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オーシャンニューズレター

第130号(2006.01.05発行)

第130号(2006.01.05 発行)

新しい国土計画と海洋・沿岸域

国土交通省国土計画局海洋計画室企画専門官◆川上泰司

高度経済成長期から今日にかけて、工業の地方展開、地域間の所得格差の拡大阻止など一定の成果をおさめてきた全国総合開発計画が国土形成計画に衣替えする。
本稿では、近年の関連する課題の重要性を受けて法律上にも計画事項として位置づけられた海洋・沿岸域について、国土計画との関連を説明する。今後10~15年後の海洋・沿岸域を含む国土ビジョンづくりに向けて、国民各層のご意見やご提案をぜひともお願いしたい。

1.海洋・沿岸域と国土計画

■図1 海岸線方向の区分設定図 (右クリックで拡大)
沿岸域圏総合管理計画策定のための指針より

1950年に国土総合開発法が制定されてから55年、その間5次にわたる全国総合開発計画(いわゆる「全総」)が策定されてきたが、2005年7月、本法は抜本的な改正が行われ「国土形成計画法」となった。人口減少時代を目前にひかえ、開発を基調とした量的拡大から、地方分権や国内外の連携に的確に対応しつつ国土の質的向上を図り、国民生活の安全・安心・安定の実現を目指す成熟社会にふさわしいビジョンを提示することを目指している。

国土形成計画法では、法律上の計画事項として、時代の変化に対応して新たに海域の利用及び保全に関する事項が加えられた。これは、2002年のヨハネスブルグサミットで採択されたWSSD実施計画(持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画)等を受け、今後の国土政策として海洋・沿岸域に関する取り組みの重要性が一層高まっていくことが想定されたことによる。

そもそも海洋・沿岸域が国土空間として認識されたのは、1977年に策定された「三全総」において、「沿岸域の保全と開発」「海洋開発」といった課題が記述されたことに始まる。この計画では、高度成長から安定成長への移行の中で開発圧力の強まる沿岸陸海域(沿岸域)の保全と利用の適切な調整の必要性が述べられているほか、200海里時代を迎えて水産、鉱物資源などの保全、利用、開発の必要性が述べられている。

海洋・沿岸域の多面的な利用と保全等を両立させていくために、沿岸域を広くとらえその総合的な利用または管理の計画の策定の必要性が位置づけられたのは、1987年に策定された「四全総」からで、地方公共団体が主体となること、国は計画策定指針を明らかにし、地方公共団体等を支援すること等が計画に記載された。「五全総(国土のグランドデザイン)」の策定(1998年)後の2000年には、関係17省庁による「沿岸域圏総合管理計画策定のための指針」が策定され、現在推進されている。ここでは、海岸線方向について全国48区分ごと(図1参照)に計画の策定・推進を図ることとされている。

1996年に国連海洋法条約を批准したことを受けて、「五全総」においては「国際海洋秩序の確立」といった記述もみられる。国境離島の国直轄による管理のための海岸法の改正(1999年)や、水産資源の保存管理を掲げる水産基本法が2001年に制定されるなどの動きにつながっていったとみなすことができる。

2.海洋・沿岸域に係る新たな課題

■図2 大陸棚として認められる可能性のある海域
?海洋・沿岸域圏の総合的管理の推進

近年、沿岸域においては、従来から課題となっている水質や底質の汚染問題だけでなく、失われた自然海岸や干潟の回復、漂流・漂着ゴミや放置艇あるいは放置座礁船への対処、総合的な土砂管理といった課題が大きくなってきている。さらに、高潮の頻発化や地震に伴う津波の発生および地球温暖化等に伴う海面上昇といった防災・安全上の問題、東アジアとの物流の飛躍的増大に伴う海上交通の増大、レジャー利用と漁業利用間のトラブル発生など、数え切れないほどの課題が地域それぞれに顕在化している。これらの課題への対応策は、陸域も含めた幅広い関係者による総合的な管理計画の策定ということになろうが、関係者があまりに多岐にわたることなどから残念ながら策定実績は非常に少ない。

ようやく環境保全に関し、2003年には「東京湾再生のための行動計画」が策定され、こうした動きは全国に拡がる兆しを見せている。今後これらの動きを普及させるとともに、あわせて利用・防災・景観・土砂管理等にまで総合化していくことを目指すべきであろう。

?海洋国家日本の確立
■図3 沖ノ鳥島航空写真

海洋に関して、大陸棚限界の画定のための調査が、2009年までに国連に結果を提出することとなっている(図2参照)。また、広大な排他的経済水域の根拠となる国境離島(図3参照)について、その管理や利用を進める必要がある。一方わが国は、世界有数の漁業生産国であり水産物消費国であるが、近年、周辺水域の資源状態の悪化、遠洋漁業における国際規制の強化等から国内生産量は減少している上、世界の水産物需給・貿易の不安定化から、わが国の周辺水域における資源の保存管理と持続的利用等の推進が必要となっている。さらに、鉱物資源やエネルギーの需給が今後長期的には逼迫することが予想されており、わが国の排他的経済水域および大陸棚におけるこれらの利活用を含めた適切な管理をより積極的に図っていくべきである。

国連海洋法条約では、沿岸国に排他的な利用の権利を与えていると同時に同海域の適切な管理を義務として求めており、わが国としての責任ある行動がより一層必要であろう。

3.国土形成計画の策定に向けて

2005年10月に国土形成計画全国計画の検討がスタートを切った。2006年に中間とりまとめ、2007年に策定を目標としている。さらにその1年後の2008年には国土形成計画広域地方計画(ブロック計画)も策定することとしている。全国計画は国土審議会計画部会において、広域地方計画は全国計画策定後にブロックごとにおかれることになる国の関係地方行政機関や自治体等から成る広域地方計画協議会が中心となって検討される予定であり、海洋・沿岸域の計画への具体的な記述内容については、今後の検討に委ねられる。各界、各方面からさまざまなご意見やご提案を期待している。(了)

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