Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第290号(2012.09.05発行)

第290号(2012.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

本誌287号に明治丸の復元と保存について寄稿していただいたマイク・ガルブレイス氏に誘われて、日本スコットランド協会の方々と共に東京海洋大学越中島キャンパスの明治丸を見学してきた。明治丸海事ミュージアム館(本誌255号の今津隼馬前副学長による解説を参照)の松下 修館長の丁寧なご案内を受け、小笠原諸島や琉球藩のわが国への迅速な編入への貢献など、明治丸が近代日本の夜明けに果たした役割の大きさを再認識することができた。しかし、明治丸の現在の姿は海洋国家を標榜するわが国としてはあまりにも哀しい。一刻も早く修復がなされ、持続的な管理を可能にするビジネスモデルが導入されることを願う。
◆今号では和田 明氏に、福島第一原子力発電所の崩壊により放出された放射性物質の海洋汚染の今後について、モデル研究の結果に基づき考察していただいた。和田氏は沿岸環境保全に向けた研究を久しく続けてこられた方である。移流、拡散についてはモデルシミュレーションとモニタリングを併用して情報不足を補うことが重要であり、海底土の状況や海洋生態系への移行プロセスについては長期にわたって監視する体制を確立する必要がある。
◆生物間には稀に共生という生態が見られることが知られている。微生物と生物の関係においてはむしろそうした関係が一般的であり、単体では培養できない微生物が全微生物種の99%以上を占めるという。このような難培養性微生物について、メタゲノムという、環境サンプルからそのままDNAを抽出する手法が最近著しく進展している。しかし、限界もあるようだ。竹山春子氏は、この手法の限界を越えて、有用遺伝子や有用物質を生産する生物を同定することを可能にする研究のフロントにおられる。熱水鉱床や海底下の微生物への適用から、海洋の新しい産業が生まれることを期待したい。
◆このところ国境の島々の領有権問題で隣国との摩擦が激しくなっている。外交は明確に国境を意識しなければならない。しかし、学問や広域を移動する生物に国境は無い。宮崎信之氏には、国境を越えて行動するというカラチョウザメの生態について、新しいバイオロギングという手法を用いて行った日中共同調査について解説していただいた。このような困難な時こそ、より広く、長期的な視点から東アジアの学術交流を活発にする努力が必要である。(山形)

第290号(2012.09.05発行)のその他の記事

ページトップ