Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第54号(2002.11.05発行)

第54号(2002.11.05 発行)

英国政府、初の包括的海洋戦略を公表

インフォメーション◆Ship & Ocean Newsletter 編集部(監修:中原裕幸 (社)海洋産業研究会常務理事)

英国環境・食料・農村省(Departmentfor Environment, Food and RuralAffairs:DEFRA)は、2002年5月1日、英国政府で初めてとなる海洋戦略文書「私たちの海の保護:海洋環境の保全と持続可能な開発のための戦略」を公表した。原題は、SAFEGUARDING OUR SEAS:A Strategy for theConservation and Sustainable Developmentof our Marine Environmentで、約80ページのものである。島国の英国にとって海洋は国家の重要案件であり、2001年3月にブレア首相は、海洋保全強化のための内外における措置を開始する旨述べており、本書の公表は、この端緒となるものである。以下に要約部をもとに、概要を紹介する。

環境・食料・農村大臣の緒言要旨

「海洋の保護についてこれまでかなりの進展が見られるものの、海洋環境はなお危険に晒されている。本報告書は、海洋環境問題への統合的なアプローチを示しており、一面的な考え方を捨てて、いかにエコシテムに基づいたアプローチを用いるかを示すものとなっている。また、われわれの理念を現実のものとするための数々の新たな取り組みも示している。ただし、これは最初の第一歩であり、なすべきことはまだまだたくさんある」(Margaret Beckett)

第1章 ビジョンとその実現

海洋環境のビジョンとして、「クリーンで、健康で、安全で、生産力が豊かで、生物多様性にあふれる海洋」と規定し、その実現の取り組み方針として次の6点を提示している。

1)持続可能な開発:今日の世代のニーズだけでなく将来の世代のニーズを考慮、2)統合的な管理:海洋環境を管理し、海洋環境に影響を及ぼす全ての関係者が共通の理解の下に共同で作業するように広い視野を確保、3)生物多様性の保全:英国の生物多様性の保全の強化及び地球規模の生物多様性の保全への貢献、4)科学の強化:海洋環境に影響を及ぼす作用についての理解の増進と政策決定・海洋管理への科学的知見の活用、5)予防的アプローチ:科学的に未解明の分野においては、過ちを犯すことを考慮に入れて安全サイドに行動、6)広範な関係者の関与:意思決定の全てのプロセスにすべてのstakeholderの関与を確保。

第2章~第9章

各項目について、英国の取り組みの経緯・現状を紹介するとともに、今後の取り組みの方針を提示。本報告書で示されている主要な新規施策には次のようなものがあげられている。

  • 重要な動植物の保護:EU指令に基づき設定した動植物特別保護区及び鳥類特別保護区の領海(12海里)外への拡張(2002年末)
  • 英国における海洋保全の強化:英国における法定・任意の海洋自然保護措置の有効性を評価し、改善の提言を行う「海洋自然保護調査(The Review of Marine Nature Conservation)」の2001年3月の中間報告書で提言された「パイロット事業による各海域ごとの自然保護への取り組みの確証」のフォローアップとして、アイルランド海でパイロット事業を2002年5月から開始。2004年初めに成果取りまとめの予定。
  • 持続可能性の追求:ECの漁業における生物的多様性プログラムの実施を推進するとともに、持続可能性と生物的多様性に重点をおいたEUの漁業基本政策の見直しを実施。
  • 一層の統合性強化:海洋環境に関する空間区分計画の役割を検討するとともに、英国沿岸域の既存の海底地形図に重要な海域を明示。
  • 効果的な取り組みの追求:現在の沿岸域の開発規制を、規制システムの単純化、環境保全の強化を目的として見直す。
  • 政府内調整の改善:海底に影響を与える活動に関する政府内の合意形成の効率化を検討。
  • 進捗度の評価:海洋環境の持続的管理のための指標である生態学的質の目標(Ecological Quality Objectives)の策定を、近隣諸国と協力して推進。
  • 関係者の関与:ECの統合的沿岸域管理に関する勧告の実施について、イングランド・ウェールズ・スコットランドのフォーラムや北アイルランドの関係機関と検討。
  • 開発目標の共有:2002年世界サミットにおいて、海洋環境管理が地球的課題の解決に貢献することを強調。
  • 公海における海洋生物保護の強化:公海における海洋保護区設定の事例とその可能性を国際機関の場で検討。
  • 国際協力の強化:国連をはじめとする各種の国際機関における各国の協力・協調の拡大を促進。
  • 海洋科学研究の強化:政策目標を支える科学的根拠を確実なものとするため、海洋研究計画を見直す。
  • 効果的なモニタリング:環境モニタリングの枠組みを確立するとともに、2004年に統合的な海洋の評価を発表。

なお、付録A(ビジョン実現のための主要目標達成の予定表)で、海洋管理のための主要な措置の達成目標を、2020年まで目標年次とともにリストアップしているのが注目される。

■付録A 理念実現のための主要目標達成の予定表

2002
  • アイルランド海における自然保護パイロット事業開始
  • OSPER条約の目標達成のための2020年までの放射性排出物の管理戦略を発表
  • 海洋環境高危険区域の指定
  • 沿岸海域の開発規制の見直し開始
  • 動植物特別保護区及び鳥類特別保護区の領海外への拡張(200海里まで)の検討・実施
  • 京都議定書の批准(8月の世界サミット前)
2003
  • 海洋石油ガス事業向けの探査から施設廃棄まで一貫した統合的環境規制の策定
2004
  • アイルランド海自然保護パイロット事業の成果とりまとめ
  • 海洋環境管理の指標となる生態学的特性目標(EcoQO)の策定完了
  • EcoQOに基づく統合的評価を行った海洋環境報告書を公表
  • 再生可能エネルギーの研究開発に£2.6億を投入(2001-2004年)
2005
  • 生活廃水の基準値適合促進のため2005年までに£6億を追加投資(2001-2004年)
2006
  • 英国の海岸の将来ヴィジョンを策定
  • EOSPER条約による海洋油井からの排水中の油分15%削減の目標年次
2010
  • EU第6次環境行動計画による生物学的多様性減少の停止期限
  • 電力供給の10%を再生可能エネルギーから供給
  • 京都議定書による二酸化炭素排出20%削減の目標年次
2015
  • シングルハルタンカー入港禁止
2020
  • 有害物質の海洋への排出を実行可能な限り減少させるOSPER条約による目標年次
  • 放射性物質の海洋への排出を極小値とするOSPER条約による目標年次

<関連サイト>
http://www.defra.gov.uk/environment/marine/stewardship/default.htm

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