Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第130号(2006.01.05発行)

第130号(2006.01.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

謹賀新年

◆< 夜、東西街中の人宅は燃燈す。本国のつごもり、晦日と異ならず >。< 夜、人はことごとく眠らず。本国の正月、庚申の夜と同じなり >。838年から847年にかけて唐に遊学した円仁(慈覚大師)の日記の一節である。円仁は仏教排斥の嵐の中で幾多の困難を超えて多くの文物を導入して、わが国の文化の発展に大きく貢献したことで知られる。平安初期から1000年以上の時を経ても、往く年を懐かしみ、来る年を賀す年末年始の行事は変わらない。2006年の幕が上がった。今年はどのような年になるであろう。

◆本財団では、真の海洋国家を目指すべく、昨年11月に政府に政策提言を行った。この提言の取りまとめに中心的な役割を担った栗林、寺島両氏にその経緯と内容について解説して頂いた。また、昨年には半世紀以上にわたってわが国の国土計画の基本となってきた<国土総合開発法>から、成熟社会にふさわしく開発の文言が消え、新たに排他的経済水域と大陸棚の管理および地方の主体性を重視する<国土形成計画法>が制定された。国土交通省の川上氏には特に海との関係について解説して頂いた。

◆わが国はこれまでどちらかといえば海に背を向け、狭い列島の開発に力を入れてきた。しかし世界第6位の広大な排他的経済水域に目を向ける時、世界の関係が見えてくる。地球上で管理責任のある海域を考えるならば、わが国は明白に世界の大国なのである。

◆体制の異なる国々と東シナ海や日本海などの縁辺海を挟んで隣接するわが国としては自由と民主主義を守り、国民の安全と安心を保障するために、より明確に国境を意識した政策を必要としている。一方で、ボーダーレス化する経済活動、文化交流をさらに活性化することもわが国の立国に不可欠である。特に、体制を越えて協働し、縁辺海の環境保全にあたることは差し迫った問題である。生態系保全においても共に先進国をめざして、アジアの美しい海岸を取り戻さなければならない。現状を写す中村氏の写真に心痛まない人はいないであろう。

◆国境と経済、文化圏の非整合が今後ますます激しくなるのは明らかである。しかし、この矛盾こそが東アジアの歴史と文化を形づくって来たとも言える。性急な結論に走るのではなく、相互の理解を目指すねばり強い試みこそが新たなアジアの歴史を形作り、いつの日か成熟した国々によるアジア共同体の実現に至るのではないだろうか。新しい歴史の胎動が感じられる2006年であって欲しいと思う。 (了)

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