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オーシャンニューズレター

第315号(2013.09.20発行)

第315号(2013.09.20 発行)

沿岸域および海洋の風力発電

[KEYWORDS]海洋再生可能エネルギー/浮体式洋上風力発電/港湾域風力発電
足利工業大学学長◆牛山 泉

福島原子力発電所の事故以降、エネルギー政策の見直しが迫られ、再生可能エネルギー導入の必要性が高まっている。
洋上の風力エネルギーは莫大なポテンシャルを有することがわかっているが、わが国の周辺海域においては水深の深い場所が多いため、浮体式の風力発電の早期実現が求められている。着床式は欧州の海洋国である英国が世界をリードしているが、浮体式においては日本が世界をリードすべきだ。

はじめに

わが国の再生可能エネルギーのポテンシャルについては、環境省から最新のデータが公表されているが、風力は、陸上で3億kW、洋上では16億kWという莫大なポテンシャルを有することがわかっている。風力発電は、世界的にも大きな伸びを示しており、2012年における世界の陸上風力発電導入量は2億7,700万kWに達している。これは原発280基分にも相当する。また、洋上風力発電は541万kWとなっており、英国がその55%を占めている。一方、日本の風力発電の導入実績は264万kWで世界の13位と振るわないが、洋上風力発電においては積極的な取り組みが始まっており、その成果が注目されている。

「ここに陸終わり海始まる」

2011年3月11日の東日本大震災に起因する福島第一原子力発電所の事故以降、国民の多くが脱原発を望むようになり、エネルギー政策の見直しが迫られ、再生可能エネルギー導入の必要性が高まっている。この動きを後押しすべく、2012年7月以降、政府は再生可能エネルギーによる発電電力の固定価格買取り制度をスタートさせた。これにより再生可能エネルギー発電事業の事業採算性の確保が容易になったが、風力発電では別の課題が発生している。それは陸上での大規模風力発電事業の展開可能な場所が減少していることである。
そこで注目を集めているのが海域である。ヨーロッパ大陸の西端、ロカ岬にある記念塔には、ポルトガルの国民的詩人カモンイスのバスコ・ダ・ガマのインド航路開拓を讃えた叙事詩『ウズ・ルジアダス』の冒頭の一節「ここに陸終わり海始まる」が刻まれている。15世紀から16世紀は大航海時代の始まり、いま21世紀は洋上風力発電の時代、風車も海の時代が始まったのである。
一般に、洋上は風速が大きく乱れが小さいことから風力発電には適しており、陸上のような敷地の制約や運搬・設置の制約も少なく、大規模風力発電所を設置することが可能で、風車の巨大化とウィンドファームの大規模化によるコスト低減も可能になる。海上での風力発電は、風車の基礎部が海底に設置される浅い海域の着床式と、浮体の上に風車を設置する深海域の浮体式がある。特に、欧州の好風況地帯である北海は水深も浅いことから、欧州10カ国では、2011年までに53カ所の洋上ウィンドファームに合計1,370基の風車が設置され、累積設備容量は380万kWに達している。また、欧州12カ国の承認済みの洋上風力発電プロジェクトは1,800万kWである。さらに、欧州風力発電協会は、2020年までに4,000万kW、2030年までに1億5,000万kWの洋上風力発電を導入するという野心的な目標を掲げている。一方、日本では着床式風車が鹿島港(茨城県)、酒田港(山形県)、そして北海道久遠郡の瀬棚港に合計107基、1万6,500kW設置されているに過ぎない。

世界初の浮体式洋上ウィンドファームへの挑戦

■図1 浮体式洋上風力発電装置「ふくしま未来」、日立製作所2MW

わが国の排他的経済水域は世界第6位であり、莫大な風力ポテンシャルが賦存することが知られているが、わが国の周辺海域においては水深の深い場所が多いため、浮体式の風力発電の早期実現が求められている。これに対して、環境省は長崎県五島列島沖で浮体式風車の実証試験を開始しており、2013年夏に2MWのスパー型浮体式風車を設置する。また経済産業省では、福島県沖で合計出力16MWの浮体式洋上風車の実証試験を進めており、世界初の浮体式洋上風車によるウィンドファームとして世界的に注目を集めている。2013年7月には、図1に示す第一段階の2MWが完成し、2014年夏には第2段階の世界最大級の直径165mの7MW風車が設置される予定である。
浮体式風車の実用化に対しては、安全基準や設計ガイドラインの整備が喫緊の課題であり、各国において作成が進行中である。これを反映してIEC(国際電気標準会議)において国際規格作りが開始されているが、浮体式はわが国がイニシアティブを取るべき立場にあることから積極的な取り組みが望まれる。

港湾区域における風力発電

ここで、陸上から洋上に出てゆく前に、洋上と陸上の境界領域である港湾区域における風力発電設備について調べてみよう。このエリアに港湾本来の機能と共生した風力発電の導入を積極的に進めようという機運が高まっていることから、平成23年度において、地球温暖化対策全般を扱う環境省と国土交通省港湾局が連携し、「港湾における再生可能エネルギーの導入円滑化及び利活用方策に関する検討会」(委員長:著者)が設置され、港湾区域に風力発電を円滑に導入するためのマニュアルがまとめられた。このマニュアルは強制力を持つものではなく、各港湾での事業ニーズに港湾管理者が円滑に対応することを目的としているが、港湾での事業展開を計画している風力発電事業者にとっても参考になるものである。
風力発電の港湾区域への具体的な導入において、港湾管理者の検討を支援することを目的とした「協議会」の立ち上げも提案されているが、この協議会において、港湾本来の機能と共生できる風力発電設備の立地可能な範囲をさまざまな観点から検討し、種々の留意事項を考慮して定められた範囲を、マニュアルでは「適地」と呼んでいるが、そのイメージは図2に示すようなものとなる。
このマニュアル作成の過程での調査の結果、全国の重要港湾126カ所のうち、風力発電に有望な平均風速毎秒6.5m以上で、洋上に1基以上の風車設置可能な港湾が51カ所もあることが判明した。これは合計すると風力発電500万kW程度の導入ポテンシャルに相当し、これにより年間125億kWh程度の発電が可能であり、これは原発2基分にも相当する。従来のポテンシャル調査では見落とされていたものである。洋上風力発電において、着床式は欧州の海洋国である英国が世界をリードしているが、浮体式においては、同じ海洋国である日本が洋上風力発電産業の確立も含めて安全安心な超大型風車をもって世界をリードすべきであろう。(了)


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