【W20活動レポート】第六回:女性の教育、能力開発、労働参画の推進
~ W20コミュニケから考える ~
W20活動レポート(記事一覧ページ)
G20の公式市民エンゲージメントグループで女性に関する政策提言を行う組織体であるW20(Women20)。2015年にトルコが議長国だった時に発足し、G20各国とEUの市民を代表するデリゲートたちが参加し、毎年W20の政策提言であるコミュニケをG20のシェルパと呼ばれる代表に提出する。このシリーズでは、インドが議長国を務める2023年のG20でW20の政策提言がどのようにして生まれ、G20の首脳宣言をはじめとする正式文書の中に如何に反映されていくか、その過程とW20日本デリゲートの思いをドキュメントする。
(W20 日本 ウェブサイト / W20 インド ウェブサイト)

【6月のW20インドサミットでのコミュニケ発表の様子】
W20 2023 コミュニケ日本語版(3.2MB)
W20 2023 コミュニケ英語版(6.6MB)
―― 女児および女性のリーダーシップの重要性

1. プランの女の子のリーダーシップについては以下参照。公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン (2023)年『ガールズ・リーダーシップ・レポート2023』、https://www.plan-international.jp/about/pdf/2023_leadership.pdf

【W20 タスクフォースの様子 - グローバルサウスの台頭を印象づけるサミットとなった】
コミュニケでは同分野において7つの提言が提起されたが、提言を大きく分類すると、「質の高い教育への公平なアクセスの保証」と「女性の就学や労働市場への参入を阻むジェンダーに基づく差別や暴力の撤廃とそのために必要な国際社会の支援の実施」、「女児及び女性のケアのための研究開発の推進」の3点が挙げられる。以下3つの分類に従って提言の詳細を見てみたい。
―― 質の高い教育への公平なアクセスの保証
【デジタル・リテラシースキル向上のトレーニング(ガーナ)に参加する少女たち ©Plan International/Geoffrey Buta】
AI技術が急速に発展する現在、言われたことをするだけでは、人工知能に飲み込まれてしまう。その点を踏まえ、技術を使いこなし、最大限に活かすことができる人材の育成が、幼少期から必要だという点が、このコミュニケでは強調されている。
―― 女性の就学や労働市場への参入を阻むジェンダーに基づく差別や暴力の撤廃とそのために必要な国際社会の支援の実施
【女性の声とリーダーシッププログラム(ガーナ)では、女性の職業訓練を実施し、女性の権利とエンパワーメントを推進を支援 ©Plan International】
【起業家支援プログラム(バングラディッシュ)ー 生理ナプキンの製造販売事業を通じ若い女性の教育資金を支援する女性起業家 ©Plan International】
コミュニケでは労働市場におけるジェンダー差別の解消として、具体的に男女賃金格差の解消に関する法制化と職場での差別や暴力の禁止など法整備の重要性が指摘されているが、他方、女児や女性が労働市場に参画することを阻害する要因である、無償ケア労働(炊事や洗濯など家事、育児や老人などへの介護など)のジェンダー平等の推進も謳われている。ジェンダー平等推進のために、ドナー国による資金拠出の増額や、出産・育児手当を保護・改善し、家族休暇制度の充実などが記載された。

【W20サミットでケア・エコノミーについて議論するW20デリゲート】
2. Emma Seery (2020). Time to Care: Unpaid and underpaid care work and the global inequality crisis. United Kingdom: Oxfam. 10.21201/2020.5419. https://oxfamilibrary.openrepository.com/bitstream/10546/620928/36/bp-time-to-care-inequality-200120-en.pdf
―― 女児および女性のケアのための研究開発の推進
提言ではこの点も強調することで、近年急速に発達するテクノロジーを、ジェンダー平等の推進のための本質的な取り組みに活用すべきこと、その決意をG20政府指導者に示したと言えるだろう。
―― 質の高い教育への公平なアクセスの保証

【ジェンダー平等に関する研修(ネパール) - 自分の身体と選択について学ぶ ©Plan International】

公益財団法人 プラン・インターナショナル・ジャパン アドボカシー グループリーダー。政治学博士。早稲田大学政治経済学部で研究助手を務めるかたわら、NGOや財団の運営、政策提言活動、キャンペーン事業の企画運営に従事。女の子のリーダーシップに関する調査提言をはじめ、女の子や若い女性のエンパワーメント、ジェンダー不平等解消を目指し、活動を展開している、大妻女子大学や法政大学の非常勤講師、一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク理事、認定NPO法人 Malaria No More Japan理事、一般財団法人あしなが育英会評議員や朝日新聞デジタルコメンテーターも務める。2021年から内閣府男女共同参画推進室連携会議有識者委員。2023年より W20日本デリゲート。
連絡先:笹川平和財団 ジェンダーイノベーション事業グループ
Email : genderspf@spf.or.jp
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