Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第320号(2013.12.05発行)

第320号(2013.12.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆韓国が主導するAPECの気候センターの諮問委員会で久しぶりにジャカルタに出かけてきた。かつてのバイクに替わり、街路をゆく車の多さに驚いた。数センチですれ違うドライバーの技術は神業に近い。今回はインドネシア気象・気候・地球物理庁と合同で「干ばつ予測に関する地域協力シンポジウム」も同時開催された。インドネシアはエルニーニョ現象やダイポールモード現象の影響を受けて気象災害が起きやすい。気候の研究発表だけでなく、干ばつ対応政策の講演も多く、有意義なシンポジウムであった。太平洋を囲む国々から多くの参加者があり、韓国とインドネシア両国の意気込みを強く感じた。ジャカルタの街の様変わりした光景とともに、変わりゆくアジアを感じる旅となった。
◆今号ではまず古堅勝也、長嶺元裕両氏に久米島で開始された海洋温度差発電の実証事業について紹介していただいた。ウッズホール海洋研究所のコロンバス・イズリンは1939年に高緯度の表層水と低緯度の深層水が同じ水塊であることを初めて示したが、これがその後に小氷期の到来を説明する世界海洋の躍層理論に発展した。それよりもはるか前、19世紀後半のフランスでは海洋の上下温度差を利用してエネルギーを取り出し活用するアイデアが生まれていた。深層水を汲み上げるにはエネルギーが必要である。一方で深層水は冷たい上に、様々な有用成分を含む。両氏の指摘にあるように海洋温度差発電の商業化の成否は、これらの利点を生かした複合的なアプローチにかかっている。
◆高橋 迪氏には「海賊対処法」の最初の適用例について解説していただいた。東日本大震災の直前に起きたソマリア沖海賊事件に対するものである。折しも本年11月に「日本船舶警備特別措置法」が成立し、日本船舶にも民間武装警備員を乗船させることが可能になった。安全を自ら守る「普通の国」への一歩である。
◆最後のオピニオンは福岡市の和白干潟の保全活動を久しく続けてこられた山本廣子氏による。編集者も九州大学在勤時に幼児を連れて、干潟に近い立花山によく登ったものである。山本氏の解説を読みながら、遠く霞む志賀島を背景にして眼下に広がる干潟と田園の美しい風景が蘇ってきた。豊かな生態系とともに、未来世代にぜひとも引き継ぎたい宝である。(山形)

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