東南アジアにおけるジェンダースマートな起業家エコシステムの構築に向けて
―インドネシアでのAVPN東南アジアサミットにて「GLIAツールキット」を発表―

2020.03.28

 笹川平和財団のジェンダーイノベーション事業グループは、2020年2月12-14日に開催された「アジアン・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク(AVPN)東南アジアサミット」(開催地:インドネシア、バリ)において、オーストラリア政府外務貿易省の「Frontier Incubators」プログラムと共同開発した「ジェンダーレンズ・インキュベーション・アクセラレーション・ツールキット(以下、GLIAツールキット)」を発表しました。GLIAツールキットとは、東南アジアの働く女性たちを取り巻くさまざまな課題を改善することを目的に、東南アジア各国で活動しているインキュベーター、アクセラレーターなどの起業家支援機関に向けて作られた指南書です。
GLIAツールキットはPDF版およびインタラクティブなウェブ版として提供されている
GLIAツールキットはPDF版およびインタラクティブなウェブ版として提供されている(詳細はこちら)。
 

東南アジアで初となるツールキット

 今回公表した「GLIAツールキット」は東南アジアにおけるジェンダースマートな起業家エコシステムを構築することを目指し、起業家や周辺のステークホルダーの活動においてジェンダー視点を取り入れることを目的として開発されたものですが、インキュベーターやアクセラレーターなどと呼ばれる起業家支援機関(ESO)へ向けたこのような指南書の提供は初めての取り組みとなりました。

 2月13日に行われたAVPN東南アジアサミットのプレナリー・セッションにおいて当財団の大野修一理事長はGLIAツールキットを公表し、「これはESOと協力して、アジアにおける女性主導の包括的なビジネスを支援する計画の最初の一歩となります。当財団としてもアジアにおけるジェンダースマートな起業家エコシステムをともに構築するために、さらに多くの取り組みを続けていきたい」と今後への期待を示しました。
「AVPN東南アジアサミット」でGLIAツールキットを公表する当財団の大野修一理事長

「AVPN東南アジアサミット」でGLIAツールキットを公表する当財団の大野修一理事長

 GLIAツールキットは、当財団のアジア女性インパクト基金およびDFATの「Frontier Incubators」プログラムによる12カ月間のパートナーシップのもと、当財団と「ygap」、「Conveners.org」、「SecondMuse」が協働し開発しました。PDF版に加え、概念マップや解説動画などの手法を取り入れたインタラクティブなウェブ版としても提供されており、実用的なガイドラインやケーススタディのほか、起業の活動における3つのレベル(組織、事業、地域における起業家エコシステム)でジェンダー視点を適用するフレームワークが含まれています。これらガイドライン、フレームワークや東南アジア向けのケーススタディは、本地域で広く活動する代表的なESOによる厳しいパイロット実証を経て、コンテクストの適合性を図り、検証されました(*)。また、実際にツールキットが活用される地域を考慮し、ウェブ版は、英語、ミャンマー語、タガログ語(フィリピン)、クメール語(カンボジア)の4か国語に対応しています。

*検証には4か国から6つのESOが協力:ONOW Myanmar(ミャンマー)、Phandeeyar(ミャンマー)、Instellar(インドネシア)、xchange(フィリピン)、SHE investments(カンボジア)、agile development group(カンボジア)
 

なぜ今GLIAツールキットが必要なのか?

 GLIAツールキット開発の背景には何があるのでしょうか。東南アジアでは、多くの国や地域でさまざまな社会背景から女性の就職率が低く、特に農村部などでは女性が収入を得るために自ら「起業」する以外に選択肢がないという現状です。また、多く場合において女性起業家は高度な成長事業に携わる機会が少なく、女性による起業は小規模なものに留まる傾向にあります。

 この状況に対して、当財団ジェンダーイノベーション事業グループの松野文香グループ長は「特に正式な雇用が非常に限られている東南アジアにおいて、起業することは女性が経済的に自立しエンパワーされるためのとても重要な機会を与える」と説明します。起業におけるジェンダーギャップの縮小は世界的にも大きな経済効果をもたらすと言われているなか、その実現にはまだ多くの課題が残っています。女性が積極的に社会参画するためには、社会的な男女格差の縮小につながる環境づくりが必要とされているのです。「起業家精神を開花させるためには、起業家の支援も重要な要素である。その鍵となる支援を提供できるESOと協力していきたい」と松野グループ長は続けます。

 ESOは成長の初期段階である企業を支援するだけでなく、起業した際の周辺関係者との連携を促進するなど、より大きなインパクトに結び付けることを可能とするユニークな立場にあります。GLIAツールキットはインキュベーターやアクセラレーターなどのESOに向けて開発されており、事業展開のアドバイスやメンターシップ、地域におけるエコシステムの主要ステークホルダーとのネットワーキングの機会など、成長初期段階の企業に対して包括的な支援を提供することを目的としています。東南アジア地域のESOにジェンダー視点を取り入れることをより意識してもらうことにより、地域全体における起業家エコシステムの強化につながっていくことが期待されています。
 

