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オーシャンニューズレター

第84号(2004.02.05発行)

第84号(2004.02.05 発行)

インフォメーション 海洋廃棄物の買い取りについて


網にかかった海底のゴミを船上でゴミ袋にいれる江田島の漁業者(写真:中国新聞社)

韓国では、海洋ゴミ問題の対策の一つとして海洋廃棄物買い取り制度を実施している。

「海洋廃棄物買い取り制度」とは、海洋政策を総括的に担当する中央官庁である「海洋水産部」が「海洋汚染防止法」で定めている海洋廃棄物の収去・処理に関する規定に基づいて、2003年4月に釜山広域市、全羅南道をモデル地域として指定し、施行している海洋環境政策の一つである。

制度の目的は、ゴミ処理費には1トン当たり2万円以上がかかるため、漁業作業中引き上げた海洋ゴミを再び海に投棄することを防ぐことによって、海洋環境の保全と漁民の意識高揚を果たすことである。買い取り対象のゴミの種類は、漁業作業中引き上げた漁業廃棄物や漁船起因生活ゴミで、40リットル当たり400円の値段で買い取っている。去年の事業では釜山で481トンなど全体で578トンの買い取り実績をあげた。

海洋水産部では、2003年には3ヶ所であったモデル地域を今年は11ヶ所に拡大し、買い取り海域も近海だけではなく沿岸海域まで広げる方針である。今後、全海域での実施の検討や、買い取り価額、自治体との協力システムなどの改善を検討していく方針である。

海洋水産部によると、韓国では国内沿岸で年間約15.2万トンの海洋廃棄物が発生しているという。そのうち、陸上からの流入量は5.2万トン、漁業などの原因が10万トンであると報告されている。

海洋ゴミは、魚類の10~20%、貝類及び海草類の20~30%の減少を誘発する原因となっており、その被害は韓国の年間漁業所得約3,000億円の10%に当たる約300億円に上る。また、廃漁具、廃網などは船舶の故障の原因になっていて、海難事故全体の約10%が海洋ゴミによるものであるとされている。

日本にはこのような本格的な海洋廃棄物買い取り制度はないが、日本における例としては、広島県江田島町漁業青年部が行っている広島湾の漁場からの海底ゴミ持ち帰り運動がある。2000年から実施しており、2002年度には地元の漁業者の協力により、底引き網にかかった空き缶などを約40日間で40リットル入リポリ袋約400個分回収したという。2003年度についても、昨年11月から今年1月末まで、これまでより期間を延長して運動を行っている。

青年部は、漁業者から1袋当たり500円でゴミを買い取り、費用を負担してこれらを産業廃棄物として処理している。運動費用の財源は、部員の会費や漁業青年部への町からの補助金の一部が充てられている。

青年部の提唱するゴミの持ち帰り運動の結果、ゴミの回収量は年々増加しているものの、残念ながら、海底ゴミそのものは減るどころかむしろ増えているという。漁業青年部は、「そもそも海底ゴミ持ち帰り運動は、自分たちの漁場を漁民自らの手で守ろうということで始まりました。運動によって回収するゴミの量は年々増えていますが、それは海底のゴミ全体から見れば微々たるもの。回収そのものより、『海は汚れている、海を守らなければ』という意識改革を、自分たちを含めて陸全体に広めることがこの運動の目的」と言う。

海底から回収されたゴミの種類を見ると、空き缶や空き瓶を中心に、テレビ、冷蔵庫などの大型の家電製品、自転車、タイヤ、建設廃材、生活ごみなど多種多様。海洋ゴミの解決を、いつまでも漁業者だけに押しつけたままというわけにはいかないだろう。

海洋ごみは、海岸に打ち寄せられる、海面を浮遊する、海底に沈む、この3パターンに分類される。漂流、漂着ゴミについては2000年7月、当時の環境庁、建設省、運輸省、農林水産省、通産省、厚生省、海上保安庁、気象庁の5省3庁が「漂流・漂着ゴミに関する関係省庁連絡会」を発足させ、対策に乗り出したが、海底ゴミについては実態が見えにくいこともあって対策は進んでいない。しかし、海底へのゴミのたい積は、生態系や漁業環境へ重大な影響を与えかねない危険性を秘めている。したがって、海底ゴミについても早急に調査を進め、漂流、漂着ゴミと同様に対策を検討して、国や社会の制度として取り組んでいくことが必要であろう。

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