Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第36号(2002.02.05発行)

第36号(2002.02.05 発行)

海洋構造物に実りある未来を

海上交通システム研究会 副会長◆長尾實三

「アクアポリスの教訓」(本誌NO.32)は海洋開発に関わる者にとっては基本問題として肝に銘じておかなければならないと思う。しかし、結果論だけで海洋構造物そのものがダメという印象を与えないようにしたい。過去の反省に学び、海洋構造物の今後の活用方法について再検討したらどうか。

Newsletter No.32に掲載の佐久田先生の「アクアポリスの教訓」は海洋開発に関わる者にとっては基本問題として肝に銘じておかなければならないとの思いであります。

建造当時は「広く海洋に関心を抱かせる快挙である」との認識を持ち、それなりの成果をあげたことと考えておりましたし、また船舶の発注がほとんどなくなった1977年頃は、造船所は工事量確保のために、懸命に「第2、第3のアクアポリス」を求めていた時代でした。ただ、このたびの撤去は、先生が述べておられますように残念ながら「実に虚しい実りの少ない結末であった」と言えますが、これは、バブルの頃に日本各地に多数建設されたレジャー施設がほとんどうまくいかなかったのと同じ轍であります。

呉のポートピアランドに1990年頃に約38億円で建造されたスペイン風の長さ128mの係留型船舶「レストラン・劇場―Estella」はわずか5%に近い価格で、2000年に韓国に売られたと聞いております。こちらはアクアポリスよりも短期間で、もっと惨めな結末ではないでしょうか。別府湾で観光用に係留使用されていた中古のリバイバル客船「オリアナ号」が撤去後、中国へ売られて、上海で再びリバイバルし係留使用されております。このような結果論で海洋構造物がダメであろうとの印象を与えないようにお願いしたいものです。皮肉なことに撤去後「洋上移動が可能である」ことが海洋構造物の大きな特徴であるとも言えます。

海洋構造物の成功例、海中レストラン「萬坊」。佐賀県東松浦郡呼子町殿ノ浦

対照的に、九州のN造船所が開発した海中レストランが、地元の漁業会社の発注により、1983年に佐賀県唐津市からほど近い名護屋湾に浮かべられ、「萬坊」という店名で営業しております(写真参照)。新規性もある上に、新鮮な活魚料理店ということでグルメブームに乗り、都心から離れておりますが、今日でも盛況でかなりの業績を上げておられるようです。主として発注者の見通しの成果であると言えます。新鮮な魚材の供給、集客方法、店内のサービスや土産物などソフト面でもかなり工夫を凝らしておられます。これは海洋構造物の成功例であります。ただこの種の構造物は係留地点選定の難しさからリピート発注がないので残念な思いがしております。海外向けのプラント台船は成功例も多く、またメガフロートも実施段階にあると考えます。1975年頃にサウジアラビアに輸出された4隻のホテル台船は移動性を活かして有効に活用されているようです。

何によらずビジネスとしての経営的見通しと運営に対する知恵が必要であります。先生も述べておられますように、「コストパフォーマンスを想定・確立し、その評価を厳正に行い......」のとおりでありますが、これが至難のことで先がなかなか見えないものです。

アクアポリスは台風に対する係留や塗装も問題はなかったと聞いております。このプロジェクトに関わった海洋関係者が、一度集まってアクアポリス鎮魂のためにも多面的な反省・評価の会合を持ち、海洋構造物の今後の活用方法について改めて検討しては如何でしょうか。(了)

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