Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第603号(2026.03.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆幡谷咲子

◆「北極」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。白い氷原、オーロラ、静けさの中に広がる美しい自然―そんなイメージがまず浮かぶかもしれません。けれど今、北極は「きれいな場所」というだけでは語れない地域になりつつあります。トランプ大統領による「グリーンランドを領有する」といった発言が注目を集めているように、北極は各国の関心が交差する舞台となりつつあります。◆笹川平和財団海洋政策研究所の前身であるシップ・アンド・オーシャン財団は、冷戦期であった1980年代より北極域に着目し、北極研究を現在まで継続して行っております。当時、北極海は軍事・安全保障の面で戦略上きわめて重要な地域で、特にロシア側の海域は、外国から見えにくく、近づきにくい「閉ざされた海」でもありました。そうした中で、日本財団の支援のもと、当財団はロシアやノルウェーと「国際北極海航路開発計画」(INSROP/JANSROP)を実施する等、北極海航路をめぐる調査・分析を積み重ねていきました。その成果の一つとして、北極海航路は夏だけでなく、冬でも砕氷船の支援があれば技術的に通行可能であることが明らかになりました。◆その後、北極海航路を国際航路にすべく、ロシアは航路の整備・投資を進めてきました。しかし、Arild Moe博士の論考にもある通り、近年のウクライナ侵攻に起因する不確実性が、ロシアやNSRに関連する船舶への長期投資のリスクを高めています。短期の動きだけでは航路は育たず、安定したルールと信頼、継続的な投資があって初めて、北極海航路は国際的な交通路として機能し得るのではないでしょうか。◆美しい自然と、複雑化する地政学的な状況―北極はその両方を抱える地域となりつつあります。笹川平和財団は、2025年、北極地域における平和・紛争解決および持続可能な発展を推進することを目的として、グリーンランド自治政府と「ピースセンター」設立に向けた覚書を締結いたしました※。地域に暮らす人々と共に、先住民の知恵を尊重しながら共存を図り、次世代を担う人材を育成し、平和構築や持続可能な発展を促進するための重要な一歩となるよう、これからも笹川平和財団は北極事業を推進して参ります。(研究員 幡谷咲子)
※笹川平和財団、グリーンランド自治政府と協力覚書を締結 https://www.spf.org/spfnews/pressrelease/20251117.html
 

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