Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第84号(2004.02.05発行)

第84号(2004.02.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆多様な食品が世界中から輸入され、冷凍の技術等も進み、食べるものについての季節感は急速に失われつつある。マグロはその代表。マグロが冬の魚だといわれて、直ちに肯ける感覚を持つ日本人は、今はむしろ稀か。昨年の暮れ以来、養殖の生マグロがずいぶんと豊富に出回っているのが目につく。ほどよく脂肪の乗ったきれいな短冊が、1500円から2000円くらいの価格帯で売られ、食指の動く幸せな状況になってきた。「外海の金波に向かう鮪船」(中野功)。

◆2000年、鮪類の輸入量は303(千)トン強、国内の生産量は285(千)トン。食用魚介類の2002年度の自給率が53%だから、鮪自給率は全体より少し低く、世界の鮪業者が日本市場で激しい競争を繰り広げていることはよく知られている。

◆FAOの国際的活動と、最近の新しい「漁業の倫理」問題を紹介する渡辺オピニオンは、日本の漁業を責任ある漁業と高く評価し、漁業の倫理のモデルになりうることを指摘する。適切な自己抑制を前提とする地球環境との共存の知恵が倫理であるという指摘は、大飲、大食、美味い鮪に限らない、ありとあらゆる官能の誘惑に弱い編集子には耳が痛い。

◆イングランドの運河めぐりの楽しさを紹介する田中オピニオンを読んで、編集子もケム川を船で行き来する人々の姿を思い出した。川を船でのんびり旅するのはイギリスの伝統的な娯楽。19世紀のイギリス人がそれをどのようなものとして感じていたかについて、ジェローム・K・ジェローム(丸谷才一訳)『ボートの三人男』(中公文庫)の一読をお勧めしたい。イギリス的ユーモアの乙な味。

◆ボッシュ博士のオピニオンは、本誌でも過去たびたび取り上げたアメリカの海洋政策委員会と、ピュー委員会の双方に、直接かかわる博士ならではのアメリカの最新事情紹介である。事の重要性に鑑み増ページをして読者諸氏にお届けする。まもなく公表される海洋政策委員会の報告に注目したい。

◆大寒も過ぎた。「寒の日のいくたび変わる海の色」(五所平之助)。悪い風邪なぞ召しませぬように。(了)

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