社会的起業が拓くアジアの未来
~ジェンダー視点が起こすイノベーション

現地レポートシリーズ

Vol. 4
社会起業家支援にジェンダー視点を入れると
「暗黙バイアス」に気づき、女性起業家が増える

経済発展を続ける東南アジア諸国では、起業家女性の活躍が目立つ。最大の理由は日本と異なり企業などに雇われて働く機会が少ないことだ。特に農村部では、起業は女性が経済力を持つための唯一の選択肢と言える。 笹川平和財団は、インドネシア、ミャンマー、カンボジア、フィリピンの東南アジア諸国で、女性起業家の支援を行っている。今回はインドネシアの首都ジャカルタとその郊外で現地取材を行い、この地域で働く女性起業家や、彼女達を支援するエンジェル投資家、起業家支援の仕組みを取材した。

前回記事(Vol. 3 無農薬野菜を美味しく食べられるスナック製品に!-親子の笑顔と健康を目指す20代女性起業家)では無農薬野菜を加工しスナックとして販売している女性起業家、サンドラさんを紹介した。事業を立ち上げ、軌道に乗せる際「起業家支援プログラム」が役立ったという。

今回は、社会起業家の支援を手掛けるインステラ―(instellar)を取材した。同社は、笹川平和財団やオーストラリア外務省等が協力して開発した「ジェンダー・レンズ・インキュベーション・アクセレレーション・ツールキット(Gender Lens Incubation and Acceleration Tool Kit:GLIA)」のパイロットプログラムに参加して、社内研修で活用したインステラ―(Instellar)では、女性起業家支援にいかなる効果があったのか。 担当者と社長に話を聞いた。
 

―― インステラ―の活動について教えて下さい。

Co-founderのダイアン・ウランダリーさん(D): 私たちは、ビジネスを通じて社会の問題を解決に導く「社会起業家」の支援をしています。中でも初期の起業家を支援しています。もともと、自分たちの活動にジェンダー視点が必要だという意識は、さほどありませんでした。

なぜなら、インステラ―は、もともと女性が多い組織だったからです。 ただし、GLIAの内容を学んだおかげで、自分たちが持っている「暗黙バイアス」に気づくことができました。バイアスは男性だけでなく女性も持っている。皆が持っているものなのですよね。

シニア・企業開発オフィサーのエルヴィラ・ソウファニ・ロザンティさん(E): 
GLIAツールキットは紙ベースで100ページ以上あったので、まず私が読んでCEOに要旨を伝えました。インステラ―の活動に役立ちそうだと思い、GLIAパイロットプログラムへの参加を提言し、参加が決まりました。


私たちが提供している起業家養成のインキュベーションプログラムにおいてジェンダー視点をもってより包摂的なものにしたい、と思ったからです。このプログラムは男女ともに社会起業家を支援するためのもので2014年から5年以上続いています。

これまで社会起業家を支援してきた経験から、男性起業家の率いる企業の方が成長しやいように思えました。そこで、過去にプログラムに参加した起業家にアンケートをとってみたところ、男性の方が野心的で交渉をすること、女性は交渉スキルを学びたいと思っていることが明らかになりました。

こうした課題について、GLIAを機に気づき専門家を招いてインステラ―内部で研修をしたのです。

――起業支援において、女性特有の課題があるということですね。

D: そうです。確かにテクノロジーの分野で起業する女性は少ないです。ただ、私は個人的に女性の数を強制的に割り当てるクォータのような仕組みは好きではありません。暗黙のバイアスをなくしていき、自然な形で女性が実力を発揮できるようにしたいと思いました。

――具体的に起業家女性が直面する課題には、どんなことがありますか?

D: 「自信」のようなソフトスキルが男性に比べて欠けていると感じている女性は少なくありません。自信というと、個人の性格と思われるかもしれませんが、起業家にとっては大問題です。例えば銀行ローンを借りる時は自分の事業がいかに成長するかをアピールする必要があります。一般論として女性は保守的に「10%成長」などと見積もります。男性が野心的に「30%成長」と言ったとしたら、お金を貸す方がどちらを魅力的と感じるか、明らかですよね。

実際の企業成長が同程度でも、男性起業家の方が女性起業家より自信があり頼もしい、と見られている現状はあります。また、子育て期の女性は時間がないため、出張して研修を受けるのが難しいです。同じように既婚で子どもがいても男性は出張しているのですが。

それから、インドネシアでは教育研修の機会が首都ジャカルタに集中しているため、離島に住む女性は二重三重の困難を抱えています。

 

――そうした現状を踏まえ、ジェンダー視点を起業家支援にどう生かしましたか?

