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オーシャンニューズレター

第43号(2002.05.20発行)

第43号(2002.05.20 発行)

「TAJIMA」号事件、解決の行方は?
~公海航行中のパナマ船で日本人船員行方不明~

インフォメーション

パナマ船籍で日本の海運会社が運航するタンカー「TAJIMA」(14万8,330トン、日本人船長および日本人乗組員5人、フィリピン人乗組員18人)で、ペルシャ湾から姫路港へ向かっていた公海上で事件は起きた。

4月7日、台湾沖の公海上で日本人の二等航海士が行方不明になったとの通報が沖縄の第11管区海上保安本部へ入り、巡視船を派遣して台湾側とも協力して捜索したが発見できず。その後、乗組員から船長(日本人)に対して、フィリピン人乗組員が殺害したと内部告発があった。

9日に当該タンカーを管理する日本の海運会社から乗組員保護の要請があり、これにもとづいて海上保安官が同船に同乗して12日姫路港に入港。続いてパナマ側から正式な捜査共助の要請を受け、海上保安庁が乗組員の事情聴取や実況検分をしたところ、船内で血痕が発見された上、フィリピン人乗組員2人が犯行を自供した。

さらに、管轄権を有するパナマ政府へ被疑者を引き渡して処罰するよう外務省や法務省に海運会社から要請がされたが、同国との間で逃亡犯罪人引渡し条約がない等の事由により仮上陸、収容、送還の手続きが難航している。

19日以降、(社)日本船主協会も事件の早期解決を日本政府とパナマ大使館へ要請し続けている。 なお、2人の容疑者は船長の警察権にもとづいて同船の船室に別々に拘束され、タンカー会社派遣のガードマンが他の船員と協力して見張っている。(平成14年5月1日現在)

【解説】

問題は、どこの国が刑事裁判管轄権を有するかである。被害者がたまたま日本国籍で、その船がたまたま荷物の関係上、日本の領海内に入っているものの、管轄権は日本にはない。他方、フィリピンに被疑者を強制送還しても、同国には国外犯を裁く法律がなく、公海上の便宜置籍船での事件のため無罪放免となりかねない。

現行の国際海洋関連法に照らしてみれば、公海上の船舶で発生した事件の管轄権は、基本的に船籍国すなわち旗国(FlagState)にある。したがって、外交努力でパナマ政府を動かし、被疑者の身柄引渡しを日本政府へ要請してもらい、これに応えて海運会社が被疑者を移送するしかない。しかし、ここでも問題は残る。というのは当該タンカーごとパナマへ回航することは非現実的であり、犯罪容疑者を警察ではなく民間企業が移送するという問題もでてくる。

このクラスの大型タンカーでは一日3~400万円の不稼働損失が出るとも言われている。

本件は、海上における法秩序の盲点というもいうべき部分を図らずも露呈したわけで、解決の行方が大いに注目されるとともに、再発防止と円滑な処理のためにどのような措置を講じていくべきか、各方面の議論が待たれるところである。(編集部)

【メモ】
便宜置籍船(FOC:Flag ofConvenience)は、便宜的に船籍を外国において実際の運航管理を自国で行うもの。2001年7月現在、日本の外航商船隊(2,000トン以上)2,100隻のうち日本船籍は117隻、残りのほとんどはパナマやリベリア籍。低賃金の外国人乗組員を雇えるほか、税金が安く規制もさほど厳しくない。

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