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オーシャンニューズレター

第310号(2013.07.05発行)

第310号(2013.07.05 発行)

海洋ロジスティックハブ構想の展望~技術課題について~

[KEYWORDS]J-DeEP技術研究組合/大水深海域海洋開発/海洋産業振興
J-DeEP技術研究組合 理事長◆珠久(しゅく)正憲

本年2月18日国土交通省により設立が認可されたJ-DeEP技術研究組合は、ブラジルの沖合、大水深海域での実プロジェクトを通して、浮体式構造物活用技術の適用拡大と基盤技術を磨き有用な人材を育成して、日本のEEZ内の資源開発等将来の海洋産業振興を目指す。

J-DeEP技術研究組合

J-DeEP技術研究組合(Japan Offshore Design and Engineering Platform)は、本年2月18日に国土交通省より設立が認可された。IHI、JMU、MHIやNYKなど、海洋進出に意欲のある造船会社、船会社が、会社の枠を超えオールジャパンで取り組む官民連携のプロジェクトであり、当面ブラジルにおけるロジスティックハブシステムの実現に重点を置いている。このような実プロジェクトの展開を通して、様々な特長を有する浮体式構造物活用技術の適用拡大を図るとともに、中長期的には大水深海域での係留等基盤技術、要素技術の研鑽とリスクが多い海洋のプロジェクトを的確にマネージメントできる人材の育成を図り、将来のEEZ(排他的経済水域)内でのわが国の資源開発に備えたいと考えている。
わが国の海洋開発はセミサブリグ、洋上石油備蓄基地、メガフロート、地球深部探査船ちきゅう、FSO、FPSO※などの多岐にわたる研究、設計、建造の歴史があるとはいえ、現在世界的に脚光を浴びている海洋の石油・天然ガス開発市場においては、産業として確固たる地位を築いているとは言い難い。今や商船から海洋に軸足を移しつつある韓国の造船業に比べ周回遅れの感さえある。国際的な海洋開発最前線で勝負する機会が少ないため、わが国の海事産業各社が保有する技術、人材は一部を除き極めて弱体化しており、現在の延長線上に日本の「海洋産業」の明日はないといっても過言ではない。技術研究組合というプラットフォームに各社連携して英知を結集し、実プロを連続して展開する中でこの悪循環を断ち切ってゆく必要がある。
折りしも本年4月26日「海洋産業」の振興と創出を重点課題とする政府の新しい海洋基本計画が閣議決定された。これを受けて、湯原哲夫氏は4月30日付日本経済新聞の『経済教室』の欄に「海洋産業の創出へ」と題する一文を寄稿されている。湯原氏はこの中で、海外の成功事例に基づき、海洋産業創出のために重要な4ステップ、即ち(1) 政策目標と法整備(政治主導)、(2) 基盤構築(官主導・民支援)、(3) 実海域での事業化プロジェクト(官民連携)、(4) 商業化と国際競争力強化(民主導・官支援)を挙げられているが、J-DeEP技術研究組合の活動は「公的資金を活用して民間企業のリスク軽減を図り、実際の海域における官民合同のプロジェクトを実行する」(3) のステップに該当すると考えられ、将来の日本の海洋産業振興の成否を左右する重要なプロジェクトであると認識している。

海洋ロジスティックハブ構想と技術課題

■ロジスティックハブ方式のイメージ

さて当面の重点課題「海洋ロジスティックハブ」構想についてである。従来開発が進められてきたブラジル沖の鉱区では、陸からの距離が100キロ程度であることもあり、石油・天然ガス開発に供される掘削船やFPSOへの人員の輸送には主としてヘリコプターが使用されてきたが、今後開発が進むサントス周辺の南部の鉱区では、海域の大水深化、沖合化が進行し陸からの距離が200~300キロとなり、従来の方法では途中で燃料の補油が必要になるなど経済性に問題が発生する可能性が出てきた。これに対してわれわれは、大型浮体で中継基地(ロジハブ浮体)を造り、陸地から400~500人規模の人員を高速船で移送、一旦ロジハブ浮体に乗船後ヘリコプターで掘削船やFPSOに人員を輸送する「海洋ロジスティックハブ構想」を提案することにした。わが国がこれまでに蓄積してきた高速船や大型浮体のエンジニアリング、品質保証、環境保全、建造技術を組み合わせれば、客先要求に適合し高い信頼性を有する新しいシステムの提供が可能と判断した。ロジハブ浮体にはヘリコプター用設備とともに、天候急変などに備えた宿泊設備や医療設備も配備することにしている。
もちろんブラジル沖合の過酷な波浪条件を考慮すると、高速船の動揺、乗り心地の問題、ロジハブ浮体への高速船の安全で効率的な曳き入れ、着桟、乗降の問題等解決すべき課題も多い。われわれは、関連メーカーも巻き込みブレーンストーミングを積み重ね適切なソリューションを追及するとともに、最終的には世界に誇る(独)海上技術安全研究所(以下、海技研)の実海域再現水槽や操船リスクシミュレータを用いて、その安全性、信頼性等を総合的に実証する予定である。
なお既存技術の組み合わせであっても新規性の高いコンセプトにおいては、稼働後のリスクを適切に評価しておくことが肝要であり、この分野での海技研の知見を活用するとともに、第三者機関としてABSやDNVの船級協会の評価を求めたいと考えている。
海洋ロジスティックハブ構想はブラジル国内だけでなく世界的に水平展開を図りたいが、これに留まらず、サイトでの工期が短く移動が可能であるという浮体の特長を活かしたインフラ施設の需要発掘にも取り組みたい。

夢の実現を求めて

以上、技術の観点にポイントを絞りJ-DeEP技術研究組合の活動を紹介した。その他でもファイナンスも含めた事業スキームの確立等も重要であり、関係各位のご協力も得て取り組む所存である。
プロジェクトは壮大な夢から出発し、それに感応する熱い人間を結集してチームの総力を挙げて夢の具体化=実機実現を目指す活動プロセスである。ただ成果を得ずに華々しく散ってしまっては社会への貢献もなく意味がない。また挫折感も大きく、次代を担う若手も育たない。強かに、しなやかに創意工夫を重ね、愚直に夢の実現を求めて参りたい。(了)


■研究開発体制

※ FPSO=浮体式海洋石油ガス生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading System)、多くが船舶状の形状をしている。生産設備を持たず、貯蔵・積出のみを目的としたものはFSO(浮体式貯蔵積出設備、Floating storage and offloading vessel)と呼ばれる。

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