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オーシャンニューズレター

第320号(2013.12.05発行)

第320号(2013.12.05 発行)

海洋温度差発電実証試験について

[KEYWORDS]OTEC/久米島/海洋深層水研究所
沖縄県商工労働部産業政策課副参事◆古堅勝也
沖縄県商工労働部産業政策課主査◆長嶺元裕

表層海水と深層海水の温度差を利用して発電する海洋温度差発電は、発電出力が安定し、かつ、発電量の予測も容易であることが特徴とされ、再生可能エネルギーの一つとしての可能性を秘めている。
日本国内ではこれまで、佐賀大学で研究が進められてきたが、沖縄で将来の大規模商用化に向けて、平成25年4月に世界で初めて実海域での実証試験が始まった。その内容を概説する。

はじめに

四方を海に囲まれている沖縄は、さまざまな分野において、海の恩恵を受けて発展してきた。サンゴ礁が発達した沿岸の広大な浅海域には、多くの魚介類が生息し、沖合には、マグロ類やマチ類などの好漁場が形成されている。
また、古くは琉球王朝の時代から、中国や東南アジア諸国との交流、交易を通じて特色ある文化や伝統を育み、独自の文化を生み出してきた。今日では、美しいサンゴ礁の海は、県の観光資源として欠かせない存在であり、沖縄県民にとって、海は資源を恵む母のような存在である。
この豊かさをもたらしてくれた母なる海は、将来、電気エネルギーを生み出す可能性をも秘めている。

沖縄のエネルギー特性と沖縄県の施策

沖縄県以外の都道府県においては、水力発電や地熱発電等、多様な一次エネルギー源が存在するため、2010(平成22)年の全国のエネルギー自給率は、4.8パーセントである。一方、2012(平成24)年の沖縄のエネルギー自給率は、0.5パーセントであり、エネルギー消費のほとんどを化石燃料に依存している。これは、沖縄には大きな河川がないため水力発電の可能な地点が少ないことや、小規模な離島が多く、それぞれの島において、重油によるディーゼル発電機関を電源とする独立した電力系統を構成しなければならないなど、地理的、地形的な制約が主な要因となっている。このため、沖縄県では、エネルギー自給率の向上および化石燃料への依存度の低減を図ることを目的として、クリーンエネルギーの導入に向けた各種の施策を展開している。
太陽光発電、風力発電、太陽熱利用、バイオマスエネルギー等については、実用化に向けた研究開発や実証事業等を通して有効性を検証するとともに、安定的な需給システムの構築や低コストでの導入等に向けた取り組みを進めている。また、海洋エネルギーの研究開発の取り組みの一つとしては、久米島にある沖縄県海洋深層水研究所において、海洋温度差発電の商用化に向けて、技術的な課題などを検証する実証事業に取り組んでいる。

深層海水の利活用、海洋温度差発電と実証事業の概要

■海洋温度差発電の原理

■海洋温度差発電実証試験設備

(1)深層海水の利活用について
深層海水の持続的な総合利用の推進を図り、県の産業振興に寄与することを目的として、平成12年度に沖縄県海洋深層水研究所が開所した。農業および水産分野における深層海水の利活用に関する研究を実施するとともに、研究開発された技術を生産者や企業等に移転し、新商品および新技術の開発や新分野への進出を促し、新たな産業の創出を目指す。
同研究所では、深層海水の取水管を2条、表層海水の取水管を1条備えており、深層海水は水深612メートルから、表層海水は水深15メートルから取水している。1日の最大取水量は、深層海水および表層海水ともに約1万3千トンであり、国内でも最大規模となっている。取水した深層海水および表層海水は、同研究所での研究に利活用されるほか、周辺に立地する事業所に分水され、クルマエビの種苗生産、海ぶどうなどの海藻類の陸上養殖などに利活用されており、地域の産業振興および雇用創出にも寄与している。
(2)海洋温度差発電と実証事業の概要について
海洋温度差発電は、太陽熱で温められた表層海水(約25℃~30℃)と、海洋を循環する冷たい深層海水(約5℃~10℃)の温度差を電力に変換する再生可能エネルギーによる発電の一つである。沸点が低い媒体を表層海水で温めて蒸発させ、その蒸気でタービン発電機を駆動して発電する。その後、媒体は、深層海水で冷やして液体に戻され、これを再び表層海水で温めて蒸発させ、発電することを繰り返す仕組みである。表層海水と深層海水の温度差が年間平均で20℃以上あることが理想とされ、日本では亜熱帯地域の沖縄などが適地とされている。
海洋温度差発電は、1970年代のオイルショックを契機に日本などで研究開発が進められたが、その後、化石燃料の価格が下落したため、研究開発の規模が縮小され、日本国内では唯一、佐賀大学において研究が継続されていた。近年、地球温暖化や原油価格の高騰といった状況を受け、アメリカなどの大手企業による開発が再開されているが、未だ商用化されておらず、また、沖縄でも冬には表層海水の温度が下がるため、期待されるような発電ができるかという課題がある。
この課題に対応するため、沖縄県では、2013(平成25)年4月、最大出力50キロワットの発電設備、出力50キロワット相当の技術試験用設備各1基からなる実証試験設備を沖縄県海洋深層水研究所の敷地内に整備した。
実証試験設備は、海洋温度差発電技術のうち最も大型化、商用化に適しているとされているクローズドサイクル方式を採用し、媒体には、ハイドロフルオロカーボン(R134a、沸点は-26℃)を使用している。実証試験においては、(1)シミュレーションで得た予測値と実測値の差異等の解析結果をベースとし、設備を大型化した際の性能の予測を行うため、天候、海水温の変化に伴う発電量の計測を行うほか、(2)安定した出力を得るための機械の性能や技術の向上に関する実証試験、(3)発電コストを低減させるため、発電に利用した後の深層海水を水産業、農業、空調などに利用する可能性の検討などを行っている。実証運転を開始して以降、有用なデータを得ることができている。
なお、地元の久米島町では、2011(平成23)年3月、緑の分権改革推進事業として海洋深層水複合利用基本調査を行った。その報告書においては、1メガワット級の海洋温度差発電と深層海水の複合利用などの可能性が示された。
海洋温度差発電の大規模商用化に向けては、さらに実証試験を重ねる必要があるため時間を要すると思われるが、亜熱帯地域の沖縄に適したクリーンな海洋エネルギーが、久米島を出発地として世界に展開することを期待したい。(了)

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