Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第320号(2013.12.05発行)

第320号(2013.12.05 発行)

和白干潟はみんなの宝~和白干潟の自然と環境保全活動について~

[KEYWORDS]ふるさと/自然海岸のある干潟/山・川・海のつながり
和白干潟を守る会代表◆山本廣子

博多湾・和白干潟は日本海側にある約80ヘクタールの干潟(和白海域は約300ヘクタール)。東アジアの渡り鳥の渡来地として重要な湿地で、自然海岸のある干潟として「にほんの里100選」に選ばれている。保全活動に取り組んで25年。自然観察会やクリーン作戦、調査活動や和白干潟まつりなどを多彩に取り組んできた。
海底湧水の魅力や、山・川・海の連携活動に取り組み、湿地を保全する国際条約、ラムサール条約登録を目指している。

和白干潟と私

私のふるさとは博多湾・和白干潟のすぐそばです。子どもの頃は和白干潟で泳いで過ごしました。和白干潟は「和白こども海水浴場」と呼ばれて県内各地から、潮干狩りや海水浴にたくさんの人たちが来ていました。浜辺には海の家が立ち並んでおり、海の中に飛び込み台も3台立っていました。冬には海苔ひびが立ち、流れてきた海苔を佃煮にして食べていました。大きな2枚貝の貝ガラを開けるとイイダコが入っていました。和白干潟は私の心も体も育みました。そんな和白干潟が私は大好きです。
博多港港湾計画では和白干潟は全面埋め立てる計画でした。1987年に私は「和白干潟保全」の請願書を福岡市議会に出しました。1988年に和白干潟は全面埋め立てを免れて、保全されることが決まりましたが、和白干潟の沖合を401ヘクタールも埋め立てられてしまいました。和白干潟をふさぐような位置に作られた人工島は、和白海域の海水の流れを停滞させて海水の交換が悪くなっています。水質悪化のためにアオサの大量発生や底質のヘドロ化を招き、底生動物の減少や渡り鳥の減少が起こっています。環境改善のためにクリーン作戦をしたり、福岡市にアオサ回収を働きかけたりしてきましたが、なかなか渡り鳥の復活は見られません。
私は請願書を出した翌年に「和白干潟を守る会」設立を呼びかけて、保全活動を始めました。保全活動とともに私は「きりえ」で和白干潟を描いてきました。きりえ作品で絵葉書や絵本を作って、和白干潟の素晴らしさを伝えています。

和白干潟

■博多湾・和白(わじろ)干潟

和白干潟は人口150万都市福岡市の中にあります。有明海は泥質の干潟ですが、和白干潟は博多湾の東奥部にある約80ヘクタールの砂質の干潟です。和白干潟を含む和白海域は約300ヘクタールあり、干潟と一体です。貴重な自然海岸のある干潟として「にほんの里100選」にも選ばれています。沿岸にはハママツナやウラギクなどの塩生植物が豊富です。東アジアの渡り鳥の中継地や越冬地として、国際的にも重要な湿地です。絶滅が心配されるクロツラヘラサギやツクシガモの越冬地としても重要です。九州では珍しいミヤコドリの越冬地にもなっています。
2003年に和白海域は「国指定和白干潟鳥獣保護区」になりました。2004年にはラムサール条約登録の候補地に選ばれています。今年は国指定鳥獣保護区設定から10年になり、設定の見直しがあり、多々良川河口干潟とともに国指定鳥獣保護区が継続になりました。2012年はルーマニアでラムサール条約第11回締約国会議が開かれて、日本国内の9カ所が新規登録され、九州の干潟では初めて熊本県荒尾干潟がラムサール条約に登録されました。和白干潟も長い間候補地のままですので、気を入れて登録を働きかけています。同年11月の「第24回和白干潟まつり」で「ラムサール宣言」を出すと同時に、署名活動のためのユニフォームを作り、「和白干潟のラムサール条約登録を求める署名」を始めました。今年5月には福岡市東区で街頭署名活動を行いました。以降毎月1回は街頭署名活動で市民にもアピールしています。和白干潟は次回2年後の南米ウルグアイでのラムサール条約締約国会議でのラムサール条約登録を目指して頑張っています。


春の渡り鳥


クロツラヘラサギとミヤコドリ

和白干潟を守る会の環境保全活動

■クリーン作戦の模様

和白干潟の保全活動は多岐に渡っています。和白干潟の自然観察会を保育園や小・中学校などの子どもたちや大人のグループなどを対象に開催しています。また毎月1回「クリーン作戦と自然観察」や、環境省の「モニタリングサイト1000」シギチドリ調査を年間を通して行っています。全国規模のゴミデータ調査に参加したり、砂質調査も行っています。年1回秋に企画している500人規模の「和白干潟まつり」は、今年で25回を迎えます。1日で野鳥観察、干潟の生き物観察、植物観察などに参加でき、ステージではコーラスや楽器演奏、マジックショー、紙芝居などが多彩に行われ、福岡市長からのメッセージも届きます。すべて手づくりのボランティア参加のお祭りです。企業や学校からの協力も多く、特にクリーン作戦には企業や学生が多く参加するようになりました。4月には日本湿地ネットワーク(全国の湿地保全団体のネットワーク)の総会と講演会を和白で開催しました。全国の干潟や湿地を守る人たちと共に、すべての日本の干潟や湿地のラムサール条約登録を目指したいと思います!

海底湧水と「山・川・海」のつながり

和白干潟には自然海岸があり沿岸が大きく開発されていないことで、和白干潟に海底湧水があることがわかりました。「和白干潟の湧水観察会」(2013年8月)を企画して、湧水の研究者である新井章吾さんから教えていただき観察しました。雨水などが沿岸でしみこみ、地下にある博多湾や海の中道の地下海水が押し出されて、海底から塩水が湧き出しているそうです。海水に溶け込むことが可能な酸素量を100%としたときに90%以上の酸素が含まれた栄養分の多い海水が湧き出しており、和白干潟の海水を浄化しているそうです。さらに貝や底生動物が有機物を食べて海水を浄化しています。人間もアサリや魚を食べて自然の循環の中にいます。
また立花山から流れる水は、唐原(とうのはる)川を通って和白干潟へと流れ込みます。この山・川・海の連携した保全活動が重要だと考えて、山・川・海の保全グループが集い『山・川・海の流域会議』(2012年7月)を作り、連携して観察会や清掃活動を始めました。このような地域の人々の多種多様な保全活動が大切だと思います。和白干潟をみんなの宝として、未来に守り継ぎたいと願っています。(了)

※ 和白干潟を守る会HP http://www14.ocn.ne.jp/~hamasigi/

第320号(2013.12.05発行)のその他の記事

  • 海洋温度差発電実証試験について 沖縄県商工労働部産業政策課副参事◆古堅勝也
    沖縄県商工労働部産業政策課主査◆長嶺元裕
  • ソマリア海賊と日本 (株)IMOS代表取締役社長◆高橋 迪
  • 和白干潟はみんなの宝~和白干潟の自然と環境保全活動について~ 和白干潟を守る会代表◆山本廣子
  • インフォメーション 『人と海洋の共生をめざして~150人のオピニオンVI 』発行
  • 編集後記 ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

ページトップ