社会的起業が拓くアジアの未来
ジェンダー視点が起こすイノベーション
現地レポートシリーズ
Vol. 3
無農薬野菜を美味しく食べられるスナック製品に!
-親子の笑顔と健康を目指す20代女性起業家
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経済発展を続ける東南アジア諸国では、起業家女性の活躍が目立つ。最大の理由は日本と異なり企業などに雇われて働く機会が少ないことだ。特に農村部では、起業は女性が経済力を持つための唯一の選択肢と言える。笹川平和財団はインドネシア、ミャンマー、カンボジア、フィリピンの東南アジア諸国で、女性起業家の支援を行っている。今回はインドネシアの首都ジャカルタと郊外で現地取材を行い、この地域で働く女性起業家や、彼女たちを支援するエンジェル投資家、起業家支援の仕組みを取材した。高等教育を受け外資系企業などで就労経験を持つ女性たちが、同じ国に住む貧しい女性たちの地位向上のため、ビジネスを通じた社会変革に取り組んでいる。
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子どもに食事を作った経験がある人は「野菜を食べさせること」で苦労した経験があるのではないか。小さく刻んだり、食べやすいように味付けしたり。大人が食べて欲しい野菜は味にくせがあり、子どもは敬遠することが多い。
こんな悩みを解決してくれそうなのが、食べやすく加工した野菜だ。サンクリスプス(Sunkrisps)社は、枝豆やにんじんをベースにした離乳食、ポップコーンやチップスなどに加工した野菜を提供する。特徴は農薬を使わない野菜を原材料としていること、栄養価の高いケールをチップスにした製品や、粉末ケールをまぶしたポップコーンなどを開発していることだ。
共同創業者のサンドラ・アルフィナ(Sandra Alfina)さんにインタビューした。
――もともと、食品会社で働いていたのですか?
――最初に手掛けた製品は何でしたか?
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S:ケールで出来たチップスです。バリ島では人気があり栄養価も高いお菓子ですが、ジャカルタにはあまりなかったので、作ってみよう、と思いました。子どもに食べて欲しかったので、美味しいことに加えて塩味を濃くしない工夫をしました。続いて、より一般的に食べられているポップコーンも作るようになりました。
創業して今年で5年になります。2015年から2017年まで製品開発をしました。インドネシア政府が提供する起業家のインキュベーションプログラムなどを受けてビジネスについて学びました。
事業を拡大できたのは、起業家のアクセラレータープログラムで2万5000ドルの資金提供とメンターの助言を受けられたことが大きいです。初期の起業家にとって、銀行融資は条件が厳しいため、こうしたプログラムに受かって資金調達できることは、大変ありがたいのです。
――製品はどういったところで販売していますか?
当社の製品は、材料に無農薬野菜を使っています。子どもの健康のためには多少高くても払おう、という消費者層が対象です。例えばケールチップスでいうと、一般的な製品と比べて価格は4倍程度。こうした製品を購入する層はインドネシア人口の15%程度と推計されていて、高級路線のスーパーマーケットで扱ってもらっています。
――インドネシアは中国、インド、米国に次いで人口の多い国です。現在、約2億5800万人、毎年500万人も増えていますから、そのうち15%は大きな市場で有望ですね。
ところで先ほどオフィスを拝見したら働いている方は皆さん、女性のようでした。
S: はい。今、創業者を含め15名の社員がいます。うち13名が女性です。専門学校を出た女性たちで、財務、品質管理や原料調達などを担当するオフィス勤務と、製造担当がいます。
起業をして良かったのは、多くの人に影響を与えられることです。当社で働く女性だけでなく、消費者の9割が女性、その多くが母親です。6つある契約農場の半分は女性が経営しています。小規模でも健康や環境に優しい農法を学んで実践する意欲のある農場を探して契約していて、そういう農場は女性経営者が多いのです。
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この後、サンドラさんの案内により、会社オフィスから車で30分のところにある契約農場を見学させてもらった。虫除けネットで囲まれた農場は整然と整備されており、水耕栽培も手掛けている。農場のオーナーと思しき女性は小さな女の子の母親だった。
―― 一般論として、女性は起業する時や事業を大きくする時に壁にぶつかることが多いと言われます。家事や育児の負担が男性と比べて大きかったり、資金調達しにくかったり、といった話を聞きます。ご自身、そうした壁をお感じになったことはありますか?
幸運なことに、夫も同じ業界で働いていたので仕事に対する理解がありました。「一緒に起業しましょう」と私が説得したところ、共同経営者になってくれました。今はCFO(財務責任者)をしています。私は大きなビジョンを追うタイプで、夫は現実的なタイプ。性格が違う2人が一緒に経営することでバランスが取れています。
――日本の女性リーダーも、家族の協力について、とても大切と話す人が多いです。
夫とは趣味のマーチングバンドで知り合いました。働いていたのは別々の会社でしたが、どちらも欧米系で男女平等、ハラスメントを許さないといった良い企業文化を持っていました。そういう環境で働くことで、私たちは今のような対等な関係になったのかもしれません。パートナーは人生にも仕事にも大きな影響を与えますから本当に大事ですよね。
――サンドラさんのご経験は、日本の働く女性も共感するところが大きいと思います。問題意識やご経験が重なります。
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S: 一方で既婚の友人から「起業したいけれど、なかなか難しい」という話を聞いたことがあります。都市に住む女性も壁を感じるほどですから、地方の女性はもっと大変ですよね。
私自身は大きな困難を経験してはいませんが、アクセラレータープログラムを提供してくれたインステラ―(Instellar)社にはジェンダー視点があるのが、とても良かったです。このプログラムでは、先ほどお話した資金に加えてマーケティングのメンターを得ることができました。
当社はジャカルタ通勤圏ですから、プログラムに参加した時は電車で通いました。こういうことも、子育て中だったり、遠い村に住んでいたりしたら大変でしょうね。
――会社として次の目標はありますか?
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大企業での経験を生かし、健康や子どものためになる事業を興したサンドラさんの経験は、日本の都市部で働く女性の関心にも通じる。特に「起業は多くの人にインパクトを与える」という指摘は示唆に富む。
サンドラさんの起業は自社の雇用に留まらず、消費者、契約農家と広範囲に影響を及ぼしており、恩恵を受ける人の大半が女性である。向上心のある小規模農家の女性が、サンクリスプスとの契約を通じて、質の高い野菜の栽培方法を学ぶ機会を持っていることも重要だ。こうした農家は今後、高付加価値の農作物を作り収入を増やす可能性が出てくる。
また、キャリアを考える際、夫婦の対等な関係がキーワードになっているのも興味深い。家庭内のジェンダー平等は女性起業の助けになり、その影響が広い範囲に及ぶのである。
次回記事では、サンドラさんが参加し「ジェンダー視点があって良かった」と述べる起業家のアクセラレータープログラムを提供するインステラ―(Instellar)に焦点を当てる。同社は笹川平和財団がオーストラリア政府などと連携して開発した女性起業家支援のツール「ジェンダー・レンズ・インキュベーション&アクセレレーション・ツールキット」に開発協力している。