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オーシャンニューズレター

第317号(2013.10.20発行)

第317号(2013.10.20 発行)

天然ガス燃料船の普及について

[KEYWORDS]地球温暖化防止/クリーン燃料/産官学の取り組み
九州大学大学院総合理工学研究院教授◆高崎講二

国土交通省は、2012年度に産官学による「天然ガス燃料船の普及促進に向けた総合対策検討委員会」を開催した。船の燃料である重油を天然ガスに転換することは、かつて石炭から重油に切り替わったのと同様のインパクトがある。
ここで、天然ガス燃料船とは何か? 何をねらって普及を図るのか? 分かりやすく解説したい。

背景

国土交通省は、2012年度に産官学による「天然ガス燃料船の普及促進に向けた総合対策検討委員会」(筆者が委員長を務めた)を開催した。そこで、燃料補給のオペレーションに関するガイドラインや船舶設計の詳細にわたる指針を取りまとめ、天然ガス燃料船のこれからの普及に向けた環境を整えた。今の燃料である重油を天然ガスに転換することは、かつて大正時代に石炭から重油に切り替わったのと同様のインパクトがある。ここで、天然ガス燃料船とは何か? 何をねらって普及を図るのか? 分かりやすく解説したい。

天然ガス燃料船の普及の狙い

皆さんをちょっと高校の化学の時間に引き戻すが、都市ガスも最近話題のシェールガスも実は天然ガスであって、主成分はメタンガスである。メタンガスは炭素(C)1個に水素(H)が4個付いた分子の集まりである。一方、ガソリンや軽・重油などの石油系燃料は、1個のCにHが2個付いたものが鎖のようにつながっている。
これらが燃えた時の熱量をエンジンで仕事に変える訳であるが、Hが燃えるとH2O(水蒸気)、Cが燃えるとCO2(二酸化炭素:地球温暖化ガス)が排出される。ここで、石油に比べてHの多い天然ガスでは燃えるCの量は少ない。つまり出て来るCO2も少なくなる(同じ熱量を出しても、石油に比べて約1/4だけ減る)。
今年の夏は本当に暑かった。・・・地球温暖化の話題では、日本の国土からのCO2は地球全体の4%を占めている。一方、どこの国にも属さないが、世界中の海運からのCO2は地球上の約3%を占める。全世界の船が天然ガスに転換された場合のCO2の削減量(上の計算で3%の1/4)は、数字的に日本からのCO2を2割減らすのと同じ効果をもつ。
さらに、海運界の場合はストーリーが比較的簡単である。もし天然ガスの値段が重油よりも安ければ、運航費の削減をねらって世界中に普及することが予想される。関係者は、シェールガス革命による価格の変化に注目している。このほかにも、天然ガスは硫黄を含まないクリーンな燃料であり、これから適用される船からのSOx(硫黄酸化物)規制にも適している。また、重油に比べて煙やPM(微粒子)の排出も極めて少ない。

天然ガス燃料船の現状

■スウェーデンのヴァイキング・ライン社が運航している「ヴァイキング・グレース」(写真:Viking Line)

現在でも天然ガスを燃料とする船は存在する。ひとつは、皆さんもご存知のアイスクリームのお化けのようなタンクを幾つか積んだ大きな船(天然ガスタンカー)で、積み荷のLNG(氷点下162℃で液化した天然ガス)から気化したガスを航海中の燃料に利用している。さらにこれからの取り組みは、コンテナ船や貨物船、客船など多くの船種で天然ガスを利用することである。
この分野で現在進んでいるのはノルウェーやバルト海域の国々で、中小型船舶が40隻程度就航している。これは、北欧における天然ガス供給基地の建設が下支えとなっている。この春の話題では、バルト海の大型フェリー「ヴァイキング・グレース」(6万総トン)が天然ガス燃料で就航した。このような北欧の取り組みも見習いながら、日本では大型外航の船にまで展開したい考えである。

これからの日本の取り組み

多くの種類の大型外航船舶に天然ガスを普及させるには、これからもいくつかの技術開発を必要とする。天然ガス燃料船のコンセプトシップは日本の海運会社や造船会社も発表しており、設計検討は進んでいるものと思われる。天然ガスを燃やすエンジンに関しては、中型のもの(出力:数千kW)も大型のもの(数万kW)も順調に開発が進んでいる。船内のLNGタンクの開発設計も進行中である。これは燃料のタンクであるから天然ガスタンカーほど巨大にはならないが、それでも貨物を積むスペースを圧迫してはならない。また、上記の大型ガスエンジン用の船内高圧LNGポンプも開発されている。
最大の課題は船への補給方法で、外航船舶に普及させるには世界各地の港にLNG供給基地が必要となる。補給方法としては、図の左に示す「Ship to ship」と言われる方法が主となると考えられる。港内の基地でLNGを充填した補給船(小さい方の船)がやって来て、本船に横付けしてホースをつないで移送する。最近の船は荷役停泊時間も短くなっているので、作業を迅速かつ極めて安全に行わなければならない。表記の委員会では特に安全対策の詳しい検討が行われた。
本年から、IMO(国際海事機関)による新造船から排出されるCO2規制も行われている。2015年以降に建造される船では、(貨物トン・マイル当たりの)CO2排出量が現在より10%少なくなるよう規制される(2020年からは-20%、2025年からは-30%)。日本の造船業の世界シェアは3位にまで後退してしまったが、このような課題にこそ技術先進国である日本の出番がある。日本の産官学ではこのような規制も好機として、天然ガス利用による船の環境・エネルギー問題の解決に尽力して行きたいと考えている。(了)

■本船への燃料補給方法の検討


参照 天然ガス燃料船に関する総合対策、国土交通省HP http://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk6_000002.html

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