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オーシャンニューズレター

第92号(2004.06.05発行)

第92号(2004.06.05 発行)

新しいマリンレジャーの普及を促す

(株)舵社 会長◆土肥由夫

昨年実施された国土交通省の規制緩和によって、全長3.33メートル未満、エンジン出力2馬力以下の小型ボートには、操縦免許と船舶検査が不要となった。
こうした規制緩和は小型ボートの普及にとって大いに歓迎すべきことだが、ただ安易な利用者と製造者だけを生むためのもので終わってはならない。

はじめに

近年、カートップボーティングという新しいマリンレジャーが根付き、成長の兆しを見せ始めている。主に釣りを目的としたボーティングで、ボートは自動車のルーフに載せてゲレンデまで運搬する。水辺での上げ下ろしは砂浜や漁港のスロープ(斜路)を利用し、気ままにボートを走らせる個性豊かなスタイルだ。ボートの長さは概ね4メートルまでで、その多くは10馬力未満の船外機とともにオールやパドルを備えている。ボートの保管には自宅の庭や駐車場を使い、マリーナなどの定係港(ホームポート)を持たない。

カートップボーティングの特徴は、ボートの購入価格が安く、自作もできること、目的や天候に合わせて利用水面を自由に変えられることなどで、多くの人々が年齢を超えて参加できるマリンレジャーとして、幅広い普及が期待されている。

さらに、昨年実施された国土交通省の規制緩和によって、全長3.33メートル未満、エンジン出力2馬力以下の小型ボートには、操縦免許と船舶検査が免除されたことも普及の手助けとなっている。

海外にも日本に似た免許制度や検査制度はあるが、カートップに積んで運ぶような小型ボートまで対象にする例は見当たらない。日本では、船に関する操縦資格、船舶検査、航行区域などのすべてが職業船員が操る大型船舶を基本に考えられ、ここに取り上げるカートップボートのような小舟であっても規制の対象とさせてきた。しかし、最近に至り、免許や船検に縛られずに操縦できる新基準が設けられたことは、行政の好ましい対応として歓迎されるが、小型ボートを幅広く普及させるには、さらなる規制緩和と利用環境の整備が必要となる。

利用環境の整備と更なる規制緩和を

全長3.33m未満、エンジン2馬力以下のスモールボートは免許や船検が不要となり、手軽に水辺で楽しむことができるようになった。

先述のように、可搬型ボート(カートップボートやトレーラーで運ぶボート)は特定したホームポートを持たない。そのため、まず行動圏にあるボートの上げ下ろし場所の整備が第一の課題になる。

上げ下ろしには主にスロープを用いるが、全国的に見てその設置数は極めて少なく、しかも貧弱である。まず、このことが普及の第一の隘路となっている。欧米、大洋州などのボート先進国を眺めると、広範なボート人口は例外なくスロープを利用するトレーラーボーティングに支えられている。これらの国々の人口集中地域には、数キロごとに公共スロープが設置され、休日には周囲の利用者が自宅に置かれたトレーラー積載の小型ボートを自動車で引いて最寄りの施設まで移動し、フィッシングやデークルージングを楽しんでいる。

このような自宅保管のボートは、おそらくマリーナ保管の何倍、否何十倍にも上り、その点で日本の状況とは決定的に異なっている。彼らにとってのスロープは都市機能を支えるインフラの一つになっているのである。

建設コストを考えても、スロープは本格的なマリーナの建設価格の何十分の一の経費で建設できるはずである。また、その利用者数を考えれば、利用者が限定されたマリーナに比べ何倍にも上り、経費対効果は極めて高いものとなるだろう。これらの整備は大規模な開発とはならないため、官界や産業界の耳目を引くものではないが、国民が享受する利便は極めて大きい。

可搬型ボートによるボーティングは、国民的レジャーへと発展する大きな可能性を秘めている。それを実現するには、まず官公によるボートスロープの整備が第一の必要条件となるだろう。ある海外の識者は、地震国日本にあっては、災害時の応急港としても利用価値が高いと指摘する。平底のバージ(運搬船)を震災で孤立した地域のスロープに着ければ、物資の補給に大いに役立つとの考えだ。国や地方自治体の防災関係部署にとって、参考になる意見ではなかろうか。

繰り返しになるが、昨年の規制緩和は国土交通省の英断として評価できるが、いまなお充分とは言えない。ボートの全長で1~2割、エンジン馬力で2~3倍の線まで規制を緩める必要があるだろう。利用者や専門家の意見を総合すると、実際長がせめて3.6メートル、エンジン出力で5馬力程度まで広げられれば、耐航性はかなり改善され安全に寄与するとのことだ。

免許・船検適用除外ボートの利用者は節度ある行動を

ボートを自動車のルーフに載せて水辺まで運搬する、カートップボーティング。規制緩和によって、こうした新しいマリンレジャーの普及も期待される。

全長3.33メートル未満、2馬力以下のボートは、免許や船検が不用なため経験、年齢を問わずに誰にでも扱えるが、その利用には大きな危険が潜んでいる。他のボートの少ない静かな水面で注意深く操れば、初心者でもさほど危険ではないが、荒れた水面や交通が輻輳する水面では問題を起こしやすい。

規制緩和以前は、すべてのエンジン付きボートの操縦には小型操縦士免許が義務づけられていたため、その取得過程で海上交通ルールを身につけることができたが、緩和措置によってまったくの初心者や子供でも操縦できるようになった。その結果として、無知や未熟操縦による他船との衝突、沈没、落水による事故の多発が懸念される。また、マナーの欠如やルール違反による漁業関係者や地域住民との摩擦も気掛かりである。

さらに心配なことは、これらのマイナス面が強調され、せっかく緩められた規制が締め付けに逆戻りしないかということである。この点を充分留意して、利用者においては、必要知識の修得と操縦技術の向上に努め、自己責任と良識に基づいた安全な行動を心掛けなければならない。

ボート業界への注文

可搬型ボートの普及は、バブル経済の崩壊以降長らく停滞を余儀なくされてきたボート業界にとっても大きなビジネスチャンスとなるだろう。すでに、それを業績回復の好機と捉える企業も一部に現れ始めている。

カートップボートの製造は、舟造りに情熱を捧げる零細企業によって支えられているが、船体設計、工作法のガイドラインは不在である。ことに免許、船検適用除外ボートにおいては、船検の義務もなく、品質の良否はすべて製造者の手に委ねられている。

そこに懸念の種がある。せめて、製造者の創意を集め、実地に即した安全性(予備浮力、船体強度など)についてのガイドラインを作り、それに沿って製造されるべきではなかろうか。その努力を怠れば、再び船検の網を掛けられかねないのである。(了)

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