Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第78号(2003.11.05発行)

第78号(2003.11.05 発行)

総合的な学習の時間に干潟を学ぶ ~「遊ぼう、知ろう、伝えよう」ぼくら干潟探検隊~

木更津市立金田小学校教諭、現在天神山小学校勤務◆今井常夫
木更津市立金田小学校教諭◆磯貝幸子

木更津市の金田小学校では、生活科や総合的な学習の時間を通して、「小櫃川河口干潟」という身近な環境を学ぶ授業が全学年で行われている。子どもたちは多くのことを体験しながら繰り返し干潟を学び、成長とともに興味の対象を変えながら課題意識を深めてゆく。この干潟学習によって、環境に対する豊かなものの見方や考え方ができる子どもが育ちつつある。

生きた教室、金田小学校の「ひがた学習」

干潟学習全体構想

金田小学校は東京湾東岸の木更津市の北部にあります。本校の南側には小櫃川が流れ、のどかな農漁村の風景が広がり、海苔の栽培や潮干狩り場としても有名なところです。しかし近年、東京湾アクアラインが開通してからは、千葉県側の接岸地として開発が進められ、急激な変化が私たちの学校の身近にもせまっています。

本校では、平成9年度より全校で、「小櫃川河口干潟」を中心とした地域の環境を生活科の時間や総合的な学習の時間の中で学ぶことにしました。子どもたちを教える上でもっとも大切なことは、ただ知識を与えるのではなく、子どもたち自らが学習の中で得た知識を駆使し、与えられた課題を解決できるような力を身につけさせることです。「小櫃川河口干潟」という身近な環境問題を通して、環境に対するものの見方や考え方が豊かになり、様々な視点から環境を見ることができる子どもたちを育てていけるのではないか―。私たちの「ひがた学習」はこうして始まったのです。

子どもたちの成長にあわせた学習計画

■表1金田小学校の干潟学習全体構想
干潟学習全体構想

小櫃川河口干潟は、東京湾に残る数少ない自然干潟で、干潮時には沖合2kmまでも広がる広大な干潟です。ここには、ハママツナやウラギクなどの海浜植物の群生が見られ、多くの生物が生息しています。夏にはチゴガニのダンスが、冬には数千羽の渡り鳥が子どもたちを迎えてくれます。

本校では、学年に応じて、表1のような活動計画を作成し学習を進めています。1、2年生は、「干潟で親しむ・遊ぶ」をテーマに、干潟にはいろいろな姿形をした生き物がいることを遊びながら学びます。この体験が、子どもたちひとりひとりの興味関心や課題を創り出すのです。

干潟という地域素材を扱うよさは、1度だけでなく何度でも繰り返して体験することが容易なことです。繰り返し干潟を学び、体験しながら、子どもたちの興味の対象や課題意識も深まり高まっていきます。そうして、彼らの成長に応じて学習のテーマも新しい段階にはいるわけです。

1年生の時から干潟の生き物と遊び親しんだ子供たちは、3、4年生になると、もっと知りたい、調べたいという意欲をもつようになっています。この意欲や関心を生かしながら、より広い視野で干潟を見つめたり、学んだりすることができるように、干潟とその上流にあたる七里川での体験を比較しながら調べ、干潟に対する見方や考え方が広がるようにしています。

例えば、川や干潟の水や土を調べたグループは、干潟の水はどれくらいきれいなのかを図書室の本や教師の提示した資料の中から「パックテスト」や「ペットボトルを使った透視度計」を使って調べました。干潟は、場所によってはかなり汚れていることがわかりました。しかし、干潟だけ調べても、汚れの原因もわからないと考え上流探検でも同じ実験をするようにアドバイスをしました。上流の水を調べた子どもたちは、その水のきれいなことに驚くとともに、干潟に流れつくまでに汚れてしまう原因について、地域の有識者から話を聞くことができました。上流に降った雨がきれいなまま干潟まで流れてくるのではなく、生活排水や農工業廃水として汚れながら干潟にたどりつくことや、その汚れを干潟の土や生き物がきれいにしていることを、子どもたちは自ら学んでゆくのです。

この学習で学んだ川や干潟の大切さを身近な人に知ってもらいたいと、子どもたちは、劇やオペレッタ、新聞、絵本作りなどに取り組みました。作品は保護者参観で発表したり、地域の施設に掲示したりしています。また、人形劇は地元のラジオ局でも放送してもらいました。

自ら考え、動きはじめる子どもたち

高学年の子どもたちは、個々の興味関心に基づいて生き物の特徴やはたらき、干潟の環境などについて調べ、そのすばらしさを再確認します。個々のテーマを調べるために、干潟で実験観察をしたり、インターネットや図書館で調べたりと、学習の場は教室に限らず広がっていきました。谷津干潟での観察を実施することで様々な干潟のひとつとしての小櫃川河口干潟という見方もできるようになりました。また、秋の『干潟クリーン作戦』(地域諸団体主催)にも参加し、ゴミを拾いながら参加者にインタビューしたりして情報を収集しました。課題解決に困った時には、地元の研究者に相談にのってもらいました。

また、いろいろな発信のノウハウについては、地元ラジオ局の人、雑誌編集者、パソコン教室の先生の協力を得ることができました。発信をするに際しては、だれにどんなことを伝えたいのかという目的意識をもち、様々な表現方法に分かれて取り組みました。できあがった新聞や本を公民館や郵便局で展示してもらうように依頼したり、学区に干潟をもつ学校にビデオテープを郵送したり、駅前に立ち通行人に直接チラシを配ったりと発信方法も多岐にわたっています。

発信に対する反応は楽しみです。「干潟が汚れた原因をもっと考えた方がいい」「植物の観察を継続するといい」といったアドバイスや「今度干潟に行ってみたくなった」という励ましの言葉が届いたり、ホームページを見たアラスカの小学校からメールが届いたりしています。このような返信から自分たちの活動を振り返ることができ、新たな課題への意欲が生まれています。さらに、昨年度はNHKの協力の下、釧路市の小学校とのテレビ会議で、環境の違う自然をどのように保全していけばいいのか考えることができました。

ものの見方や考え方が豊かな子どもを育てる

干潟での体験から生まれた課題を追求する中で、子どもたちは情報を収集処理・伝達する方法を学んだり、他地域で干潟を学習する学校や小櫃川流域の学校と交流したり、地域のボランティアへ参加しながら、様々な視点から環境を学びます。また、京葉工業地域の工場群や河口のごみなどから、豊かな自然の中に潜んでいる深刻な環境問題や自然を守るために努力している人々の活動を考えることにもなるでしょう。干潟という身近な環境問題から地球全体の環境に視野を広げることも可能なのです。

本校では、干潟学習を通して子どもたちに環境や自然の変化を測ることのできる「ものさし」を作っていきたいと考えています。子どもたちが将来にわたって、その「ものさし」を使っていろいろな環境や自然と比較しながら私たちを取りまくさまざまな問題について考え、豊かな未来を築いてくれることを願っています。(了)

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