【Faces of SPF】躍動する女性たち(5)
インド北東部 融和こそ持続的発展のカギ 中村唯
今回は「アジア事業グループ」の主任研究員である中村唯と、彼女が取り組むインド北東部を支援する事業にスポットを当てる。この地域は地政学上、極めて重要な位置にありながら、「インド本土」とのアクセスが悪く、インフラ開発や経済発展が遅れている「陸の孤島」であった。しかし、近年はモディ首相の「アクトイースト政策」などを背景に、インド、南アジアと東南アジアの結節点として注目され、日印両政府はインフラ整備などを進めようとしている。だが、この地域は多様で複雑な文化と歴史を内在しているがゆえに、持続的な発展のためには融和を促すことが必要不可欠である。この点にこそ、中村が手掛ける事業の主要な目的と狙いがあり、共通する歴史を見出して共有し、記録することなど、文化的な側面に焦点を当てた手法が特徴だ。地域の実情を知り尽くした中村が担う事業は、奥深さを感じさせる。
多民族、多言語の辺境地
インド北東部は、極めて複雑なモザイク模様をなしている。
マニプール、アルナチャルプラデシュ、アッサム、シッキム、ナガランド、メガラヤ、トリプラ、ミゾラムの計8州から成り、中国、ミャンマー、バングラデシュ、ブータンと国境を接する北東部は、インドの総面積の7%を占め、総人口の3%強に当たる約4400万人が暮らす。住民の多くは古くはチベットやビルマ(ミャンマー)、タイなどから移り住んだ人々の子孫が中心だ。これに加え、英国植民地期のベンガルからの移住者、インド他地域からの移住者、バングラデシュからの避難民などが流入した。
ナガランド州で、伝統衣装を纏った部族の人々と
この地域にはメイテイやクキ、ナガ、アボル、ミリ、ボド、ガロなど実にさまざまな民族と言語が混在し、その数は400にのぼるともいわれる。言語は、インド・ヨーロッパ語族とドラヴィダ語族系が主流言語であるインドの他地域とは異なり、チベット・ビルマ語族系がほとんどで、しかもそれらは多数の諸言語に分かれている。オストロ・アジア語族系も話されている。宗教もヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教、土着信仰、仏教と多様である。
北東部はひとつには、こうした多様性と〝異質性〟、辺境性ゆえに、英国の植民地時代、そして1947年の独立以降も長らく、インドの他地域とは異なり本土からの周縁化が図られてきた歴史がある。多民族、多言語という多様性は、裏を返せば「相違」を意味し、軋轢を生む。中村が主導する事業はしかし、北東部の共通の歴史や豊かさなどに光を当てることで、融和と連結性を醸成し、持続的な発展につなげようというのである。