進む社会の社会的格差の拡大となるだけでなく、世界経済にとっても、経済主体としての潜在能力を十分に発揮できない女性自身にとっても多大な損失となっている。

【国連は、女性と女児をオンライン化することで、世界のGDPを押し上げることが可能と報告】(出典:ITU)
デジタル社会においては、女性の経済活動の参入のために、デジタルサービスを提供するための起業、またはデジタを活用しビジネスを促進させる起業の両方に結びつく技術支援の必要性が高まっている。しかしながら、この両分野において、女性は不利な状況に置かれている。オンライン・マーケット・プレイスやサプライチェーンといった領域など、会社の創業や経営に必要なデジタルスキルの欠如は、起業家としてデジタル経済社会に参入しようとする女性にとり、高い障壁となっている。デジタル分野での研究や産業界に、知見や専門知識を持つ女性が少ないことも、イノベーター、研究者、起業家、あるいはリーダーとして、女性がデジタル社会で貢献していくことの大きな制約となっている。さらに、AIの普及とそれがもたらす社会的不平等は、このデジタル格差の問題を一層悪化させうる。
――欧州連合のデジタル格差解消と女性のデジタル人材活用戦略

【フォン・デア・ライエン大統領 EUジェンダー平等戦略2020-2025 を発表】(出典:欧州連合)
このような状況下で、マリヤ・ガブリエル欧州委員は、最近まで任にあったEU研究担当委員として、欧州研究領域全体、ひいてはSTEM分野やスタートアップにおける男女平等の向上を目指してきた。特に、955億ユーロを拠出しているリサーチプログラムHorizon Europeの資金調達スキームにいくつかの画期的な変更を加えている。中には、プログラムの評価者、諮問機関、研究者の人員構成におけるジェンダー・バランスの重視、起業家支援プログラムの女性主導の企業や諮問機関の目標設定、女性主導の新興企業を支援する特定のイニシアチブの開始、女性イノベーター賞の創設などが含まれている。

【欧州委員会のマリヤ・ガブリエル研究担当委員は、欧州研究領域全体における男女平等の向上に着手した】(出典:欧州連合)
EUの政策を纏めると、政策や資金提供、そしてプログラムの提供を有機的に連携させ、デジタル領域におけるジェンダー平等を促進し、女性の経済的自立を推進している。そして、さらにその活動やビジネスを持続可能な開発目標やその他のグローバルな課題解決に結びつけるプログラムが成功し始めている。 欧州域外でもこのようなアプローチを参考にし、検討、導入をしていく価値は十分があるだろう。


ブリュッセルに拠点を置くデジタル・リーダーシップ・インスティテュート 所長、G20 Women20 EU代表部元共同代表、2023 G20 India Women20 教育・技能開発・労働力参加タスクフォース議長。
連絡先:笹川平和財団 ジェンダーイノベーション事業グループ
Email : genderspf@spf.or.jp
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