Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第319号(2013.11.20発行)

第319号(2013.11.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆10月中旬、台風26号が関東地方を襲い、伊豆大島では土石流による甚大な被害をもたらした。伊豆大島の災禍で犠牲となられた方がたにお悔やみ申し上げたい。今回の事故で大雨や洪水、土石流の発生にたいする避難勧告をふくむ防災のありかたが検討課題として浮上した。そして、2011年3月11日に発生した地震津波のさいにおける避難のありかたもあらためて思い起こさせた。
◆読売新聞社の記者として活躍し、現在東京大学の海洋アライアンス上席主幹研究員である保坂直紀氏は、今回の津波を振り返り、海洋科学は地震発生後に市民のとるべき避難行動についてはなはだ無力であり、真に有効なメッセージを発することはなかったのではないかと問いかける。あらゆる科学は科学である以上に、ひとつの表現であるべきとする指摘には賛同したい。ちなみにこの視点は言語学における文法と会話とのちがいや、音楽における楽譜と演奏のちがいにも通底することがらである。
◆増水や山くずれによって川に押し出された樹木や流木が下流部で橋桁にひっかかり、水が下流に流れない事態が発生する。川がせき止められることで周囲に水があふれ、浸水被害が増す。日本のように森林が多く、大小の河川が発達している国では大雨による類似の洪水現象が多発してきた。全国の河川流域は洪水の被害と防災についてそれぞれ苦い歴史をもっている。治水の歴史は地域ごとに異なり、一般的な対処方策はない。伊豆大島では火山灰がキーワードとなった。もとはといえば日本列島に大雨をもたらす台風は遠くはなれた南の海で発生する。しかも、大型の台風発生には太平洋における海水温の動向が大きな鍵をにぎっている。だが、台風被害への対策や進路予測、防災へのそなえなどについて克服すべき課題は依然として山積している。
◆アルゼンチン海洋アカデミーのJ・A・ヴァラダレス氏は地域から地球規模での多様な取り組みを海洋政策として進めるプログラムと行動計画を提案されている。海洋観測の活用も提起されている。すでに台風の進路予測では威力を発揮しているものの、肝心の防災面での対応は脆弱である。海の問題は陸の問題でもある。こうした観点から海洋政策が国土と人命を守る陸域での活動と連携すべき面を見逃してはならないだろう。
◆日本沿岸各地にあった干潟の多くは農業・工業用地として埋め立てられてきた。そのことで生物多様性が失われ、森から海にいたる循環や干潟の浄化作用の機能が衰微した。佐賀大学の郡山益実氏は有明海の干潟における環境管理について30年におよぶ研究を通じてそのことを実証してきた。陸の優位を誇示する時代は終わった。海のもたらす恩恵と災禍をともにみつめる視点を読者とともに共有したいものだ。(秋道)

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