【W20活動レポート】第五回:W20サミット参加報告 -コミュニケ発表、ジェンダーと気候変動の交差性
~ 女性主導の開発 - 変革、前進、そして飛躍へ ~
W20活動レポート(記事一覧ページ)
G20の公式市民エンゲージメントグループで女性に関する政策提言を行う組織体であるW20(Women20)。2015年にトルコが議長国だった時に発足し、G20各国とEUの市民を代表するデリゲートたちが参加し、毎年W20の政策提言であるコミュニケをG20のシェルパと呼ばれる代表に提出する。このシリーズでは、インドが議長国を務める2023年のG20でW20の政策提言がどのようにして生まれ、G20の首脳宣言をはじめとする正式文書の中に如何に反映されていくか、その過程とW20日本デリゲートの思いをドキュメントする。
(W20 日本 ウェブサイト / W20 インド ウェブサイト)

【会場で集合するW20デリゲート】
近年、W20は気候変動を主要テーマの一つに据え、G20政府に提言を行ってきた。気候変動とジェンダーの分野で活動している筆者(遠藤理紗)も、W20日本のデリゲートの一人として、年初から気候変動タスクフォースでコミュニケの作成に参画している。本稿では、筆者も参加したW20インドサミットの様子と、特に近年注目されているジェンダーと気候変動の交差する領域での課題と取り組み、そしてそれらがどのようにW20コミュニケに反映されているのかをご紹介したい。
―― W20デリゲート会議
W20サミットは開会式の前に、W20議長・チーフコーディネーター、各国デリゲート一同が顔を合わせるW20デリゲート会議からスタートした。サミット開催後は9月のG20首脳サミットに向けて、コミュニケの提言に関するアクションプランを最終化し、W20の重要な目的の一つである「G20首脳宣言にW20の提言を反映させること」に焦点が移っていく。これからはW20デリゲートが議長国インドと連携しながら、各国の政府にW20の提言を訴えていく働きかけが要となり、アドボカシー活動ではここからが力の入れどころとなる。デリゲート会議では、アクションプランの達成度と進捗をモニタリングしていくことの大切さ、そのためにジェンダーに配慮した性別データ (Gender-sensitive and Sex disaggregated data)収集が不可欠であることが共有された。

【W20デリゲート会議の様子】
―― W20サミット開会式

【G20シェルパへのコミュニケ手交】
数ヶ月にわたるマルチステークホルダーによる協働の集大成であるコミュニケは、タスクフォースの議論と審議を通じてドラフトが起草され、インド事務局と各国デリゲートの間のフィードバックと交渉を経て完成に至った。コミュニケは、G20諸国の多彩で影響力のある女性リーダーたちの分析、優先課題の洗い出し、ビジョンが統合された政策提言であると同時に、女性のリーダーシップにより変革と開発を推進していくという各国デリゲートたちの思いの集約でもある。コミュニケは、この場でG20代表であるシェルパ Shri Amitabh Kant氏に手渡された。
―― 気候変動セッション~気候変動対策の「受益者」と「担い手」としての女性~
冒頭で述べたように、気候変動はW20の主要テーマの一つであり、サミットの開会式においても、インド政府要人であるIrani女性・子ども省大臣、G20シェルパKant氏も、女性と子どもを気候変動対策の中心に据える必要性を強調している。ここからは、開会式に続いて行われた気候変動セッションでの議論に沿い、気候変動とジェンダーの交差性に焦点を当て、課題と背景、解決のための糸口を探っていきたい。

