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オーシャンニューズレター

第310号(2013.07.05発行)

第310号(2013.07.05 発行)

こどもの日旅客船体験の取り組み

[KEYWORDS]こどもの日/小学生運賃無料/初めての旅客船体験
(一社)日本旅客船協会常務理事◆大脇 充

潮干狩りや海水浴の体験はあっても、船に乗ったことがある子供たちは少ないのではないだろうか。わが国の将来を担う子供たちに旅客船体験をしてもらうことにより、海洋立国日本における「海洋に関する国民の理解の増進」に資することができれば幸いである。
(一社)日本旅客船協会では、今年の「こどもの日」に「小学生運賃無料キャンペーン」を実施したが、今後も「海の日」や「こどもの日」にこの取り組みを継続し、海事思想の普及に貢献したい。

旅客航路事業の現状および海上観光の活性化

旅客航路事業とは、「旅客船(13人以上の旅客定員を有する船舶)」により人の運送をする事業であり、一定の航路に旅客船を就航させて一定の日程表に従って運送する旨を公示して行う「旅客定期航路事業」と一定の航路に旅客船を就航させるが日程表の公示をしない「旅客不定期航路事業」に区分される。さらに「旅客定期航路事業」は特定の者の需要に応じて、特定の範囲の者の運送を行うか否かによって、「一般旅客定期航路事業」と「特定旅客定期航路事業」に区分される。ダイヤを定めて乗合運送をする「一般旅客定期航路事業」はいわゆる定期船であり、ダイヤを定めず主として貸切り運送を行う「旅客不定期航路事業」も数が多い。
これらの旅客航路の現状として、一般旅客定期航路事業が415事業者、563航路、1,260隻、旅客不定期航路事業が539事業者、1,129航路、1,102隻となっている(国土交通省海事局調べ(平成24年4月現在))。平成22年度の輸送実績は、輸送人員で8,505万人(対前年度比7.7%減)であるが、35年前の昭和50年度の17,010万人に比べると半減している。
(一社)日本旅客船協会では、国土交通省が設置した「船旅の魅力再生のための懇談会」の提言を検討・具体化する場として、2004(平成16)年に旅客船活性化委員会・ワーキンググループを設置した。国土交通省の提言に盛込まれた項目(船旅情報誌の発行、「船から見る風景100選」の選定、旅行業者担当者向けのファムトリップ・セミナーの実施等)に取り組んできたところである。
当協会では、海上観光の活性化への取り組みをより一層強化する必要があるとの判断の下、平成24年度の組織改革で、上記委員会を改組して「観光部会」等を設置して具体的な活性化策の検討に着手した。

こどもの日小学生運賃無料キャンペーンの取り組み

■「小学生運賃無料キャンペーン」のチラシ

観光部会では、初事業として、5月5日の「こどもの日」に旅客船の小学生運賃を無料とするキャンペーンを実施することを決めた。
このキャンペーンは、日頃、フェリー、遊覧船などの旅客船になじみのない子供たちに船旅体験の機会を提供して船への理解を深めてもらう社会貢献と、キャンペーン実施により旅客船の知名度アップ効果が得られるという宣伝効果も念頭に置いている。旅客船利用活性化の方策として一定の効果が見込まれるとの判断の下、いわば一石二鳥の効果をねらったものである。
初めての試みであるため、すべてが手探り状態で試行錯誤の連続であったが、実施案が海上運送法、独占禁止法等の諸法令違反しないよう、事前に関係省庁と相談しながら慎重に作業を進めた。特に、独禁法関係では、公正取引委員会の見解を踏まえて、協会が決して事業者に強制することなく、事業者の自由意思でキャンペーンへの参加・不参加を決定する仕組みとした。
3月15日の部会で実施計画を決定、直ちに全国の会員に参加を呼び掛け、半月後に参加申込みを締切る、という忙しいスケジュールを設定した。それにもかかわらず、観光船・短距離航路を中心に73事業者(85航路)から参加申込みを頂いたことは、感謝に堪えない。

キャンペーンの反響

参加事業者・航路の情報は、国土交通省の記者クラブ(一般紙、専門紙、テレビ、ラジオ)に広報資料を提供し、協会ホームページにもキャンペーン特別サイトを開設して情報提供した。また、キャンペーンのPRのため、ポスター(B2判)・チラシ(A4判)(写真参照)も作成し、参加事業者の他、関係先に配布した。
通信社による配信効果もあって、一部の全国紙の他、多くの地方紙で取り上げられるなど、電話での問合わせ等も含め一定の反響はあった。
キャンペーン終了後に、参加事業者から反響・感想等を聴取した。乗客の感想として以下の諸点が挙げられた。
・窓口で無料であることを知り、ラッキー、良かったねと喜ばれた。
・良い企画だと思う。どんどんやってほしい。
・子供が親に乗船をねだる姿や、乗船した子供たちのはしゃぐ姿が見受けられた。
・子供が「ありがとうございます」と大きな声で乗船されていた。
これに対して、事業者としての意見には次のようなものがあった。
・一日船長や船内探検クルーズなどを行うことにより、楽しんでいただけた。
・キャンペーンを承知して来船した方はいない。周知を徹底する必要がある。(複数意見)
・子供に「ありがとうございます」と礼儀正しく礼を言われ嬉しかった。
・お客様の喜びの声を多数聞けて良かった。
・チラシは立派なものでなくてもよく、A5判程度で大量に作ってほしい。
この取り組みの知名度・認知度は、周知期間が短かったせいもあってまだまだ低く、一朝一夕にはいかないことは百も承知している。繰り返し行うことで徐々にではあるが認知度も上がり、利用者も多くなってくるのではないかと思う。今度の「海の日」にも実施し、来年以降も引き続き取り組みを継続していきたいと考えている。

子供たちに海洋を

わが国が海洋国家であること。これを否定する日本人は誰もいないであろう。海洋産業の振興のためには、まずは国民に海に関心を持ってもらうことから始めなければならない。本年4月26日に閣議決定された第二期海洋基本計画においても、「海洋に関する国民の理解の増進」というテーマが取り上げられているが、当業界の取り組みによって、少しで多くの子供たちが旅客船に親しみを感じるようになり、ひいては海洋全般に興味を持ってもらえればと念じつつ、筆を置くこととする。鉄は熱いうちに打て。(了)

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