E: 特に役立ったのはGLIAツールキットの中でも、マーケティング資料の作り方に関する項目です。起業家支援プログラムに女性の応募を増やしたい場合は、写真やイラストに女性のイメージを使うと良いそうです。私たちはこれまで、特に意識せず「男性のイメージ」をフリー素材の中から選んで起業家支援プログラムの告知ウェブやSNSを作っていました。そこでは、投資家はスーツの男性、消費者は女性の姿で描かれることが多かったのです。確かに、そういうイメージを見せられたら「これは男性向けのプログラム」と思い女性から敬遠されてしまっていたかもしれません。

面白いのは、ジェンダー視点をもって視覚的な発信を心がけるようにしたところ、私たちの起業家支援プログラムに会社員女性も応募してくるようになったことです。

――それは、何を意味しているのでしょう?

E: 例えば、交渉術のトレーニングを起業家向けに提供したところ、会社で働くキャリアウーマンの応募があったのです。
きっと交渉術は働く女性共通の課題なのでしょう。ワークショップ参加者の満足度も高かったです。

C: おそらく、起業家を想定した交渉術を学ぶことで、会社員女性も昇進・昇給の交渉をしやすくなったのだと思います。私自身は、石油、エネルギー業界やPR会社で働いた後、インステラ―を創業しました。会社員の頃、当時すごく悩んだのは昇進するたびに陰口を言われたことです。本当に疲れ切ってしまったのですが、ある時、気づきました。例えば、女性が管理職になり、マネジメントの職務を果たそうとすると”You are bossy(威張っている)”と言われることがよくあります。でも、考えてみると私は”bossy(威張っている)”のではなく、本当にBoss(上司)であるわけです。もし、同じような言動を男性管理職がした場合、彼は”bossy”ではなく”boss”としての役割を果たしている、と思われたでしょう。このことに気づいてからは、何を言われても気にしないことにしました。 男性と女性は違うところもあれば、同じところもあります。トランスジェンダーの人もいます。私自身が、女性リーダーとして経験してきたことを振り返っても、今、ジェンダー包摂について学ぶことができたのは、とても良かった、と思います。

―― 女性管理職が直面する課題が日本とよく似ているので驚きました。今後、ジェンダー視点を踏まえて、どんな起業支援をしていきたいですか?

D:まず、起業家に研修機会を増やしたいです。たとえば、研修に参加する起業家が子育て中であれば、そのような起業家のために安心して研修に参加できるように託児サービスを用意したり、自宅でも必要なスキルを学べるようにオンライン学習の機会なども増やしていきたいです。

インドネシアの働く女性や女性起業家を支援するエコシステムを作る必要があります。これは、多くのインドネシア企業が必要としていることで、女性が主要顧客なのに女性のことが分かっていない企業も、まだたくさんあるんです。自分も起業して思うのは、女性は他の女性に影響を与えて社会を変えることができると思います。

GLIAツールキットは包括的にジェンダーについて学ぶことができ、自分の組織に合うものから取り入れられて使いやすいです。


ダイアンさんとエレヴィアさんの話は、日本で働く女性の経験ともつながる。日本でも女性管理職を増やしたり、起業家女性を支援したりする取り組みが全国で行われている。インタビューに出てきた自信を巡る男女差、募集広告の表象をいかに選ぶかといった実践的な改善策が必要とされている日本で、インステラ―の経験から学ぶことは多くありそうだ。インステラ―で活用されたツールキットは、2月13日から、下記インターネットサイト(英語・ミャンマー語、インドネシア語、カンボジア語)で公開される予定である。

https://toolkits.scalingfrontierinnovation.org/

(ジャーナリスト 治部れんげ、写真 Agus Sanjaya撮影)

 
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