【気候変動セッション】
また、女性を気候変動対策の「受益者」として見るだけでなく対策の「担い手」と捉え、彼女たちの能力や知識の積極的な活用も重要と考えられている。セッションの中で、グリーン経済やデジタル経済推進のための女性の能力開発に重点をおくことや、気候・ESGファイナンスへの女性のアクセスをより可能とすることが提案された。本セッションのパネリストとして登壇した、ベンチャーキャピリストのPratibha Vuppuluri氏は、自社のUnreasonable Collectiveが投資・支援する女性起業家たちの地球温暖化対策の取り組みを紹介した。同氏が支援する女性起業家のスタートアップでは、空気中の二酸化炭素等からタンパク質・代替肉を製造して畜産業の温室効果ガス排出を削減する事業(Kiverdi・Air Protein)や、リモートセンシングやドローン技術を活用したデータ分析や植林等により生態系を回復させる事業(Dendra Systems)、といった先駆的な取り組みが行われている。その一方で、このような女性起業家たちが資金調達の難しさに直面していることを訴え、資金提供者側に多くの女性を参加させ多様化を進めることで、女性起業家の事業に対する理解・支援を広げる必要性を説いた。

【気候変動セッションパネリストたち】
例を挙げると、ジェンダーに対応した革新的気候変動の取組を表彰している Women and Gender Constituency2 は、表彰された事例として、ケニア農村部で女性小規模農家の気候変動適応策を紹介している。自助グループで組織された600人以上のマサイ族女性が気候変動に適応した農業・畜産業に関するトレーニングを受け、地域住民2,805人の生計向上に貢献したことが報告されている3。気候変動対策であると同時に、女性のエンパワーメントを推進する好事例となっている。
こうした取り組みを後押しするために、気候変動に関する意思決定と議論の場への女性の参画や気候変動・エネルギー等の政策立案プロセスでのジェンダー主流化の推進、ジェンダー平等の取り組みと気候変動対策が統合的に進められ相乗効果を生むような環境整備が要となる。そのためには、あらゆる部門やレベルにおける女性の積極的な貢献、女性のリーダーシップ、ジェンダーと気候変動に対処するための変革的な政策、そしてそれをもたらす政治的意思も肝要となる。
2. Women and Gender Constituency 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のメジャーグループ(ステークホルダーのグループ)の1つ。
3. Women and Gender Constituency “2022 Gender Just Climate Solutions (7th edition)” (P.25)
―― W20コミュニケ 気候変動に関する提言

【発表されたW20コミュニケ】
- 気候変動に関する計画・政策決定メカニズム(COP284、温室効果ガス削減目標等)への女性の男性と対等で、かつ意味のある参画
- COP27で合意された気候変動による損失と損害に対処する基金(Loss and Damage Fund)と適応ファイナンスにおけるジェンダーに対応したアプローチの採用
- 緑の気候基金(GCF:Green Climate Fund)を活用した気候変動に取り組む女性のプロジェクトへ直接的な資金提供
- 気候変動や気候変動による移住の影響を受ける女性・子どもや彼らの人権の保護・支援
- 公正な再生エネルギーへの移行を可能とするためのエネルギー・インフラ計画と意思決定におけるジェンダー戦略の構築
このW20の提言を、G20各国が自国の気候変動政策に反映し取り組みを進めていくことが重要だ。9月に発表されるG20の首脳宣言にどのように組み込まれるのか注目したい。
―― 最後に

【インドW20議長Purecha氏、ILO松浦氏とW20日本 現地参加メンバー】

【Excursionで訪れたShore Temple】

特定非営利活動法人「環境・持続社会」研究センター(JACSES)事務局次長・気候変動プログラムリーダー。マンチェスター大学修士課程修了。保険・エネルギー関連の企業勤務を経て、2014年よりJACSESスタッフ。気候変動・SDGsに関する政策提言、普及啓発等に従事。Climate Action Network Japan役員、ESD活動支援センター企画運営委員、SDGs市民社会ネットワーク事業統括会議進行役、2023年C7(Civil 7)気候・環境正義ワーキンググループ共同コーディネーター等も務める。2023年よりW20日本デリゲート。
連絡先:笹川平和財団 ジェンダーイノベーション事業グループ
Email : genderspf@spf.or.jp
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