Ocean Newsletter
第92号(2004.06.05発行)
- (株)舵社 会長◆土肥由夫
- 深海資源開発(株)資源調査部長◆松本勝時
- ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新
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マンガンクラスト中の白金 ~大陸棚調査の先に見えるもの~
深海資源開発(株)資源調査部長◆松本勝時マンガンクラストは当初、マンガンノジュールに比べてニッケル・銅の含有量が少なく、資源的価値が低いとみなされてきた。だが、コバルト・白金の含有率が高いことが判明して以降、クラストに関する調査・研究は本格的に進められている。将来における鉱物資源等の探査・開発権と関わる大陸棚調査とあわせ、海洋資源開発に十分な施策が講じられることを期待する。
これまで鉱物資源は、人間の生活圏である陸上にのみ求められてきました。しかしながら、技術の発達はより困難な環境下にある資源開発を可能にしつつあります。海洋鉱物資源に関しても、19世紀後半の深海底マンガンノジュール※1(以下、ノジュール)の発見以来、さまざまな調査・研究が続けられています。
「ノジュール」調査から「クラスト」調査へ
1960年代初頭、太平洋の水深5,000m以深の海底にノジュールが広範囲に分布することが明らかとなり、1980年頃までその経済的採鉱を目標とした科学的・工学的研究が活発に行われました。しかし、水深という大きな壁を克服する技術開発の困難さや法的制約等が絡んで、現在も開発の目処が立っていません。
しかしながら、この研究を通じてノジュール以外の鉄マンガン酸化物、「クラスト」(海山の斜面や頂部の岩盤を覆うコーティングや厚い被覆)の存在が明らかとなりました。しかし、ノジュールに比べてニッケル、銅の含有量が少なく、当初は資源的価値が低いとみなされていました。
ノジュール調査が一段落した1981年以降、クラストの本格的調査が開始され、中央太平洋海盆の海山域の広範囲にクラストが発達していることがわかりました。特に水深2,500m以浅でコバルト品位が最高2%を超えるなど、条件が揃えばノジュールに比べて経済的価値が高いこともわかりました。これを受けて1987年(昭和62年)から通商産業省(現 経済産業省)は、北太平洋地域においてクラスト調査を行っています。
クラスト中の白金
クラストの化学的特徴として、ノジュールに比べてマンガン・ニッケル・銅の含有率が低いながらも、コバルト・白金の含有率が高いことがあげられます。東海大学CoRMC調査団(1990)※2により公表されたデータによれば、白金の品位が最大4ppmを超えるクラストも確認されています。よってクラスト中の白金は、コバルトと共に価値のある元素と位置づけられます。今後、「クラスト」に関する調査・研究が進むにつれて、その重要度がさらに増すと考えられます。
白金の需要予測と資源の偏在
従来、宝飾品としての需要が主体であった白金ですが、1990年代から化学・電子・ガラス・石油精製・触媒等の工業用需要が驚異的に拡大しています。また、先進各国では環境改善とエネルギー需給体制の強化に即した燃料電池の開発が活発に進められており、触媒材料としての白金の需要が益々高まるとも言われています。一方で、白金の供給は8割強を南アフリカ共和国に、2割弱をロシア共和国に依存しており、この供給源の偏在と燃料電池の実用化に伴う需要増大などの要因から、価格の急騰が懸念されています。従ってわが国でも早急にクラスト中の白金の量と質の把握、経済的な採鉱技術開発を推し進める必要があります。
![]() 深海底でのクラストの産状 | ![]() |
海底用ボーリングマシンシステム(BMS)※3により、クラスト調査が行われている。 |
「大陸棚調査」から将来の海洋資源開発へ
2003年9月の小泉内閣メールマガジンで扇国交省大臣(当時)が「国家百年の計」と位置づけられたように、「大陸棚調査」によって日本の大陸棚が国土の約1.7倍広がることが期待されています。この大陸棚の拡大に伴って、海底に存在する鉱物資源等の探査・開発権が確保されるばかりか、今後の海洋資源利用に関する政策等を推進するためのフィールドが大きく広がることとなります。この千載一遇の契機を逃すことなく、海洋資源開発等に十分な施策が講じられることを強く期待します。(了)
※1 ノジュールは鉄マンガン酸化物からなる直径数cmの団塊で、副産物としてニッケル、銅、コバルトなどの金属元素を数%含む。
※2 東海大学CoRMC調査団(1990)「図鑑:海底の鉱物資源―Cobalt-Rich Manganese Crust―」、日本近海のクラストの研究成果を公表したもの。
※3 海底用ボーリングマシンシステム(BMS)は、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が所有する。
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