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オーシャンニューズレター

第345号(2014.12.20発行)

第345号(2014.12.20 発行)

水産ハッカソンを通じた水産流通プラットフォーム構築の試み

[KEYWORDS]水産流通/水産ハッカソン/海洋新産業
(株)フーディソン代表取締役CEO◆山本 徹

全国の多種多様な旬の水産物を革新的な物流体制により新鮮な状態で流通させることを目指し、ITを活用した水産流通プラットフォームの再構築を試みている。
問題に悩む当事者である漁師の方にも参加してもらい、ITエンジニアたちが水産物の流通を革新するサービスに関してビジネスアイディアを競い合った水産ハッカソンの試みについて紹介したい。

水産物業界の問題構造

■水産業界の既存流通における諸問題

今日の水産物の市場流通機構は、生産者と消費者を需要と供給の視点でマッチングを行う、大手量販店を中心とした流れに変化しています。大手量販店では、売れ筋の商品を低価格かつ大量に仕入れ、大量陳列し売りさばくビジネスモデルを採択しています。こうしたビジネスモデルによって、魚種や量、価格などが安定した、大量の水産物が流通するようになりました。しかし、その反面、水産物が店頭で陳列されるまでの間に規格外の水産物の脱落や売れ残り品の大量廃棄などが起こり、また、生産者に対する価格交渉力が圧倒的に強いことから事実上、生産者を買い叩く構造となっています。
また、市場における水産物の価格決定においてもセリを代表とする人を介して価格決定する仕組みが長年活用されてきました。しかし、その過程における情報が非公開であるため、消費者においても店頭でなぜその価格で販売されているのか理解することが困難な状態にあります。こうした情報が非公開になることは市場関係者がメリットを享受できる構造にあり、消費者や生産者へのデメリットが大きくなります。逆に、価格決定の過程における情報を公開することは、消費者や生産者へのメリットが大きくなる半面、市場関係者へのデメリットが大きくなります。こうした背景により、情報の流動化と公開につながるIT化が水産物業界では進みにくい状況にあります。
さらに、市場を中心とした水産流通は高度に分業化され、長い歴史の中で業務の最適化が図られてきています。それ故に、一気通貫で業界全体の業務を理解しているような人材が存在しない構造的な背景があります。そのため、業界構造全体を変えてイノベーションを起こすような人材が、業界内では育ちにくい状況にあります。

水産ハッカソンの開催

■水産ハッカソンにて

■魚をさばく様子を見る参加者

上記のような業界に対する問題認識を持った上で、私たちは「ITを活用して水産流通プラットフォームを再構築する」事業を行っています。この水産流通プラットフォームとは全国の多種多様な旬の水産物を革新的な物流体制により新鮮な状態で流通させる場を指します。水産業界の構造的な問題で一気通貫に業界を変える人材がいないのであれば、私たちが水産業界を再構築しようという試みです。
しかし、人材という側面では、中長期的に優秀なエンジニアを集め続ける必要があります。ところが私たちだけで取り組める内容には、量的にも質的にも限界があることも認識しています。そこで、私たちの人材だけにとらわれず、外部の人材にも協力してもらいながら、よりスピーディにプラットフォームの再構築を進める手段として、ハッカソンを開催しました。
ハッカソンとは、技術力を示すハッカーと持久力を示すマラソンとを掛け合わせた造語で、限られた時間内でサービスやビジネスモデルを試作し競い合うビジネスプラン・コンペティションの一種です。ハッカソンは、欧米においては社会問題を解決するための手段の一つとして民間団体のみに限らず行政機関や自治体により主催されており、国内でも2010年以後IT業界を中心に広く開催されています。
私たちは、水産をテーマにしたハッカソンを開催することで、それをきっかけに参加したエンジニアが水産業界の現状を理解し、その解決のために自分自身がもっている技術を活用する流れが作れるのではないかと考えました。
2014年8月、日本では初めての試みになる水産ハッカソンを開催いたしました。今回の水産ハッカソンは、水産物の流通を革新するサービス(以下プロダクト)を構築することをテーマとして設定しました。
当日は船橋港の漁師である山本浩司氏より、漁師の立場から水産業界の問題について参加者に語ってもらいました。また参加者には、水揚げしたばかりの鱸をさばく様子を見てもらい、刺身を試食してもらいました。このように、参加者は漁師の話を聞き、魚に直接触れ、魚をさばく様子を見て、そして味わうという五感で水産を体験しながら、水産業界の問題を解決しうるプロダクトの開発に取り組みました。今回の水産ハッカソンでは8件のプロダクトが開発され、うち3件が表彰され、盛況のうちに閉会しました※。

これからに向けて

ITを活用して水産流通プラットフォームを再構築するために、今後も水産業界以外からIT関連の人材を採用し続けることと、採用にならないまでもハッカソンなどのイベントを介して水産業界の問題に対して認識することを促し、当事者として問題解決に関わる取り組みは継続していきたいと考えています。
今回の開催はIT人材と漁師の接点をもつことをゴールに取り組んでおりましたが、今後は漁師だけではなく、飲食店、鮮魚店、一般消費者が一つのテーブルに集まって水産を切り口に問題を一緒に考えるような取り組みにつなげていきたいと考えています。(了)

※ 水産ハッカソンの様子やプロダクトについては水産ポータルのWEBサイトをご覧ください。水産ポータル

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