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オーシャンニューズレター

第345号(2014.12.20発行)

第345号(2014.12.20 発行)

海のない県の高校で水産教育

[KEYWORDS]少子化/陸封型アユ/中山間地域
群馬県立万場高等学校教頭◆中島賢二

2005年、海のない群馬県の高校に水産コースが誕生、全国では栃木県に続いて2校目となる。10年目を迎え、水産コース開設の経緯と、これまでの活動状況、役割と課題について紹介する。
少子化が顕著な中山間地域で、地元の清流神流川の水産資源を守り、県魚であるアユの生態を理解し、完全養殖が可能なヤマメの資源増加、ニジマスの6次産業化に向け、次世代へ継承できるように取り組んでいる。

はじめに

平成17(2005)年度、海のない県の高校に水産コースが誕生しました。内陸型水産系高校としては、全国で栃木県立馬頭高等学校に続き2校目です。試行錯誤を繰り返しながら本年度、10年目を迎えました。水産コース開設に至る経緯と、これまでの活動状況および今後の課題についてまとめました。

水産コース開設に至る経緯

■万場高等学校校舎全景

本校は、群馬県南西部の山間部に位置しています。昭和26(1951)年に県立藤岡高等学校定時制万場分校(定員50名)として設置、昭和43(1968)年独立して県立万場高等学校(定員150名)となりました。平成9(1997)年、普通科2学級(定員80名)4コース制(教養、福祉サービス、情報ビジネス、アドベンチャー)となり、アドベンチャーコースはカヌーやロッククライミング等の野外活動を行うなど、全国でも珍しい特色のあるコースでした。
平成14(2002)年、少子化の状況を踏まえ、個々の生徒の興味・関心に対応した新しいコースの設置が望まれました。地元からは、アドベンチャーコースを廃止して水産科設置の要望がありました。
その背景には、平成15(2003)年4月1日に万場町と中里村が合併して誕生した神流(かんな)町が、魚と親しめる川づくりを目指す「神流川プロジェクト」をスタートさせたことがあります。校庭のすぐ下を流れる神流川は、関東屈指の清流でアユ釣りの名所です。平成17(2005)年度入学生から、普通科水産コースが設置になりました。
平成16(2004)年3月、水産コース設置に向け本校教職員が、栃木県立馬頭高校を訪問しました。8月には、東海大学海洋学部・東京海洋大学を訪問、情報収集に努めました。さらに、神奈川県立三崎水産高校(現神奈川県立海洋科学高校)、岩手県立宮古水産高校、北里大学水産学部を視察しました。施設については、12月に校庭西側で水産実習棟、実習池の建設工事が始まり、実習棟は平成17(2005)年6月に完成、実習池は給水施設工事が難航したため12月にようやく完成しました。工事終了後、12月20日、水産コース開設記念式典を挙行しました。丸形水槽2、角形水槽2の実習池では現在、アユ(県魚)、ヤマメ、ニジマスを飼育しています。

内陸県での水産教育

■榛名湖漕艇実習

■北関東水産・海洋系高校交流

神流川のアユは、昭和43(1968)年に下久保ダムが完成し、ダムでせき止められたため海に下れずダムで越冬するので陸封型アユと呼ばれ、神流湖は陸封型アユの日本の北限とされています。満水時の水面標高が296mと標高が低く貯水量が豊富なため、アユが生息できる水温の6℃を下回ることが少ないからです。7月初旬に、下久保ダム水源地域ビジョン推進協議会、下久保ダム管理事務所、群馬県水産試験場と本校水産コースが合同で、陸封型アユの調査を行っています。神流町の南甘楽(みなみかんら)漁業協同組合が放流したアユに比べると、陸封型アユは成長が緩やかで晩秋に釣り頃になるので、ひと回り小型です。
本校では4月中旬、県水産試験場から約1,000匹のアユの稚魚を譲り受け、実習池で中間育成します。餌やりから水温管理、水量調節、生育状況の観察など「栽培漁業」(「資源増殖」)を学びます。9月には同試験場でアユの採卵・採精実習、10月には初期餌料となるシオミズツボワムシの観察実習を行います。平成18(2006)年度から平成23(2011)年度までは、約2カ月間中間育成したアユを、地元小中学校と連携して神流川に放流しましたが、ここ数年は冷水病や生育不良等の問題があり放流しませんでした。
平成18(2006)、19(2007)年度は、1学期に三崎水産高校の長井海洋実習場で1泊2日の乗船実習を行いました。三崎水産高校施設および実習船を借用し、専門科目「水産基礎」(「水産海洋基礎」)に必要な船舶や海洋に関する基礎知識や、実習を通して集団生活の中での規律の大切さを学びました。平成20(2008)年度からは、県内での体験活動として、榛名湖で2泊3日の漕艇(カッター)実習を含めた活動を行っています。
10月、「課題研究」の実習でニジマス・アユの燻製を作ります。製造工程は、ソミュール液※作り、内臓・鰓処理、塩漬け、漬け込み、塩抜き、乾燥、燻煙(サクラチップ)、熟成です。真空パックして、ラベルを貼り、県産業教育フェアなどのイベントで販売します。ニジマスは業者から仕入れていましたが、今後は本校飼育のニジマスを活用できるよう育成中です。平成26(2014)年度は、中間育成のアユを燻製にして、神奈川県立海洋科学高校文化祭で販売しました。
11月中旬、県水産試験場川場養魚センターでヤマメ・ニジマスの採卵・採精実習を行います。ヤマメ・ニジマスは、環境順応性や成長力が高く、養殖の基本を学ぶ上で扱いやすい魚種です。また、病気にも強く管理が容易なため、解剖や調理実習等での利用価値が高いものです。実習後、受精卵が安定した後に本校が譲り受け、飼育します。平成26(2014)年度、茨城県立海洋高等学校が創立80周年を迎えるにあたり、北関東水産・海洋系高校3校交流の呼びかけがありました。10月3日(金)、同海洋高校に馬頭高校と本校が訪れ、スポーツやゲームで生徒が交流、親睦を深めました。

万場高校の役割と課題

本校水産コースは、清流神流川の水産資源を守り、資源増加に向けた取り組みを継続する役割があります。
アユについては、冷水病や生育不良の問題の克服、県水産試験場や地元漁協と連携した中間育成アユの放流が課題です。ヤマメは、2年経過すると採卵が可能なので「資源増殖」の中心として位置づけ完全養殖を目指します。将来、中間育成アユと孵化・育成したヤマメを、地元児童生徒が放流することを目指します。ニジマスは、放流はできませんが6次産業化に向けた取り組みが課題です。
その一方で、平成27(2015)年度入学生より、本校募集定員は80名から64名(1学級32名)になります。県内では、山間部における中学校卒業者数が大幅に減少し、他にも4校が同様の減員の対象となっています。本校は少子化が顕著な中山間地域にありますが、水産を学んだ高校生が地域社会に貢献し自然環境保護に取り組み、次世代へ継承していくことが大切だと考えます。(了)

※ ソミュール液=10~ 30%の食塩水。燻製を作る際の、塩漬け用の液。

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