【W20活動レポート】第七回:議長国インドがまとめたG20の力強いジェンダー平等へのコミットメント
G20の公式市民エンゲージメントグループとして、女性のエンパワーメントについて政策提言を行うW20。W20活動レポート第七回は、W20の政策提言がG20首脳宣言にどのように反映されたのかを振り返る。
経済発展を続ける東南アジア諸国では、起業家女性の活躍が目立つ。最大の理由は日本と異なり企業などに雇われて働く機会が少ないことだ。特に農村部では、起業は女性が経済力を持つための唯一の選択肢と言える。笹川平和財団はインドネシア、ミャンマー、カンボジア、フィリピンの東南アジア諸国で、女性起業家の支援を行っている。今回はインドネシアの首都ジャカルタと郊外で現地取材を行い、この地域で働く女性起業家や、彼女たちを支援するエンジェル投資家、起業家支援の仕組みを取材した。高等教育を受け外資系企業などで就労経験を持つ女性たちが、同じ国に住む貧しい女性たちの地位向上のため、ビジネスを通じた社会変革に取り組んでいる。
前回記事(Vol. 1 企業経営からエンジェル投資家へ-日本・インドネシアにルーツを持つ女性がエグゼクティブの生活を捨てた理由)では「お母さんが笑顔になれること」「インドネシアの中下層の人が恩恵を受けること」を基準に社会起業家を支援するエンジェル投資家のマリコ・アスマラさんを紹介した。この記事では、マリコさんから投資や助言を受けて事業を拡大した企業のひとつ、Du Anyamを取り上げる。共同創業者でCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)のメリア・ウィナタ(Melia Winata)さんに話を聞いた。
写真 Agus Sanjaya撮影
M: 私たちは高校時代の友人3人で起業しました。大学は別々で、私はオーストラリア、他の2人はそれぞれアメリカと日本で学びました。休暇でインドネシアに戻るたび、会って意見交換していたのです。2012年にアメリカで学んだアユ(現CEO)から「社会的起業」というアイデアを教えてもらいました。アユは公衆衛生に関する仕事の経験があり、日本で学んだハンナ(現CCD:地域開発責任者)は国際NGOで働いたことがあり、地域開発支援の経験がありました。
写真 Agus Sanjaya撮影
M: 2013年、フローレス島に行き、課題発見のためヒアリングをしました。ハンナの親戚が住んでいて縁があったためです。
フローレス島は色々な意味で首都のジャカルタとは違います。まず、高齢者は標準語を話しません。教育は小中学校まで、という人が多いです。金融機関も政府系銀行の支店が町にあるだけで、45分もボートに乗らないと現金をおろせません。
このような環境で特に困難な状況に置かれているのは妊婦です。女性は現金を持っていないため、出産時に病院へ行く乗り物代すら持っていないこともあります。自宅出産する人が多く、専門家の助言がないため、妊産婦の死亡率が高い。インドネシア政府は無料で出産できるサービスを提供していますが、乗り物がなければ病院へ行けないから意味がないのです。
ある時、3人目のお子さんを妊娠した女性がいました。病院へ行くボートを手配したのですが間に合わず、道端で出産してしまい、赤ちゃんは亡くなりました。
私たちは大きなショックを受けました。こんなことがあってはいけません。私たち3人とも「これは自分たちの問題だ」と思いました。
メリアさんによれば、Du Anyamの創業初期に投資家となったマリコさんは「メンターの役割を果たしてくれた」そうだ。自分たちで試行錯誤するだけでなく、経験豊富な経営者の助言を受けることで、起業家は大きく成長することができる。マリコさんは自己資金を投資することに加え、メンタリングに時間を割く。経営者としての経験に基づく助言を半年間、集中して行いつつ3回ほど投資をした後は、次の資金提供者につなぐという。起業家にとって、こうした連携支援はとても重要であり、ジェンダー視点を持つ起業家支援エコシステム構築が望まれる。
インドネシア、ミャンマーなど、東南アジア各地で女性起業家支援を手掛ける笹川平和財団のジェンダーイノベーション部・松野文香部長は「途上国の農村部には雇用主が身近にないため、起業は女性が経済力を得るための現実的な方法です」と話す。
実際、フローレス島の女性たちは手工業の生産者としてDu Anyamに編み物製品を納入することで「小さな起業家」になった。現金収入を得られるようになったことで、自身や子どもの健康に投資できるようになった。
島の女性たちに新しい仕事の機会を提供しているDu Anyamは、都市部の高学歴女性による起業であり、その初期段階を支援したのがマリコさんという経験豊かな経営者・投資家だった。このように、女性の起業を支援することで新しい経済のエコシステムが生まれていくことが分かる。女性起業家は新しい経済圏を生み出す触媒の役割を果たすのだ。