Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第47号(2002.07.20発行)

第47号(2002.07.20 発行)

体験学習の宝庫『海』

日本海洋少年団関東地区連盟会長◆丸山一郎

海は、発見の宝庫である。海という自然を相手にした体験学習は、危険が多いという理由から敬遠されているが、何が危険かを教えることも大切である。失敗を恐れず、新しいことに果敢にチャレンジする勇気を持った子供をたくさん世の中に送り出すためにも、そうした体験学習の場を提供すべきではないだろうか。

海は偉大な指導者である

子供たちが色々な「体験学習」ができるようにとの配慮から、本年度より『完全学校週5日制』が実施されました。私たち、『海』を活動の場とし、青少年の社会教育の一端に携わる者として非常にありがたいことだと思います。しかしながら、宝の山「海」は敬遠されているようです。

私が小学生の頃「臨海学校」が楽しみで、夏休みの宿題そっちのけで出発の日を心待ちしたように思います。私の3人の子供は皆成人しましたが、臨海学校の体験はなく、3人とも「林間学校」でした。いつの頃からか、臨海から林間に切り換わってしまい、最近の小学生は臨海学校を経験することがほとんどないようです。

臨海学校では海水浴はもちろんですが、波打ち際での探索、小さな魚を捉まえようとして、そのすばしっこい動きに驚き、カニに手をはさまれべそをかき、イソギンチャクに触ってビックリした思い出が今でも鮮明に残っています。中学生の頃にはマテ貝の取り方を漁師さんに教わり、海胆 (うに) の取り方を海女さんに教わって、一人で取り、皆に自慢したことを思い出します。

小学校4年生の時、海洋少年団の団員募集の張り紙を見て、海洋少年団に入団しました。

夏の海辺でのキャンプ、体験航海、カッターでの帆走、手旗訓練、結索等色々楽しい体験ができることで、毎日の宿題は忘れても訓練の準備は欠かしたことがありませんでした。

中学生の頃は飯盒 (はんごう) 炊飯ができるようになり、火の管理を任され、小学生に火の起し方を伝授しました。高校生のときは仲間と一緒に天気予報の短波放送を聞き、天気図を作りました。もちろん初めは聞くだけが精一杯で、図表に書き込めず、テープに録音し何度も聞きながら苦労して1週間掛かりでやっと作り上げた、その時の満足感は今でも忘れません。以来天気を気にするようになり、風、波、潮の流れ等、海を通しての体験、知識から、自然の偉大さ、怖さを知りました。団員を卒業し、準指導者、指導者と活動を続けるうちに、「海」という大自然が、私にとって非常に大きな指導者になりました。偉大な指導者「海」に逆らうことはできませんが、魅力一杯の海を青少年指導の手段として協力して貰っています。

体験しなければ判らない。そこに体験学習の価値がある

図1 海事社会の構成
海洋少年団の「カッター訓練」。クルー全員が呼吸を合せて漕がないと真直ぐ進まない。最後まで力を合わせて頑張ることは、子供たちにとってかけがえのない体験になる。

海洋少年団活動の中に「カッター訓練」があります。6人のクルーと艇長、艇指揮の8人が1チームとなり、長さ6m、幅2mの手漕ぎ大型ボートを漕ぎます。小学生団員にとっては大きなボートに乗れる楽しい訓練、しかし中学生、高校生団員にとっては苦しく疲れ、その上厳しい訓練となります。手に豆ができ、破れても漕ぎ続けなければなりません。艇長の「櫂 (かい) 上げ」の号令が天の声のように思える瞬間です。

カッターは今の世の中に時代遅れの代物かもしれません。カッターは右舷、左舷の3人のクルーが呼吸を合せ、力を合わせて漕がぬと真直ぐ進みません。団員1人1人の力は皆違います。弱い者の分は他のクルーがカバーしなければなりません。一旦カッターで海に出たら、時々休みは取っても、手の豆が破れても、帰港するまで漕ぎ続けなければなりません。陸上と違い水の上です。潮に流され、風に押され、同じ所に留まっていることはありません。そのため、どんなに疲れても、手が痛くても漕がねば帰れません。全員が最後まで力を合わせ、頑張り抜くことが協調性を養い、自分が疲れたと言って休めば他の人にその分迷惑が掛かることを学びます。

また艇指揮、艇長にあたった者は目標の決定、障害物や周囲の状況を見極め、安全を確保しなければなりません。それぞれが与えられた役目、仕事を全うすること、義務・責任感を学びます。ここに言葉ではなく、体験しなければ判らない教育的価値があるのです。グループ、集団の中で何をしなければいけないか、何をすべきかを考えることで、社会生活をする上での必要なことを学びます。これが青少年に対する社会教育ではないでしょうか。

「危険だからダメ」という教育の危険性

今、私たち大人に与えられた課題は、『完全学校週5日制』で増えた休みに、子供を塾へ行かせることだけではなく、将来社会生活に必要となる責任感、協調性を体験的に学ぶ機会を与えることではないでしょうか。それには海、山で自然を相手の体験、冒険にチャレンジする機会を提供することだと思います。自然、特に海は危険が多いと思われがちですが、何が危険かを知り、対策を立てておけば何も恐れることはないのです。

様々な体験プログラムの実施場所による危険度の違いは、確かにあります。実施する場合の危険度は、陸上と海上では非常に大きな差があります。海上の事故は即「生命の問題」につながるからです。プログラムの企画に際しては実施する場所、海辺や海上の状況を熟知している人、知識を持っている人から情報を入手し、十分に安全対策を立てる必要があります。バディーシステム、ライフジャケット、レスキューボート、見張り等必要な準備・手配をすれば、たいていの事故は未然に防げるものです。

体験、発見の宝庫『海』が目の前にあるのです。手間を惜しまず、子供たちに体験、経験する場を用意してあげませんか。自分自身が子供の頃経験した、楽しい出来事を「未来の大人」に教えてあげようではありませんか。新しい経験や発見をした子供たちの眼が輝いた時、喜びを体一杯で表現した時、一緒に喜びましょう。

十分に対策を立て、失敗を恐れず、新しいことに果敢にチャレンジする勇気を持った子供をたくさん世の中に送り出すこと、大人が忘れてはならないことだと思います。自然の中でも一番の厳しさと優しさを持った海、体験学習に最適な海、もっともっと活用しませんか。大人と子供が同じ事を経験・体験することで共通の話題ができ、コミュニケーションが弾む。普段の生活の中で「あれはダメ、これもダメ」から「あれをやってみたら、これをやってみないか」に切り替えて行こうではありませんか。自己中心の行動の多いといわれる現在の子供たちに「問いかけながら、余裕を持って」体験の場を提供することが、大人に与えられた課題ではないでしょうか。(了)

バディーシステム=スクーバダイビングなどの水中プログラムにおいて、安全確保のために、2人がペアー(3人1チームの場合もある)になり、プログラムが終了するまで行動を共にすることを条件(義務)とする方式。

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