Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第598号(2025.10.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任◆藤井麻衣

◆公海など各国の管轄外の海域の生物多様性保全・利用のための国際条約、BBNJ協定がいよいよ来年1月17日に発効します。そこで今号は、特集テーマ「海洋生物」のもとで4本の多様な実践・研究に関する記事とともに、特集外の時事記事1本、計5本という盛りだくさんの内容でお届けします。◆まず、深海洞窟に棲む未知の生物を探査する「D-ARK」の取り組みについて、鳴島ひかり氏にご紹介いただきました。沖縄・大東諸島周辺の深海カルスト地形に挑むこのプロジェクトは、私たち(公財)笹川平和財団海洋政策研究所が日本財団の支援により実施するオーシャンショット研究助成の採択課題の一つです。まだ誰にも知られていない海洋生物が見つかるかもしれない、そんな海のロマンに心躍る方も多いのではないでしょうか。地元の子どもたちとオンラインでつなぐアウトリーチもとても重要で、研究進展を含む今後の展開がさらに楽しみです。◆次に、「生きた石」と形容されるほど石灰化が進んだ海藻・サンゴモ類に焦点を当てた加藤亜記氏の記事では、その研究の最前線が分かりやすく紹介されています。光合成と石灰化という2つの炭素循環機能を持ち、生物多様性の高い藻場を形成するサンゴモ類。近年では、ブルーカーボン生態系としての可能性を示唆する研究成果も現れているという点はとても興味深く、今後の研究動向から目が離せません。◆須磨海浜水族園の吉田裕之氏は、2010年から続く「里海づくり」活動が、水族館を起点に市民・漁業者・自治体の連携へ広がり、「須磨里海の会」結成、アサリ再生や藻場づくり、環境教育・啓発へとつながってきた歩みを描きました。都市圏における里海再生のモデルとして示唆に富む事例です。◆さらに、齋藤徹夫氏の記事は、水産都市・気仙沼の課題とデジタル化の挑戦を取り上げます。漁業は海の生物資源を基盤とする産業です。資源変動や人手不足、価格・燃油高、国際経済の波を受けながらも、AI・海況データ・通信基盤等を用いたスマート化で「不確実性(VUCA)」に正面から向き合う取り組みが進んでいます。◆そして最後に、タイムリーな特集外記事として、米国の外交政策転換が太平洋島嶼国に与える影響について、Jenna Lindeke氏が論じます。関税や援助縮減といったトランプ政権の「取引型外交」は、太平洋島嶼国に大きな波紋を広げ、日本を含む援助国にも新たな課題を突き付けています。本号は、海洋生物をめぐる科学と人間社会、そして社会課題の交差点を提示しています。読者の皆さまにとって、海に関する新たな発見や行動につながる一助となれば幸いです。(主任 藤井麻衣)

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