移住労働者の児童の就学促進事業を開始
笹川平和財団、タイ教育省、国際労働財団および野毛坂グローカルは2024年9月13日に「タイと日本の学び合いによる移住労働者の児童の就学促進」のオフィシャルローンチセレモニーをバンコクにて開催いたしました。
このコーナーでは、ジャカルタと近郊で女性起業家や投資家、支援者の取材に基づき、急速な経済発展を続けるインドネシアの社会問題にビジネスを通じて取り組む人々を紹介してきた。
世界第3位の人口大国であるインドネシアは、言葉や文化が多様である上、地域、階層による経済格差が大きい。そうした中、政府の支援が追い付かない離島で、女性に手工芸品製作を通じて現金収入を得る道を提供する女性起業家や、それを資金面やメンタリングで支援するエンジェル投資家が奮闘している。また、拡大する中間層の購買力や食の安全志向を捉え新しい製品を提供する企業も出てきた。良質な農作物を使い加工したスナック菓子を、市価の4倍程度出しても買い求める層が一千万人単位で存在するインドネシアの市場としての大きさを感じる。
最終回となるこの記事では、起業に欠かせない資金調達と関連の支援について考える。
ジェンダーイノベーション事業グループ・松野文香グループ長(写真右端)
このシリーズの第2回で取り上げた、Du Anyamの事例は、離島の女性達が草で編んだ製品(スリッパや籠など)を納品することで、小さな起業家になっており、松野グループ長の指摘に当てはまる。SPFがオーストラリア外務省等と協力して制作した、女性起業家支援の実践的なツールキット「ジェンダー・レンズ・インキュベーション・アクセレレーション・ツールキット(Gender Lens Incubation and Acceleration Tool Kit:GLIA)」の中で、前回記事に登場した社会起業家支援を手掛けるインステラ―は現状を次のように分析している。
「インドネシア企業の99%を中小企業が占めており、そのうち60%は女性による経営である。国内の女性起業家は3060万人いると推計でき、そのうちの53%は非常に小規模のビジネスを手掛けている」
女性は必要に迫られて起業するものの、前回記事でも記した通り、自信の男女格差問題、家庭で担うケア労働の問題、社会が内包する性差別の問題などが絡み合って、ビジネスを大きくするのが難しい。
ガンデンタンガンCEO ジェジー・セティワンさん
こうした課題に資金供給の面から、テクノロジーを生かして取り組んでいるのがガンデンタンガン(Gandengtangan)だ。社名には「手を取り合う」という意味があるという。創業者でCEOのジェジー・セティワン(Jezzie Setiwan)さんは、大学卒業後、銀行勤務を経て英国に留学。ファイナンスを専攻し修士号を取得した。母国で外資系金融機関に勤務しアナリストとして働いていた時、社会運動に目覚めたという。
「2013年~14年のことでした。選挙で新しい大統領が生まれて、希望を感じるようになったのです。それまでインドネシアの若者はあまり政治に興味がなかったのですが、この選挙を通じて関心を持つ人が増えました。私もそのひとりです」
アナリストとして自国の経済分析を手掛けてきたジェジーさんは、その潜在力をよく理解していた。インドネシアは大きな市場であり、成長力があるということを。彼女のモチベーションは、他の女性起業家と通じる。社会のために自分の能力を役立てたい、ということだ。
「この国で、私のように海外修士号を持っているのは人口の1%以下です。そういう機会に恵まれた人には社会に還元する義務があると思います」
インドネシアでは国内の半数が1日2ドル以下で生活しており、97%が零細企業を営んでいるという。ファイナンスの知識を生かし、何か手助けができないか。ジェジーさんは考えた。ちょうど、大統領選挙で盛り上がった頃、地方の実状に詳しい人と親しくなった。この人物と一緒に起業した。
そのビジネスモデルを簡潔に説明するなら、少額無担保融資の先駆け、グラミン銀行のオンライン版。ただし、借り手はグループでなく個人で借りる。借り手候補に金融教育を提供するところはグラミンと同じである。多くの借り手は1回100~1000米ドル(1~10万円)を借りて30日で返す。少額のお金を借りられることが、起業家にいかなる変化をもたらすのか。ジェジーさんは分かりやすく解説する。例えば、ここに小さな雑貨店を経営する人がいる。100米ドルを借りてタバコを仕入れる。タバコは利益率が高く2週間で売り切ることができる。まとめ買いをすると仕入れ値が安くなり利幅が増える構図があるから、借金をしても仕入れの資金を確保する意味がある。
「小さなお店の店主は銀行口座を持っていないことが多く、銀行からはお金を借りることができません。だから、私たちのサービスは意味を持つのです」
今は地域の開発銀行と提携し、自分たちのビジネスモデルを他行に提供することもある。BtoBtoCの形で零細起業家を資金面から支援する。70%の借り手は女性だという。
ジェジーさんは「女性であることは、自分としてはプラスに捉えている。借り手になる人達と話がしやすい」と話す。実は第1回記事に登場したエンジェル投資家のマリコ・アスマラさんは、ガンデンタンガンにも投資をしている。
エンジェル投資ネットワーク インドネシアCEOのデイビッド・ソクハティンさん
社会起業家と投資家のマッチングを手掛けるANGIN(Angel Investment Network Indonesia エンジェル投資ネットワーク インドネシア)CEOのデイビッド・ソクハティンさんは「マリコ・アスマラさんのように、意思決定できる投資家はとても貴重です」と話す。インドネシア市場は急成長しており動きが速いため「考えてばかりいると投資機会を逃す」ためだ。
デイビッドさんはフランスで生まれ育ち、ラオス、ベトナムにもルーツがある。「半分は東南アジア人という意識がある」。自身もフランスで採用関連のベンチャー企業を起業した経験を持つ。これまで取材で耳にした女性起業家の課題について聞いてみた。
なぜ、女性起業家は男性起業家に比べて資金調達が難しいのだろうか。
「まず、資金調達を兼ねた起業家支援のプログラム等に、女性の応募が少ない。当社は、これまで多くの女性起業家を支援してきました。それでも、プログラムへの応募男女比を見ると男性7割、女性3割と差があります。もう一つの課題は、女性起業家が長期的かつ保守的に自分のビジネスを見積もるのに対し、男性起業家は大きな夢を語るというギャップです。資金提供するベンチャー・キャピタルは、高リターンを望むアグレッシブな人たちですから、大きな夢を語る方が有利になる。」
そういう状況を変えることはできるだろうか。例えば女性起業家がもっと自信をもって大きな夢を語るようになったら、どうだろうか。デイビッドさんの考える改善案は、現実的だ。
「起業家の言動が男女で異なるのは、社会がそれを要求するから、とも言えます。男性は自信があるように見えないとカッコよくない。逆に女性は自信があるように見えると傲慢だと思われる。
このようなバイアスは社会にも投資家にもあると思います。正直なところ、投資家の考え方を変えるのは難しい。ただし、より多様な人々に投資の世界に入ってもらうことで、基準を変えることはできると思います。女性起業家に多い、硬い将来予測を好む投資家が増えてくれば、資金供給も増えるでしょう」
(写真 Agus Sanjaya撮影)