Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第34号(2002.01.05発行)

第34号(2002.01.05 発行)

地球温暖化について

東京大学名誉教授◆奈須紀幸

地球温暖化が続けば大陸氷河を融かし、海面上昇をもたらす。海岸・低地沿いの都市・港湾や農耕地などは水没する。これが、一番恐れられている結果である。地球温暖化は防止すべきである。

1.はじめに~氷河と海水準

図1 氷河分布

現在の氷河分布

2万年前の氷河分布

(奈須・原図に基づく)

過去二百数十万年の間、地球表層は何回目かの大氷河時代に見舞われた。その間にあって、気候が全球的に寒冷化して、陸地の広大な部分が大陸氷河に覆われた氷期と、気候が温暖化して、南極大陸とグリーンランド島の上の大規模氷河を残す程度で、他の大陸氷河は縮小し、山岳氷河の規模となった間氷期を繰り返した。

氷期の期間は長く、間氷期の期間は短かかった。現在は間氷期の状態にある。図1の上図は現在の、下図は2万年前の氷河分布を示す。2万年前は最終氷期であるウルム氷期の最盛期で、海水準は全世界的に約120m程低下していた。低下した分だけの海水の水分が氷の形で大陸の上に閉じ込められていたのである。

北米大陸の上には"ローレンタイド氷床"、ユーラシア大陸の北部には、西に"スカンジナビア氷床"、その東に"シベリア氷床"が低地の上まで覆って拡がっていた。

南極氷床は、高い南極大陸の上に数千万年前から積み上げられ、極寒の地ゆえ融けることがほとんどなく、安定していた。図上では省略してある。南極氷床は南極海に取り巻かれ、他の大陸とは不連続である。北半球でもグリーンランド氷床は、海に取り巻かれて、ローレンタイド氷床、スカンジナビア氷床、シベリア氷床とは不連続である。

2.地球文明と気温変動の関連

図2 グリーンランド氷床最高峰よりのボーリング結果
図2 グリーンランド氷床最高峰よりのボーリング結果
(Dangaadら、Nature,v.364,1993による)

1993年、重要な発見の発表があった。図2に示す。グリーンランド氷床の最高点から真下に向けて氷のボーリングが行われた。3,000m掘って、氷柱の試料を得たところで、基盤の岩石に当った。氷柱試料の中に閉じ込められている酸素同位体O18の量から、当時の気温が推定された。氷の堆積量や色調は年間変化をする。氷柱はそれを保存する。それで、木の年輪と同じく、年数を数えることができる。

氷床の頂点から1,500m下で1万年前、3,000m下で25万年余り前であった。

図2の左1/5ほどのA柱に、縦に1万年前までの年数、横に気温相当数値が記録されている。右4/5ほどのB柱に1万年前から25万年余り前までの年数が縦に、気温相当数値が横方向に示されている。A柱のX1 の値がB柱のX 2の値と同値である。

この記録は、25万年余りの昔から、1万年前まで、氷期・間氷期に沿って、この地方の気温が寒暖激しく変動したことを示す。そして、1万年前からは、気温が季節変化程度で、今日までほとんど一定であったことを示す。

大気は気体でよく流動する。この場所での1万年間の気温の安定は、全球的に、それぞれの場所で、気温がほぼ一定であったことを示唆する。

2万年前から、波打ちながら気温は上昇し、1万年前からは一定になった。この条件の下で、ローレンタイド氷床、スカンジナビア氷床、シベリア氷床はすべて縮小消滅し、北極海沿岸の低地や海岸線まで大陸氷河は融けてしまった。が、この一定した気温は、高緯度高所にある南極氷床やグリーンランド氷床の氷を融かして海面を上昇させるだけの力はなかった。

海水準(海面)は、約6千年前頃、上がりきって、それ以上は上昇しなかった。融けるべき氷床の氷はすべて融けきって、増えるべき水の元がなくなったのである。それで過去約6千年間、海面はほぼ安定し、海岸線の位置も安定した。海水準上昇が続いていたら、今日のような文明の発達はなかったであろう。

3.地球温暖化による影響

地球温暖化が怖いのは、気温の安定が崩れて、上昇し、もしそれが、グリーンランド氷床や南極氷床の氷を融かし始めたら、たちまち数十cm、数mと海面を上昇させ、堤防を築くことがなければ、海岸沿いの大小の都市や漁港、商業港は水没し機能を失う。また、海面の上昇は、河川下流の水はけを悪くし、低地は水浸しになり、あたかも長期的な洪水と同じ状況となり、農耕は壊滅し、放置すれば、人々は飢餓に悩むこととなろう。

地球気温を現状の状態で維持して、安定を図るべきである。これが、地球温暖化防止が叫ばれている科学的根拠である。

地球温暖化は、ある地域の砂漠化や、生態系の悪化、環境汚染の増加などにも影響することが恐れられている。地球温暖化防止には、こうした理由も重なる。(了)

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