Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第598号(2025.10.20発行)
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「知ること」からはじまる海の未来
~深海洞窟から子どもたちへつなぐ、いのちの多様性~
KEYWORDS
アウトリーチ/生物多様性/教育
(国研)海洋研究開発機構地球環境部門臨時研究補助員◆鳴島ひかり
深海洞窟探査チーム「D-ARK(Deep-sea Archaic Refugia in Karst)」は、沖縄県大東諸島を舞台に、深海洞窟を探査し、その周辺に生息する生物多様性の調査に取り組んでいる。アウトリーチにも力を注いでおり、航海調査中の調査船と島の小中学校をオンラインでつなぐ特別授業や、水族館での展示企画を通じて、調査成果の発信に努めている。
「D-ARK」とは
私たち深海洞窟探査チーム「D-ARK(ディーアーク)(Deep-sea Archaic Refugia in Karst)」※1は、地球と海洋の研究機関である(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)が代表機関となり、複数のパートナーと共に調査研究を実施しています。深海洞窟のための探査機器の開発は、いであ(株)と(株)Fulldepthが担当し、採集した生物の飼育や研究成果の普及(アウトリーチ)は新江ノ島水族館が担います。さらに、琉球大学はじめ、多様な研究分野の専門家が参加し、学際的な視点から調査を支えています。(公財)笹川平和財団のオーシャンショット研究助成※2に採択され、沖縄県の大東諸島を舞台に、深海の洞窟を探査し、その周辺に暮らす生物の多様性を調査しています。ミッションのひとつとして、島民、特に未来を担う子どもたちに向けた研究成果のアウトリーチにも力を入れています。

研究機関・大学・民間企業・水族館など、多様な分野のメンバーが集結
なぜ大東諸島を選んだのか?
大東諸島は約5千万年前に赤道付近で誕生した海洋島で、上部約2,000mが石灰岩で形成されています。また、ダイトウオオコウモリやダイトウヒラタクワガタなど、固有種が多く生息していることも大きな特徴です。
これまで周辺海域では本格的な深海調査が行われておらず、深海洞窟の存在も確認されていませんでした。しかし、陸上には立派な鍾乳洞があり、その一部が海とつながっていることが知られているため、深海域にも洞窟があると推測しました。
D-ARKでは、大東諸島周辺の深海洞窟を探索し、そこに暮らす生物の多様性を明らかにすることを目指しています。調査では、D-ARKのために開発した小型の水中ドローンなどを使用してこれまで大小さまざまな穴や洞窟を発見しました。また、この地形を好んで暮らす生物も数多く見つかっています。その中には、これまでハワイ沖でしか確認されていなかった魚も含まれており、沖縄本島とは異なる大東諸島ならではの生物多様性を明らかにしてきました。
これまで周辺海域では本格的な深海調査が行われておらず、深海洞窟の存在も確認されていませんでした。しかし、陸上には立派な鍾乳洞があり、その一部が海とつながっていることが知られているため、深海域にも洞窟があると推測しました。
D-ARKでは、大東諸島周辺の深海洞窟を探索し、そこに暮らす生物の多様性を明らかにすることを目指しています。調査では、D-ARKのために開発した小型の水中ドローンなどを使用してこれまで大小さまざまな穴や洞窟を発見しました。また、この地形を好んで暮らす生物も数多く見つかっています。その中には、これまでハワイ沖でしか確認されていなかった魚も含まれており、沖縄本島とは異なる大東諸島ならではの生物多様性を明らかにしてきました。
海と生き物をもっと身近に 大東諸島での体験イベント
今回の調査地は島のすぐそばで、調査船の目と鼻の先に大東諸島(南大東島と北大東島)があります。調査を進める上で島の皆さんのご協力が不可欠なので、信頼関係を築き、プロジェクトを共に盛り上げていくことが大切だと考えています。
大東諸島は島全体が断崖に囲まれており、ビーチがほぼないため、島民が海中をのぞいたり生き物に触れたりする機会がほとんどありません。そこで、島の皆さんに海の中の環境やそこで暮らす生き物をより身近に感じてもらうため、航海調査中に調査船「かいめい」と南大東小・中学校や村役場をオンラインでつなぐ特別授業を実施しました。
授業ではまず、D-ARKの調査に使われる無人探査機や水中ドローンについて紹介し、生き物の採集方法や映像の記録手順を説明しました。その後、実際の水中ドローンのカメラ映像をリアルタイムで島の学校へ配信し、子どもたちと一緒に海底のカルスト地形や洞窟の中に暮らす生き物たちの姿を観察しました。
映像が単調にならないよう、研究者が用意したクイズを途中に挟みながら進行しました。前年のD-ARK調査で日本の海から初めて記録された「ホラアナヒスイヤセムツ」が洞窟の入り口に姿を現すと、子どもたちからは「色がきれい!」「初めて見た!」といった驚きの声が上がりました。また、洞窟内外に多く見られる「アカサンゴスナギンチャクの一種」が刺激で発光する姿を実演すると、「光った!」「どうして?」と、大盛り上がり。研究者がその質問に答えようとしたところ子どもたちの元気な声にかき消されてしまい、見守る先生や船内の研究者たちも思わず笑顔に。参加した子どもたちからは、「大東にこんな魚がいたなんて知らなかった」「深海って、ふつうの海と生き物が違う」といった感想が寄せられ、海の不思議や命の多様性を感じる貴重な時間となりました。
D-ARKには多様な分野の専門家がそろっており、それぞれの得意分野を活かした展示やワークショップを実施できるのが大きな強みです。
またこのオンライン授業とは別の機会に、水族館の飼育員による移動水族館、水中ドローン開発者による操縦体験会、有孔虫などの小さな生物について学べる星砂ワークショップを島内で開催しました。イベントの開催にあたっては、村役場の方々による広報や会場整備のサポートがあり、学校や港といった島内各所で催すことができました。そのおかげで、老若男女問わず多くの島民の方に足を運んでいただきました。
大東諸島は島全体が断崖に囲まれており、ビーチがほぼないため、島民が海中をのぞいたり生き物に触れたりする機会がほとんどありません。そこで、島の皆さんに海の中の環境やそこで暮らす生き物をより身近に感じてもらうため、航海調査中に調査船「かいめい」と南大東小・中学校や村役場をオンラインでつなぐ特別授業を実施しました。
授業ではまず、D-ARKの調査に使われる無人探査機や水中ドローンについて紹介し、生き物の採集方法や映像の記録手順を説明しました。その後、実際の水中ドローンのカメラ映像をリアルタイムで島の学校へ配信し、子どもたちと一緒に海底のカルスト地形や洞窟の中に暮らす生き物たちの姿を観察しました。
映像が単調にならないよう、研究者が用意したクイズを途中に挟みながら進行しました。前年のD-ARK調査で日本の海から初めて記録された「ホラアナヒスイヤセムツ」が洞窟の入り口に姿を現すと、子どもたちからは「色がきれい!」「初めて見た!」といった驚きの声が上がりました。また、洞窟内外に多く見られる「アカサンゴスナギンチャクの一種」が刺激で発光する姿を実演すると、「光った!」「どうして?」と、大盛り上がり。研究者がその質問に答えようとしたところ子どもたちの元気な声にかき消されてしまい、見守る先生や船内の研究者たちも思わず笑顔に。参加した子どもたちからは、「大東にこんな魚がいたなんて知らなかった」「深海って、ふつうの海と生き物が違う」といった感想が寄せられ、海の不思議や命の多様性を感じる貴重な時間となりました。
D-ARKには多様な分野の専門家がそろっており、それぞれの得意分野を活かした展示やワークショップを実施できるのが大きな強みです。
またこのオンライン授業とは別の機会に、水族館の飼育員による移動水族館、水中ドローン開発者による操縦体験会、有孔虫などの小さな生物について学べる星砂ワークショップを島内で開催しました。イベントの開催にあたっては、村役場の方々による広報や会場整備のサポートがあり、学校や港といった島内各所で催すことができました。そのおかげで、老若男女問わず多くの島民の方に足を運んでいただきました。

