Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第310号(2013.07.05発行)

第310号(2013.07.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆米国オクラホマ州の甚大なトルネード被害、欧州中央部やカナダ中西部の大洪水被害など、世界各地から異常気象や極端現象による災害のニュースが引きも切らない。偏西風が蛇行し、湿気に富む大気が南から、寒冷な大気が北から運び込まれて、世界各地で大気の状態が不安定になっているためである。この偏西風の蛇行を引き越す要因に熱帯海洋の海面水温がある。現在、太平洋にはラニーニャ現象が起きていて、西太平洋の水温は高い。一方、インド洋には負のダイポールモード現象が発生し、東インド洋の水温も高まっている。高い海面水温に囲まれたインドネシア周辺では積雲活動が活発である。地球シミュレータを用いた予測では、この状況は晩秋まで続き、来年の初夏頃には、エルニーニョ現象が発生する。
◆5月に国際協力機構(JICA)の調査に同行し、モザンビークの気象や農業関係の機関をいくつか訪問してきた。マダガスカル島周辺で発生するサイクロンの多くはモザンビークに上陸して災害を起こす。それで地域気候変動予測情報の有効性を調べることが目的であった。渡航前に治安の悪さ、A型肝炎やマラリヤなどの感染症の危険を随分と注意されたが、適切な対応をしておけば問題はなく、団塊の世代にとっては「三丁目の夕日」の世界にタイムスリップしたような、不思議な安堵感すら覚えた。豊かな海がもたらすイカやタコ、鰯、鰹、鯛などの海産物が豊富で、ポルトガル文化の伝統を引く豪快な料理はやみつきになりそうである。適切な外資導入政策を採用し、豊かな土壌と資源を生かして、その果実をインフラの整備や人材の育成に回すことができれば、素晴らしい国になるのではないかと思った。日本としては将来を見すえて、効果的な支援をすることが重要である。それにしても中国からの人と資本の流入はこの国においても凄まじい。
◆今号では竹田いさみ氏にインド洋を舞台にした日本と英国の新しい海洋協力の枠組みを提案していただいた。海賊対策、海洋インテリジェンス、海洋開発の三分野をコアにした、新しい同盟である。幕末に来日したアーネスト・サトウの親日活動に端を発し、その後、大きく開花した「日英同盟」を、新たな装いをもって未来に投影する試みは傾聴に値する。
◆珠久正憲氏には造船会社、船会社が連携し、海洋産業の振興基盤をめざして設立したJ-DeEP技術研究組合について紹介していただいた。石油メジャーの無いわが国にとって、海洋産業の振興を実質化するには関連企業が総力を結集する必要がある。それには具体的なプロジェクトが必要であり、ブラジル沖に構想している「海洋ロジスティックハブ」が早期に実現することを期待したい。
◆日本旅客船協会は会員事業者に呼びかけ、5月5日の「子供の日」に旅客船の小学生運賃無料キャンペーンを実施した。大脇 充氏には、その企画から実施に至るまでのプロセス、また反響や感想について紹介していただいた。子供の頃の非日常体験はその後の人生において深く心に残るものである。こうした取り組みが広がり、船旅の魅力が浸透してクルーズ旅行ツアーなどが日常的になった時に、わが国も真の海洋国家になったと言えるのではないかと思う。(山形)

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