Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第316号(2013.10.05発行)

第316号(2013.10.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆9月中旬には台風18号が列島を縦断するという最悪の進路をとり、秋霖前線を刺激して各地に集中豪雨による大きな被害を与えた。熱帯から日本周辺に至る海水温は高く、まだまだ油断はできない。昨年と同様に、今年の気象も専門家を悩ませている。
◆雨模様の中、ソウルで第7回世界海洋フォーラムが開催され、出席してきた。この会議は2020年までに世界で5指に入る海洋強国をめざして、韓国が毎年開催しているものである。ユネスコの政府間海洋学委員会の現議長は韓国のビョン氏で、その関係で前々議長だった英国のピュー氏(第221号に寄稿)や前議長のアルゼンチンのバラダレス氏らも招聘されており、劣化する海洋環境の保全に関して、海洋科学と政策のギャップについて歓談することができた。海洋の科学的知見を得るには多くの資金を必要とすることに加え、ステークホールダーが多様であり、また各国の利害によりコンセンサスが取りにくいことから、海洋のマネジメントにはどうしても悲観的にならざるを得ない。しかし、2010年12月の国連総会決議(65/37パラグラフ209)で専門家が選出され、2014年までに社会経済的な面も含めた世界海洋アセスメント報告書を纏めることになっているのは極めて朗報である。
◆ピュー氏は、海洋のマネジメントを担う政策担当者には超学際的な「よき科学」が必要であるという。「よき科学」とは科学的整合性を持ち、科学界のコンセンサスが得られており、その科学に基づく政策が妥当なコストで効果的であるということである。しかも「よき科学」に至るには研究資金のドナーの思惑からは独立性が保証され、科学者が専門性を自在に発揮する自由が保証されていなければならない。わが国においても東日本大震災以降、科学技術と社会の関係がさまざまに議論されてきたが、海洋科学と国際政策のクロスロードを歩んできた知己とお会いし、改めてこの問題を再考する機会を持つことができた。
◆今号ではまず井上興治氏に離島における再生可能エネルギーの活用に関して、3つの離島を選びケーススタディを行った結果を紹介していただいた。離島の自然特性を生かして、それぞれ海洋温度差発電、海流発電、波力発電が選ばれている。インフラ投資の環境整備がなされれば、再生可能エネルギーの活用では離島であることが逆に有利に働くような仕組みがあり得るのではないだろうか。上川庄二郎氏には米国のクルーズ船社の日本市場参入を取り上げていただいた。クルーズの旅は豪華なものというイメージが私たちには焼きついているが、魅力的な船旅を程よい価格で楽しめるようになれば多くのファンを獲得することができるように思う。このような「黒船」到来による国内市場の活性化はむしろ歓迎したい。
◆とある研究会で樋口広芳氏から、渡り鳥「ハチクマ」の話をお聞きし、本誌の読者にも是非お届けしたいと考えていたが、今回これが実現した。地球の自然と共生し、進化を遂げた生態系の素晴らしさを堪能していただきたいと思う。大西洋の赤道を越えて両極を行き来する極アジサシはアフリカ東岸の小魚の多い冷昇域をルートにしている。環境の保全は私たち人類だけでなく、地球生命のすべてにとって極めて重要なことを再認識させられた。(山形)

第316号(2013.10.05発行)のその他の記事

ページトップ