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オーシャンニューズレター

第322号(2014.01.05発行)

第322号(2014.01.05 発行)

新しい海へ乗り出す我が国海事産業

[KEYWORDS]海洋資源/ブラジル/シェールガス
国土交通省海事局長◆森重俊也

大きな潮流はおよそ3年前から始まった。わが国海事産業と行政は、成長を続ける海洋エネルギー開発・輸送市場の獲得に取り組んでいる。国土交通省も、市場参入のキーとなる技術開発・事業化を支援している。
新市場の獲得に向けた取り組みは、海事産業の在来事業への相乗効果も期待され、EEZの資源・エネルギー開発におけるわが国企業による事業化につながっていく。

成長を続ける海洋エネルギー開発市場の獲得へ

■(上段左より)ドリルシップ(出典:川崎汽船(株))、オフショア支援船(出典:ジャパン マリンユナイテッド(株))、ロジスティックハブ(国土交通省資料)、FLNG(出典:三井海洋開発(株))

大きな潮流はおよそ3年前から始まった。国土交通省での新造船政策検討会において官民挙げた議論がスタートし、一流の造船国であり続けるために、造船力の強化、新市場・新事業への展開、さらには海洋分野への進出が提唱された。日本の造船業界も海洋開発に大きく乗り出し、海運業界の動きとともに、全体となってうねりが起こってきた。
世界では、人口増加、経済発展などに伴い、石油・天然ガスなど資源・エネルギーの需要は年々増加している。中でも、海洋からの生産が増加し、現在、石油・天然ガスの全生産量の4割程度を占めている。今後も海洋、さらには、3,000mを超える深海底からの生産が活発化する見込みで、海洋資源開発に用いられる施設や船舶の需要は、2020年には2010年の3倍の約11兆円に達すると見込まれている。
海運業、造船業をはじめ、わが国海事クラスターも、このような需要を取り込み、新たな成長につなげていくことが重要である。一方、欧米の石油メジャーにより確立された商慣習の中では、実績が重視されるなど、市場参入は容易ではない。その中で、大規模な海洋石油・ガス開発が進むブラジルについては、わが国との良好な関係も構築されてきている。造船分野でも1959年から35年間にわたる石川島重工業(当時)と旧イシブラス造船所との協力など、長年にわたり協力の歴史があったことに加え、わが国の技術への期待も高い。ブラジルで実績を積み重ねていくことにより、世界のマーケットにおける存在感も増し、アフリカなど今後需要の伸びが期待される他地域での市場獲得にもつながっていくと期待される。
造船会社関連では、2012年の川崎重工業を皮切りに、2013年のIHIなどのグループ、さらに、同じく2013年に三菱重工業などのグループが相次いで、ブラジルの造船所への資本参加による参入を進めている。海運会社関連においても、川崎汽船、日本郵船、商船三井が、掘削装置を搭載し海洋資源の探査・採掘などを行うドリルシップや、石油の生産・貯蔵・積出を行う浮体式設備であるFPSO(Floating Production, Storage and Offloading)の傭船事業などに参画している。さらに、2013年2月には、洋上ロジスティックハブ※1などの新たな海洋開発プロジェクトの実現に向けた研究開発のため、わが国造船・海運事業者が集結してJ-DeEP技術研究組合を設立した。現在、プロジェクト受注に向けた取り組みを進めている※2。

シェール革命による新たなエネルギー輸送ルートの出現

■シェールガスの輸送経路

米国ではシェールガスの輸出が解禁され、2017年頃から輸入プロジェクトが開始される予定となっている。また、パナマ運河も2015年に拡張される予定であり、これにより、米国東岸からパナマ運河を経由し、太平洋を横断する新たなLNG輸送の幹線航路が出現することとなる。さらに、カナダからも、2020年頃から輸入プロジェクトが開始される見込みとなっている。こうした新ルートをめぐり海運企業による国際競争がスタートする。
また、世界のLNG輸送船は2013年時点で約360隻とされていたが、今後、50~100隻(1~2兆円規模)の新造船市場が見込まれる。わが国造船業界においては、共同受注会社の設立や次世代の高輸送効率な大型タンクを有するLNG船の開発などが行われてきている。

市場参入のキーとなる技術開発・事業化を国土交通省も支援

世界的に拡大する海洋エネルギー開発市場の獲得に向けて、まずはブラジルでプロジェクトの実績を積むことが必要不可欠である。このため、国土交通省としても、わが国造船・海運業界の動きをバックアップし、具体的なプロジェクト獲得に向けた環境整備を行っている。
具体的には、大水深の沖合で展開されるFLNG※3は1隻5,000億円~1兆円の大型洋上生産施設であるが、そのための洋上での定点位置保持技術、深海域で展開される設備(大水深掘削リグなど)に用いられる技術などの開発に対する支援、FLNGの安全要件の策定などのほか、二国間の政府間協議、ラウンドテーブルをはじめとする官民対話などを行っている。
また、シェール革命、パナマ運河拡張に伴い拡大するLNG輸送市場の獲得については、多数船舶の一括受注を可能とする事業再構築に対する支援、大型LNGタンクの投入に向けた支援を行っている。高度な技能・オペレーションが求められるLNG船の船員の育成も必要となる。わが国の資源・エネルギーなどの安定的な輸送を確保する上で、国際市場の中での競争力を持つグローバルプレーヤーが必要である。海洋開発でつちかった技術力・事業化力が、本業へもフィードバックされ、在来事業にも相乗効果をもたらすことが期待される。
このような新たなフロンティアである海洋において、官民一体となって取り組みを進めることにより、わが国EEZ(排他的経済水域)における資源・エネルギーの開発を行う際に、国際競争力のあるわが国企業による技術を活かした、自前の事業化が可能となるように取り組みを進めていく必要がある。
2013(平成25)年4月、第2期「海洋基本計画」が閣議決定された。これは、海洋立国日本を推進していくための今後の指針であるが、この中では、わが国として重点的に推進すべき取り組みとして「海洋産業の振興と創出」が一番初めに掲げられた。国土交通省海事局としても、この海洋基本計画の下、施策を強力に推進していくこととしている。(了)

※1 洋上ロジスティックハブ=多数の洋上施設への人員、機材をハブ・アンド・スポーク方式で輸送するための大型浮体。
※2 「海洋ロジスティックハブ構想の展望~技術的課題について~」、珠久正憲、本誌第310号(2013.7.5発行)を参照下さい。
※3 FLNG (Floating Liquefied Natural Gas)=液化天然ガスの生産・貯蔵・積出を行う浮体式設備。

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