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オーシャンニューズレター

第316号(2013.10.05発行)

第316号(2013.10.05 発行)

離島における再生可能な海洋エネルギーの活用について

[KEYWORDS]遠隔離島/エネルギー・インフラ/海洋エネルギー
特定非営利活動法人海ロマン21理事◆井上興治

遠隔離島の島民生活に不可欠な電力、用水の供給実態や再生可能エネルギーの導入課題等を把握し、3つの離島をケーススタディとして海洋エネルギーの利用に関する技術的検討、発電コスト、淡水製造コスト等の試算を行った。
構想を推進するために必要な施策や技術開発を論じた『小規模離島における海洋エネルギーの利用による地域活性化に関する調査研究』を取りまとめた。

離島の再生可能エネルギー導入の取り組み

わが国には、6,800余の離島があり、このうち、約420の離島が有人離島である。本調査では、本土・本島から遠く離れ島内居住人口が数百~1万人未満の比較的小規模な約50の離島のうち28島に対して、電力や用水の供給施設の規模、供給量、問題点などエネルギー・インフラの供給実態および再生可能エネルギーの導入状況や導入に当たっての課題についてアンケート調査を実施し22島から回答を得た。
大半の離島では、地域電力会社が島内に設置した内燃力発電(ディーゼル火力発電)を主力電源として電力供給しているが、回答のあった離島自治体の半数は、地震津波や悪天候、不測の停電等に起因する電力供給途絶に対する不安を理由として挙げ、独自の発電設備の配備や燃料輸送の安定確保のため運行事業者との連携の緊密化、再生可能エネルギーの導入の検討などの対策を講じている。
すでに水力、地熱、風力、太陽光等を利用した発電設備を導入している離島は6島あり、各種の再生可能エネルギーの導入を検討していると回答した離島は11島に及び関心の高さを窺い知ることができる。ただ、再生可能エネルギーの不安定さ、採算性の低さ、漁業や自然環境への影響などの課題にも言及し、導入のハードルの高さも認識している。
用水についても、回答の半数を超える離島では安定供給を不安視し、一部の離島では海水の淡水化設備を整備しているものの造水コストが配水料金を大きく上回る逆ザヤ現象が起きている。電力、用水というエネルギー・インフラの安定供給に対する不安やコスト高が、離島の生活維持、産業振興に重い負担になっていると推察される。

海洋エネルギー利用のケーススタディ

 

海洋は離島特有の資源である。この海洋に包蔵される海洋温度差、海流、波力のエネルギーを電力や淡水に変換し、離島の生活安定と地域活性化に資する可能性を検討するため、沖縄県南大東島、鹿児島県十島村中之島および鹿児島県下甑島(しもこしきじま)をケーススタディに取り上げて技術的検討を行った。
沖縄本島から東方海上360kmに位置する人口1,300人弱の南大東島では、海洋温度差エネルギーを発電出力1,000kWの陸上型発電設備で電力に変換し、その電力を使って島民の上水使用量に相当する600m3/日の淡水を製造するプロジェクトを提案した。
発電設備を漁港施設周辺に、淡水製造設備を高台に設置し、水深800mの深層水汲み上げパイプラインは波浪の影響を避けて陸域を掘り下げて敷設する。試算の結果、総建設費は約130億円、年間発電量は7,150MWh、発電単価67円/kWh、淡水製造単価324円/m3(いずれも30年単純償却)と算定された。現在、同島の淡水化設備による飲料水製造単価が約700円/m3であることから増設または代替設備としての実用化の可能性は十分にあると考えられる。また余剰の深層水は、漁港内水域への放流による海域の肥沃化や水産物の冷蔵エネルギーへの利用など水産振興に寄与する副次効果が期待できる。
黒潮の海流エネルギーを利用した着底式の発電構想が可能な海域として、トカラ列島十島村の中核島である中之島北部海域を選定した。海流の流速頻度分布を作成し、水深60mの海域にローター径20mの着底式発電装置を4機設置して中之島の島民約130人の年間電力使用量に相当する電力を生み出す構想を提案した。試算の結果、総建設費8億円、年間発電量は970MWh、発電単価は41円/kWh(20年単純償却)と算定された。
薩摩半島西方50kmの東シナ海に面する下甑島西海岸の漁港の防波堤300m前面に、振動水柱方式と越波方式の2つのタイプのユニットを取り付け発電する波力発電構想を提案した。防波堤前面での周期別の波高発生頻度を気象庁の波浪推算データから算出し、年間平均波パワーを算定したところ、振動水柱方式では2.14kW/m、越波方式では2.28 kW/mとなった。試算の結果、総建設費30~40.5億円、年間発電量は884~854 MWh、発電単価は113~158円/kWh(30年単純償却)と算定された。年間発電量は漁港背後の居住者の年間電力使用量に相当する規模であるが、東シナ海の波パワーが想定ほど大きくないため発電コストが割高になった。より波パワーの大きい海域においてさらに技術的検討を行う必要がある。

離島における海洋エネルギー活用の促進を

閉鎖系の経済社会構造を形成する離島では、電力や水といったエネルギーは住民生活の安定と産業活動の維持に不可欠なインフラであるが、小規模な地域社会ではそれらの供給コストはどうしても割高になりがちである。離島の内燃力発電の発電コストも海水の淡水化コストも使用料金に比べてかなり高いといわれているが、それをもって海洋エネルギーの割高のコストが許容されてよいわけではない。海洋関係産業が総力を挙げてコスト・パフォーマンスの改善・向上のための技術開発を促進すべきである。また、ハード面での検討に加えて、例えば海洋エネルギー特区の指定による優遇措置の導入なども、離島に対するエネルギー・インフラの投資を促進する観点から考慮に値すると思う。
改正離島振興法において、離島の自然特性を活かした再生可能エネルギーの利用推進に適切に配慮することが規定され、新海洋基本計画において、海洋再生可能エネルギーの実用化・事業化の促進と技術研究開発の実施が明文化されるなど海洋エネルギー利用に対する政府の取り組みが本格化してきている。それぞれの離島に適した海洋エネルギーの利用について検討が進むことを期待している。(了)

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