Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第322号(2014.01.05発行)

第322号(2014.01.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

謹賀新年
◆平成二十六(2014)年の新春号をお送りする。どのように烈しい天変地異があろうとも、国と国の間に厳しい相克があろうとも、人と人の間にどのような争いが繰り広げられていようとも、新しい年は明け、春は確実に巡ってくる。十世紀の歌人、清原深養父は「昔見し 春は昔の春ながら わが身ひとつの あらずもあるかな」と詠んだ。新古今和歌集に採録されている歌であるが、この心境に近い読者も多いかもしれない。
◆人の一生の有限性、そして地球という惑星の有限性に気づくことは、そこに展開する美しい自然と先人が育んできた豊かな文化を未来世代に伝える役目に気づくことでもある。清原深養父が生きた中世には地球の有限性に対する認識は無かったとしても、当時の無常感には未来世代への文化の伝承という積極的な意味もあったのではないだろうか。歌の世界に限られたものではあっても、新古今和歌集の仮名序にはそうした息吹が感じられるのである。国際科学会議(ICSU)が中心となって推進する「未来の地球(Future Earth)」計画がいよいよ今年から本格化する。これはより持続可能な発展の実現に私たちの世代が努め、未来の地球に生きる世代との衡平性を確立しようというものである。
◆ところで、昨年4月に閣議決定された第二期海洋基本計画の重点項目には海洋の産業の振興と創出が掲げられている。急展開する世界経済の中で海洋エネルギーを確保してゆくには再生可能エネルギーの開発と合わせて、造船業界や海運業界など海事産業の資源開発への参画も重要になる。森重俊也氏には特に官民協力によりブラジル沖で展開を目指している洋上ロジスティックハブを中心に解説していただいた。シェールガスの輸送開始、パナマ運河の拡張にともなう新パナマックス船の登場など海事産業そのものからも目が離せない。
◆髙野宏一郎氏には、離島の振興策として、昨年4月に施行された離島振興法改正の中に明記された「離島特別区域制度の整備」の具体化を提言していただいた。国内一律の制度ではなく、離島の特殊性に配慮した優遇税制により企業や起業家の定住を促がすことなど具体的な方策が示されている。実効ある離島の振興策が着々と図られることを期待したい。
◆昨年の11月24日、〈下町の「江戸っ子1号」が深海7,800メートルで魚撮影〉いう記事が鮮明な魚影の写真と共に新聞紙上に掲載された。小嶋大介氏に本号で解説していただいた産官学金連携事業による海洋探査機の開発が成功したのである。探査機の備えるべき機能を絞り込み、専門分野の異なるプロジェクトメンバーがひとつの夢のもとに協働したことが画期的な成功を導いたに違いない。深海はまだまだ未知の世界であり、公海における国際法の導入にあたっても、まず必要なのは科学的知見の蓄積である。この意味でも深海探査機への期待は大きい。今年は持続的な事業にまで是非とも発展させてほしい。(山形)

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