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オーシャンニューズレター

第315号(2013.09.20発行)

第315号(2013.09.20 発行)

地方自治体の海域管理のための財源を考える

[KEYWORDS]沿岸・島嶼自治体/海域面積/財政需要
沖縄県竹富町長◆川満栄長

普通交付税算定に用いる測定単位(面積)には、国土地理院が公表する面積を用いることとされているため、琵琶湖、宍道湖、猪苗代湖などの内水面は地方公共団体の面積に含まれている。
一方、同様に地域に密接した生活域でありながらサンゴ礁、干潟等の海域は面積に含まれていない。このサンゴ礁等の海域が普通交付税算定に編入されれば、海洋環境をより良い姿で後世に引き継いでいくための財源担保が図られ、健全な地域社会形成に大いに貢献するものと考えられる。

はじめに

■竹富町の海域、石垣島と西表島の間に広がる石西礁湖
(写真提供:沖縄総合事務局石垣港湾事務所)
●竹富町HP http://www.town.taketomi.lg.jp

沖縄県竹富町は、サンゴ礁海域の中に9つの有人島を含む16の島々を管理する島嶼自治体である。本町におけるサンゴ礁海域は、漁業資源、観光資源としての産業活動の場であるとともに、島と島の間の航路は陸地における道路と同様の役割を果たしており、地域住民の生活域そのものと認識している。2007(平成19)年に施行された海洋基本法を受け、離島の保全や沿岸域の総合管理など同法の理念を本町の立場から具体化しようと、2011(平成23)年3月に独自の『竹富町海洋基本計画』を策定し、各種取り組みを開始している。その施策項目の一つとして、本町のサンゴ礁海域を地方交付税の算定に導入していく取り組みを掲げている。本町の行政区域についてみると、陸地面積は約334km2となっているが、サンゴ礁海域を含めると総面積630km2、海岸延長距離382kmを実質管理している。この広大な面積と長い海岸線を管理するための行政コストは、内陸型自治体および単独離島型自治体に比べて割高となっているのが現状である。
これらの背景を踏まえ、本町周辺のサンゴ礁海域を普通交付税の算定対象に位置づけ有効な海域管理を実施するための財源創出に向けた基礎資料の作成および県内外の賛同する自治体との連携を深めていくことを目的として、平成24年度において「サンゴ礁等海域における地方交付税算定面積基礎調査事業」を実施した。その主な取り組み内容について紹介したい。

関係自治体の現況調査

離島を有する全国166市町村を対象にアンケート形式で「海域の普通交付税算定に係る動向調査」を行った。このうち、117市町村が回答し、海域面積の普通交付税算定基準への導入について、65.5%にあたる75市町村が「関心がある」と回答した。「関心がある」と回答した中でも、沖縄県石垣市と鹿児島県与論町は「同様の取り組みについて具体的な検討が始まっている」と回答。24市町村が「具体的な取り組みはないが、今後検討したい」、49市町村が「関心はあるが取り組む予定はない」と回答した。また、想定する海域の範囲については、具体的な海域を示した回答は15件で「閉鎖性の内湾」「干潟」「藻場」「サンゴ礁」「島しょ間」「沿岸の一定距離」「海底火山など連続した地形の範囲」と意見が分かれた。

シンポジウムの開催

■2月に行われたシンポジウム。パネルディスカッションでは首長らが意見を交わした。

2013年2月1日、役場本庁舎がある石垣市内にて「地方自治体の海洋政策に関するシンポジウム-海域管理のための財源を考える」を開催した。本シンポジウムは、本町が主催となり、海洋政策研究財団(OPRF)、(公社)日本海難防止協会(JAMS)、NPO境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)が後援団体として協力いただいた。
本シンポジウムは、沿岸・離島自治体における海域管理とその財政問題に焦点を当て、同様の問題を抱える全国の自治体との連携を図るために企画したものである。
第1部の海洋政策研究財団の寺島紘士常務理事による基調講演「わが国の海洋政策と海洋基本計画」では、海洋基本法策定の経緯や海洋基本計画の概要、特に地方自治体の責務、沿岸域の総合的管理、離島の保全等など地方自治体に係る事項について説明があった。続いて「沿岸域における地方自治体の役割と法体系」と題し、放送大学の來生新副学長が、現行法制度の下で市町村が海域に対して持つ権限を説明した上で、より良い管理を行うため、沿岸域の海域、沖合の一定距離までを画一的に市町村の区域に編入する措置を取ることが提案された。そして関西学院大学の小西砂千夫教授が「地方交付税~沿岸自治体における財政需要の考え方と手法~」と題し、現行の地方財政制度の観点から、離島の海域管理にかかる財政需要を明確にし、法整備を含め働きかけると同時に実績を積み上げていくことが重要であると指摘した。
第2部の海洋政策研究財団の脇田和美研究員がコーディネーターを務めるパネルディスカッションでは、講演された先生方に、長崎県対馬市の財部能成市長、鹿児島県与論町の元井勝彦総務企画課長(当時)、石垣市の中山義隆市長、与那国町の外間守吉町長と私が加わり、各自治体の海洋政策の取り組み事例の紹介とそれに基づく意見交換を行った。
最後に、中京大学法学部の古川浩司教授(JIBSN事業部会長)が閉会挨拶を行い、本シンポジウムは幕を閉じた。会場には、県の関係機関や離島を抱える市町村関係者に加え、竹富町民を含む140人以上の方々が来場し、関心の高さを伺わせた。

今後の展望

サンゴ礁海域の面積を本町面積に加えられた場合、竹富町の基準財政需要額を算定した結果、包括算定経費および地域振興費として、合計約1億5,600万円が上乗せされるという結果になった。しかしながら、交付税の増額措置を要望するためには、海域管理、離島行政における町の実際の財政需要を明らかにするとともに、客観的に示すことが必要と考えられる。
現在の制度では海域は国、海岸は都道府県が管理者であるものの、漂着ごみ処理や漁場利用調整など、実質的に市町村等の基礎自治体が管理を行っている事例が本調査で明らかになった。海域を地方自治体の管理範囲とし、その財源措置を講じるためには、このような実際の行政経費を明確にするとともに、逆に、沿岸域管理を積極的に実施し、地方自治体の財政需要を明らかにすることが必要と考えられる。
そのためには、まず、地方自治体が管理対象とする海域範囲を明確にする基準を確定し、「沿岸域の総合的な管理」を自治体が進める上での適切な実施方針が求められる。これらは、本来国あるいは都道府県等が講ずべき政策であるものの、地方自治体としては海域に関する現状を整理するとともに、海域管理の計画、管理範囲や実績を提示していくことが求められる。
本町ではまず、隣接する石垣市および与那国町と連携を深めるとともに、管理分担や境界線の確定について協議することも今後の重要な検討事項である。同じテーブルにつきサンゴ礁を含む海域について具体的な利用や管理のあり方および法制度上の問題点、境界設定等の協議を開始することが望まれる。その上で沿岸の維持管理や離島保全に係る行政課題は、各々の自治体の地理的特性や社会的要因によってそれぞれ異なるため、本事業で行ったシンポジウムのように、各地の自治体が情報を共有し、連携を深め検討を重ねる場を継続させることが必要である。(了)

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