現場の声

 GLIAツールキットの公表に先駆け、2月12日には実務者向けの「東南アジアにおけるインキュベーターおよびアクセレレーターの強化」と題したワークショップをツールキットの開発パートナーとともに開催しました。当財団からは松野グループ長とリリー・ユー特任研究員が登壇し、ジェンダーイノベーション事業グループの活動について紹介するとともに、GLIAツールキットを作成した背景について報告しました。ユー特任研究員は、実務者のニーズを念頭に置いてこのツールキットを開発したと説明し、「東南アジアでは初めての取り組みということで、それぞれのESOのニーズや関心に基づき、カスタマイズされたジェンダー戦略の開発や検証に役立つことを期待している」と述べました。
(代)「東南アジアにおけるインキュベーターおよびアクセレレーターの強化」ワークショップでの登壇者
(代)「東南アジアにおけるインキュベーターおよびアクセレレーターの強化」ワークショップでの登壇者
「東南アジアにおけるインキュベーターおよびアクセレレーターの強化」ワークショップで登壇するジェンダーイノベーション事業グループの松野文香グループ長(左)とリリー・ユー特任研究員(右)
 その後行われたパネルディスカッションでは、ツールキットの開発に広く関わったパートナーのひとつである国際協力NGO「ygap」のオードリー・ジョン・バプティスト氏がモデレーターをつとめ、検証段階で参加した2つのESOの代表者からツールキット活用を通したそれぞれの組織の経験についてお話しいただきました。

 フィリピンにおいてインパクト投資組織ならびにインキュベーターとして活動する「xchange」のエリカ・タタド氏は、「この問題に関して既に十分取り組んでいると思っていたものの、組織としてジェンダー視点を取り入れられる部分が多数あることに気付かされた」と発言しました。さまざまなレベルの課題が見つかったなか、まずは今後の業務を導く方針を明確にすることを目的に、組織としての多様性と包括性に関するステートメントを作成することから始めたと報告。また、そのプロセスにおいて組織のメンバー全員で取り組む重要性についても共通認識が生まれたと振り返りました。

 カンボジアで障がい者による事業展開の支援を行っている「agile development group」のイアン・ジョーンズ氏は、業務のなかで簡単にツールキットの内容を実施することができたと発表しました。事業レベルでツールキットを活用した事例としてカンボジア各地で行っている女性起業家へのアウトリーチ活動を挙げ、特に都市部と農村部では教育レベルに差があるため、「地域ごとのニーズにあわせて資料の内容も変えていく重要性について再確認できた」とコメントしました。また、このように場面ごとにツールキットを応用できることが強みであるとも述べ、さまざまな課題において早期に問題点を見つけ、対応することができるため、東南アジアにおける多くのESOによる活用が可能なのではないかとの見解を示しました。
 

ジェンダースマートな起業家エコシステムの構築に向けて

 サミットでのツールキット公表を受け、松野グループ長は今後も東南アジアなどにおけるパートナーとともに、無意識のバイアス、交渉スキルの向上など、女性起業家が直面する特定の課題に対処するための新しいテーマベースのモジュールをツールキットに取り入れる予定であると発表しました。また、ツールキット活用による効果を測定する指標の開発も必要であるとコメントし、インパクト指標の開発についても前向きな検討を進めていくと表明しました。
 
 ツールキットの活用により、起業家支援におけるジェンダー視点の強化について、東南アジア地域全体に大きな影響をもたらすための勢いを構築し続けることが期待されています。
(SPF PR 高原聡子)
 

~参考情報~
1.「社会的起業が拓くアジアの未来~ジェンダー視点が起こすイノベーション」連載記事
 AVPN東南アジアサミットでの「GLIAツールキット」公表に先駆け、2020年1月にパイロット事業の設計および実施への協力をいただいたESO「Instellar」などへのインタビューを実施。地域のニーズ、ニーズに合ったツールキット作成にかかるプロセスのほか、ツールキットの活用により、女性起業家を支えるエコシステムにおけるジェンダー視点の強化などに関する現場の声を聞き取り、連載記事としてまとめました。以下リンクよりご覧ください。

Vol. 1
企業経営からエンジェル投資家へ -日本・インドネシアにルーツを持つ女性がエグゼクティブの生活を捨てた理由

Vol. 2
道端での出産、赤ちゃん死亡をなくしたい! -高校時代の親友3人組が立ち上げた農村女性支援ビジネスとは

Vol. 3
無農薬野菜を美味しく食べられるスナック製品に! -親子の笑顔と健康を目指す20代女性起業家

Vol. 4
社会起業家支援にジェンダー視点を入れると「暗黙バイアス」に気づき、女性起業家が増える

Vol. 5
起業家の死活問題、資金調達 女性特有の困難とは? どう乗り越える?

2.英文記事
AVPN東南アジアサミットでのGLIAツールキット公表に関する英文記事については、以下リンクよりご覧ください。
Building a gender-smart entrepreneurial ecosystem across Southeast Asia

3.事業部ページ
ジェンダーイノベーション事業グループの活動についてはこちらをご覧ください。
 

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