Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第319号(2013.11.20発行)

第319号(2013.11.20 発行)

科学知識を地方や地域レベルの海洋政策に生かす

[KEYWORDS]アルゼンチン国家海洋政策指針/科学知識の活用/学際的アプローチ
前ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)議長、アルゼンチン海洋アカデミー代表◆Javier A. Valladares

海洋の持続可能な開発と利用を実現するには、地方や地域の政策立案と実施計画の管理が必要である。アルゼンチン海洋アカデミーは、政策決定機関、管理者および他のステークホルダーが現実的な国家政策を推進するのに役立つ『国家海洋政策指針』を作成した。
その科学的知識の有効活用や系統的で学際的アプローチに基づいた発想を紹介したい。

序言

■IOC50周年大会にて。中央がIOC議長(当時)を務めた筆者(2007~2011年任期)

たとえ海に接していなくても、どの国も、どの地域も、海洋、湖沼、航行可能な河川、大洋を繋ぐ運河、あるいは北極ないしは南極などに利害関係を持ち、貴重な資源の活用を望む。この利害関係は、系統的に、しかも持続可能な仕方で、評価され、管理されるべきである。複雑な過程に支配される海洋は、そこからの恩恵が現在および未来の世代に等しくもたらされるように、地球全体への責任感を持って、また生態系を考慮した合理的な利用がなされるように、持続可能な仕方で管理や開発が行われなければならない。地方や地域レベルの政策はそうした方向で計画され実施される必要がある。そこで、アルゼンチン海洋アカデミーは、政策決定者、管理者および他のステークホルダーが政策を推進するのに役立つように『国家海洋政策指針』を作成した。ここに、科学知識の有効活用や系統的で学際的アプローチに基づいた発想を紹介し、他の地域の政策にも貢献したい。

指針の策定

この指針は論争中の問題を回避し、基本的事項や解説程度にとどまりながら、なおかつ国家政策課題として残る事柄について提案を行っている。また、簡単な問題から出発し、より複雑な利害関係が交錯する問題を扱っている。社会の発展段階は、望ましい未来を描き、それを実現する能力と可能性によっても評価できる。この指針は社会、経済の発展に繋がる望ましい未来を特定し、その実現に貢献するために作成された。ここでは、21世紀においては、すべての社会にとって、海洋は恒久的で決定的な益をもたらすべきであると考える理由をまず明らかにし、それに必要な海洋政策を地方や地域レベルで展開するにあたって基礎となる原則を挙げている。それらは以下のとおりである。
科学知識の活用/学際的で系統的なアプローチ/未来世代にとっても安全で健全な環境の海/持続可能な経済発展の枠組みの下での外洋と沿岸域のさまざまな資源開発、評価、育成、活用/政府と非政府系機関、個人や民間セクターとの間の対話/国際的なフォーラムへの参加と協力/予防原則の採用/人材育成/海洋教育と意識向上活動。

海洋行動計画

体系的、実用的、かつ活動的な取り組みで、「海における利害関係、国の主権および海事問題への認識の向上」を検討し、その強化を行うとともに「現存の資源を活用して、海洋の保護、保全、持続的可能な利用のための概念的枠組み」の確立をめざす行動計画を立案した。その本質的要素は次のように分類できる。
1)観測と科学知識ー遠隔測定と現場観測の両方の観測活動を系統的に展開、統合する。観測は、海域の直接的および間接的利用が環境に及ぼす影響の解析と再生可能および再生不可能な資源の評価を主な任務とする。統合された観測情報は主要な海洋・気候現象、更には経済的および社会的現象の予測モデルに貢献するものとなるべきである。観測は海洋利用に必要な監視と情報技術の開発と提供にも役立つ。/海洋の全ての基礎科学、応用科学研究に先端技術を適用する。現業活動(組織的観測など)に対しても先端技術の適用を考える。/海洋科学と現業海洋学(海洋観測)を統合する。/海洋とその沿岸域に存在する海洋資源と、その潜在性について常に調査を行い、適正な開発を実行する。/国家および地域の海洋データシステムを向上させる。/海洋エネルギーマトリックスを確立する。
2)計画ー外洋および沿岸域の課題を国家および地域の計画に反映させる。/海洋空間計画と土地利用計画を統合する。/調査の評価の概念も入れて、量、質の両面で十分な調査を行う。外洋や沿岸域の健康に関する指標を設定し、活用する。/地域共同体の強力な参加を得て、統合的な計画を立案し、分散的な管理を行う。/海洋エネルギーに関する戦略ビジョンを確立する。
3)管理ー海域空間と陸域空間に同等な関連性を与える。/沿岸域と海洋保護区の管理を統合する。/すべての海洋関連会議において、一貫した立場を維持すべく、地域の政策と戦略の調和を図る。/海洋に関連する地方と地域の活動を定量化するため、海洋活動の経済的評価を行うメカニズムを確立する。/海洋政策を管理する地方および地域機関を確立し、政府機関、NGOおよび民間セクターに対して、継続的に協働するように働きかける。/海洋関連のもろもろの経済セクターを連携させる(例えば漁業、水産養殖業、鉱業、海底油田や再生可能エネルギーなどのエネルギー産業、海運業、造船業、観光業、文化活動など)。/他の輸送手段に比べて海運(河川と海洋)の優位性を更に向上させるために水上輸送路と港湾を増強する。/海上スポーツを普及させ、港の整備を促進する。
4)教育と文化ー海洋、環境および海洋技術などを教育のカリキュラムに加える。/経済、環境および社会・文化を三本柱とする観点から、海洋地域の持続可能な発展を目指すよう教育し、行動を起こす。/会議、科学的活動、博物館、水族館および水中文化遺産などの地域文化活動を展開する。/海洋活動に関心を持つ地域に協会、研究所、研究センターなどの創立を促進する。
5)防災・予防ーさまざまな海洋災害(大嵐、洪水、赤潮など)に対応するための多用途システムを確立する。/多方面の情報源から得たデータとその分析を通して気候変化を監視し、災害の予防、軽減と対応などの措置を講ずる。/海洋と沿岸地域において、海洋および陸上起因の海洋汚染の予防と管理を統合的に行う。
6)安全保障と防衛ー地方や地域の管轄下にある海域とその資源の保護と防衛を行う。/海上における人命の保護を担保する。/海洋の生物多様性を保護する。/地域および地球規模的海洋空間の管理に貢献する。/国際条約で規定された核兵器禁止区域の順守を含めて、海洋の平和的利用を促進する。
7)海洋関連知識の周知・普及ー公・民両セクターにおける分析と意思決定を支援することができるよう、海洋データと海洋情報を普及させる。/海図を海洋空間計画および統合的沿岸域管理と連携づける。/地方と地域の住民の海洋問題に対する活動への参加を促す。/海洋と水中遺産の発見、保護および人々の意識向上をめざす。

結論

上記の行動計画は、私たちの夢である未来の海の実現に向けた一つの指針として読んで欲しい。海の未来のために持続可能な発展と生物多様性の保護を保証し、海洋関連のすべての意思決定に対して科学知識を提供する指針である。この計画に記された全項目は、より良い未来を実現していくために、応用し、補完して使用することができる。(了)

※ 本稿は英語で寄稿いただいた原文を翻訳・まとめたものです。原文は当財団HP(/opri/projects/information/newsletter/backnumber/2013/319_1.html)でご覧頂けます。

第319号(2013.11.20発行)のその他の記事

ページトップ