【Faces of SPF】躍動する女性たち(6)
海洋の管理と国際協力を推進 前川美湖

(写真)前川美湖
 現代文明はバランスを欠いている。人為的な要因を起源とする気候変動がもたらす様々な現象は、いわば地球の悲鳴であり、均衡を失った人類社会への警告といえるだろう。気候変動と、地球の7割を占める海洋とは密接な関係がある。海洋は大気中の熱と二酸化炭素(CO2)の巨大な「吸収装置」であり、気候変動を緩和する機能を担っている。だが、大気中のCO2の増加は海洋の温暖化や酸性化をもたらし、プラスチックごみなどによる汚染や人間本位の開発と相俟って、生態系は深刻な危機に直面している。社会への影響も重大である。海面上昇などは沿岸域に住む人々に移転、移住を余儀なくし生活圏を変えてしまう。国際社会が、気候変動に対する海洋の観点からの科学的知見に基づく適切な処方を施し、取り組みを数段強化する以外に生きる道はなかろう。笹川平和財団海洋政策研究所は、総合的な海洋政策を推進するシンクタンクとして国際的に高い評価を受けており、気候変動と海洋の問題にも取り組んでいる。海洋環境の管理・保全と国際協力を研究、実務の両面から力強く推進しているのが、前川美湖主任研究員だ。

オーシャンズ・アクション・デー

(写真)COP25における「オーシャンズ・アクション・デー」の「適応と移転」セッションでは、共同議長を務めた

COP25における「オーシャンズ・アクション・デー」の「適応と移転」セッションでは、共同議長を務めた

 地球温暖化がもたらす様々な悪影響を防止し、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的とする「気候変動に関する国際連合枠組条約」((UNFCCC、国連気候変動枠組条約)の下で、1995年から毎年、締約国会議(COP)が開催されてきた。昨年12月にスペインのマドリードで開かれた第25回締約国会議(COP25)では、合意と成果をとりまとめた決定文書の中で、地球の気候システムにおける海洋の重要性にCOPとして初めて言及し、「科学上及び技術上の助言に関する補助機関」(SBSTA)による海洋と気候変動に関する対話を、2020年6月に実施することも盛り込まれた。
 この点を前川も評価する。それにしても、25回目のCOPにしてようやく「海洋の重要性」が強調されたというのは、やや意外な感がある。
 「人間の活動は基本的に陸域がメーンなので、海は漁業であったり、世界の運輸の9割以上を海運が占めていたりと非常に重要であるにもかかわらず、日常生活では見えにくい。ですから気候変動の交渉のメーンストリームに、なかなか入ってこなかったという経緯があります。しかし、海洋は人間の活動を起源とする地球温暖化がもたらす熱量の大半を吸収するなど、気候システムの中で、ある意味バッファ(緩衝)のような非常に重要な機能と役割を果たしている。海をしっかり守っていかないと、地球のシステムが立ち行かなくなってしまう」
 本交渉の場で海洋についてしっかり議論してほしい―。COPという舞台で、長らく脇に追いやられてきた海洋を中央に押し出そうと、笹川平和財団海洋政策研究所と前川は2015年から毎年、ユネスコ政府間海洋学委員会 (UNESCO-IOC)や米国の非政府組織(NGO)である「グローバル・オーシャン・フォーラム」などとともに、COPのサイドイベントとして「オーシャンズ・アクション・デー」を開催してきた。「気候変動と海洋」に関する諸課題について議論し政策を提言する一大イベントである。気候変動と海洋との間には密接な関連性があるのだが、国連気候変動枠組み条約における海洋の扱いは、その重要度に見合ったものではなかった。
 「2015年のCOP21で採択されたパリ協定に基づいて各国は、気候変動対策のための計画や約束を『自国が決定する貢献』(NDC)として提出しています。そこに海洋を用いた緩和策などを盛り込むことや、沿岸域を保全するための政策の実施、洋上風車による洋上風力発電、光合成のために二酸化炭素(CO2)を吸収し固定する藻類の藻場を保全することなど、ポテンシャルはまだ沢山あるということを中心に、具体的な数値と共に提案してきました」
 COP25に際し、昨年12月6、7の両日に開かれたオーシャンズ・アクション・デーでは国際機関や政府、NGOの関係者、研究者など延べ約80人が登壇し、約400人が参加した。主なセッションとテーマは①海洋と気候の連関②自国が決定する貢献への海洋関連オプションの組み込み③適応と移転④海洋・気候行動への支援活性化―であった。海洋の観点から気候変動に対する緩和・適応策、科学的知見、資金、移転と移住をめぐる課題などが話し合われた。前川は「適応と移転の解決策に関する海洋の科学と行動」と題するセッションの共同議長を務めた。
(写真)セッション「適応と移転」の登壇者と

セッション「適応と移転」の登壇者と

 ここで議論のベースになったのが、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の「海洋・雪氷圏に関する特別報告書」(2019年9月)だ(詳しくはこちら)。これは気候変動が海洋にもたらす影響が深刻な状況にまで及んでおり、最新の科学的知見によって、海洋生態系や沿岸コミュニティが危機に瀕していることを改めて示したものである。
 「報告書の知見をどう実証していくかということが大きなテーマでした。適応と移転のセッションでは、沿岸域が適応していく上での課題をレビューし、その中で河川の流域、海の沿岸域を管理することの重要性など様々な指摘がありました。沿岸域の対策には、建物の基礎のかさ上げなどいろいろありますが、(報告書には)移転をポジティブな対策として行い、それによって将来の損害を軽減することができるという指摘もあり、そうした点も踏まえ今後どうしていくべきかということを、国際移住機関や国連難民高等弁務官事務所の関係者らエキスパートが意見交換しました」
 ここでいう「適応」とは主に、気候変動が海洋にもたらす影響に対処し、被害を軽減することだ。前川はCOP24(2018年、ポーランド)のオーシャンズ・アクション・デーでは「科学的知見」セッションの議長を、COP23(2017年、ドイツ)でも「移転と移民」セッションの共同議長を務めてもいる。
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