D-ARKで発見し命名した南大東の深海鍾乳洞「ピッグ・ノーズ」

南大東小・中学校でのオンライン授業の様子
研究成果を伝える意味
いずれのイベントでも最も多く聞かれたのは、「こんな生き物がいるなんて知らなかった」「海がこんなにきれいだとは思わなかった」という声です。深海生物ならまだしも、沿岸に多く暮らしている身近な生き物の存在さえ、あまり知られていませんでした。これは大東諸島に限らず、島国である日本各地で起きている現象かもしれません。
そんな中、イベントに参加してくれたある男の子が言ってくれた「このきれいな海を守っていきたい」という言葉は、私たちにとって何よりも大きな励みになりました。
研究の成果を発信することで、「知る人」が増え、心が動き、やがて「守る行動」へとつながっていく—そうした積み重ねが、海の未来を変えていくと考えます。
私たちはこれからも、この美しい日本の海と多様な命を、次の世代へつないでいくための調査と発信を続けていきます。(了)
そんな中、イベントに参加してくれたある男の子が言ってくれた「このきれいな海を守っていきたい」という言葉は、私たちにとって何よりも大きな励みになりました。
研究の成果を発信することで、「知る人」が増え、心が動き、やがて「守る行動」へとつながっていく—そうした積み重ねが、海の未来を変えていくと考えます。
私たちはこれからも、この美しい日本の海と多様な命を、次の世代へつないでいくための調査と発信を続けていきます。(了)
●本プロジェクトは、日本財団の支援を受けて笹川平和財団海洋政策研究所が実施する「オーシャンショット研究助成事業」により助成を受けたものです。
※1 邦題:「深海カルストにある太古からのレフュジア」 D-ARKウェブページ https://www.jamstec.go.jp/dark/j/overview/
※2 オーシャンショット研究助成ウェブページ https://www.spf.org/opri/projects/oceanshot.html
※1 邦題:「深海カルストにある太古からのレフュジア」 D-ARKウェブページ https://www.jamstec.go.jp/dark/j/overview/
※2 オーシャンショット研究助成ウェブページ https://www.spf.org/opri/projects/oceanshot.html
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