Ocean Newsletter
第54号(2002.11.05発行)
- シップ・アンド・オーシャン財団 海洋政策研究所長◆寺島紘士
- インフォメーション◆市川吉郎(ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部)
- インフォメーション◆Ship & Ocean Newsletter 編集部(監修:中原裕幸 (社)海洋産業研究会常務理事)
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- ニューズレター編集委員会編集代表者 (横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新
米国海洋政策審議会の動向について
インフォメーション◆市川吉郎(ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部)米国では21世紀に向けた海洋政策を立案するため、「2000年海洋法」に基づき海洋政策審議会が設置され、大統領に今後の海洋政策の基本指針となる答申を提出するべく、審議が続けられている。予定されているスケジュール通りに進めば、審議会は2003年3月に答申を提出し、大統領は答申受領後120日以内に「国家海洋政策」を策定し議会に報告することとなっている。
行政機構の複雑さを指摘
現在、海洋政策審議会は、2000年海洋法で開催を義務付けられていた地方公聴会を終えたところである。公聴会は、米国の沿岸域を7つに区分して開催され、様々な意見が出されたが、米国の現在の海洋政策の問題を突いた意見もあり、少し整理してみたい。
一つは関係する官庁の多さと関与の複雑さである。一説によると海洋に何らかの形で関与している連邦政府機関は20以上といい、さらに通常、沿岸海域は州の水域として州が管轄権を有している。行政機構の縦割りに加えて横割りも存在するわけで「海洋保護区域が目的を達せられるかは、連邦、州及び地方の関係行政機関相互の連携にかかっている」とする意見もあった。複雑な行政機構の整理の必要性は共通した意見であったが、既存の連邦政府機関を再編し「連邦海洋省」を設置すべきという意見もあった。
海洋の利用者と環境保護派の対立
次に目立ったのは、海洋を利用する者と、保護する者との間での対立である。石油・ガス業界は、2000年に国が得た海洋鉱区リース料は50億ドルに達すると指摘した上で、今後、大水深海域における海底石油・ガス資源の需要は飛躍的に伸びるとし、関係インフラストラクチャーの整備や、浮体式生産施設等に対する適切な規制の導入、規制官庁の一本化等を訴えた。漁業関係者の多くは、現在の海洋生物資源の保護は実際には十分に機能しておらず、米国籍漁船が操業を制限されている海域で外国籍漁船が自由に操業していると批判し、海洋保護区域についても「海洋へのアクセスを過剰に制限している」と批判した。
以上に対し、環境保護派からは海洋における石油・ガス開発の全面禁止や、海洋保護区域は生態系を有効に保護しているとして海洋保護区域を拡充すべき、等の意見が出された。ただし、環境保護派の中には、海洋保護区域の設定や管理については、関係者間での意見調整が重要、とする慎重な指摘もあった。また、少数ながら一部の環境保護派からは、捕鯨禁止の継続、ミナミマグロ漁獲制限条約(ホノルル条約)へ日本を加盟させるべく圧力をかけることが必要、返還核燃料廃棄物の海上輸送に対する国際的な包括規制の整備が必要、といった意見も出された。
海洋に関する教育や研究等
造船や海運に関しては目立った意見はなかったが、ある観光業者は「海洋ほ乳類保護法」によりクジラ等への接近が禁止されている例を挙げ「これは海運や観光に非常にネガティブな影響を与えている」と指摘した。また、海軍も同法により艦隊の活動や演習に支障を受けている、とした。
このほか、海洋科学者からは「米国では冷戦終結後、海洋の研究は儲からない分野になっており、若手の研究者が育っていない。このままでは米国が海洋の分野で、引き続き21世紀も世界のリーダーシップを取るに必要な人的資源が失われる」として、海洋に関する教育や研究の充実を訴える意見が多く出された。
注目される答申の内容
米国の海洋政策審議会は、今後、以上のような意見を考慮して大統領への答申の作成に入ることとなる。比較的意見の集約化がし易い分野もあるが、海洋の利用と保護については、容易なアクセスを求める利用者側とアクセスを制限すべきとする環境保護派との間で意見が分かれている。また、審議会では当初の予定にはなかった「セキュリティ」も検討課題に加えるとしている。
なお、この審議会は、1970年のNOAA設置の根拠となった報告書をまとめたいわゆる海洋科学審議会(委員長の名にちなんでStratton審議会と言われ、1967~69年に審議を行い、報告書は「Our Nation and Sea」と題する大部のものであった)に匹敵する歴史的に重要な審議会と位置付けられており、今後、同審議会がどのように意見を集約し答申に反映させるか、注目されるところである。また、在野では、George Patakiニューヨーク州知事ほか有力な政治家、市長、海洋関係有識者等17名で構成するPew Ocean Commissionもほぼ同時期に同様の報告書を発表の予定である。
<関連サイト>
http://www.oceancommission.gov/
http://www.pewoceans.org/
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新